半導体の設計には、EDA(Electronic Design Automation)と呼ばれるソフトウェアが不可欠です。EDA市場をリードするCadenceとSiemens EDA(旧Mentor Graphics)は、それぞれ異なる強みと特徴を持つ有力な選択肢です。今回は、両社のツールを比較し、どちらがあなたのニーズに合っているのかを検討します。
Cadence(ケーデンス):アナログ/ミックスシグナル設計の王者
Cadence(ケーデンス)は、アナログ/ミックスシグナル設計、検証、サインオフツールにおいて卓越した実績を持つEDAのリーディングカンパニーです。近年はAI駆動設計にも注力し、設計効率の向上を追求しています。
Cadence(ケーデンス)の強み
- アナログ/ミックスシグナル設計の expertise: 高度なアナログ/ミックスシグナル回路設計に不可欠なツール群を提供し、高精度なシミュレーション、解析、検証を実現します。
- PCB設計ツール: 業界標準のPCB設計ツール「Allegro」を提供。回路設計からレイアウト、製造まで、一貫した設計フローをサポートします。
- 豊富なIPコア: 幅広いIPコアのポートフォリオを提供し、設計期間の短縮とリスク軽減に貢献します。
- AI駆動設計: AI技術を活用した設計ツールを開発し、設計の自動化、最適化を推進しています。
Cadence(ケーデンス)の主要ツール
- Virtuoso: アナログ/ミックスシグナル設計プラットフォーム
- Allegro: PCB設計ツール
- Genus Synthesis Solution: 論理合成ツール
- Innovus Implementation System: 配置配線ツール
- JasperGold: フォーマル検証ツール
- Xcelium: ロジックシミュレーションツール
Siemens EDA:デジタル設計と検証のスペシャリスト
Siemens EDAは、デジタル設計、検証、サインオフツールに強みを持つEDAプロバイダです。特に、DFT(Design for Test)とテストソリューションにおいて高い評価を得ています。
Siemens EDAの強み
- デジタル設計の expertise: 複雑なデジタル回路設計に対応する高性能なツール群を提供し、設計の効率化と品質向上を支援します。
- DFTソリューション: 高品質なテスト容易化設計を実現するための包括的なDFTソリューションを提供。
- 幅広い適用分野: 自動運転、IoT、航空宇宙など、様々な分野の設計ニーズに対応するソリューションを提供しています。
- PLMとの連携: SiemensのPLM(Product Lifecycle Management)ソフトウェア「Teamcenter」との連携により、設計データの一元管理と情報共有を促進します。
PLMとの連携とは
PLMとの連携とは、製品ライフサイクル管理(PLM) システムと他のシステムを連携させることです。
PLM (Product Lifecycle Management) とは、製品の企画から設計、製造、販売、保守、廃棄に至るまでのライフサイクル全体を管理する手法です。PLMシステムは、製品に関するあらゆる情報を一元管理し、関係部門間で共有することで、製品開発の効率化、品質向上、コスト削減などを実現します。
PLM連携によって、PLMシステムと他のシステムが持つ情報を共有し、連携させることで、さらに大きな効果を得ることができます。
連携対象となるシステム
- ERP (Enterprise Resource Planning): 企業全体の資源を管理するシステム。
- SCM (Supply Chain Management): サプライチェーン全体を管理するシステム。
- CRM (Customer Relationship Management): 顧客との関係を管理するシステム。
- CAD (Computer Aided Design): 設計を支援するシステム。
- CAM (Computer Aided Manufacturing): 製造を支援するシステム。
- MES (Manufacturing Execution System): 生産現場の情報を管理するシステム。
PLM連携のメリット
- データの一貫性向上: 各システム間でデータが共有されるため、データの重複や矛盾を防止し、一貫性を保つことができます。
- 業務効率の向上: 情報共有がスムーズになり、各部門の業務効率が向上します。
- リードタイムの短縮: 情報共有により、設計から製造までのリードタイムを短縮できます。
- コスト削減: 無駄な作業や在庫を削減することで、コストを削減できます。
- 品質向上: 情報共有により、設計ミスや製造ミスを減らし、品質を向上させることができます。
- 顧客満足度向上: 顧客のニーズを的確に把握し、製品開発に反映することで、顧客満足度を向上させることができます。
Siemens EDAとPLM連携
Siemens EDAは、SiemensのPLMソフトウェアである Teamcenter と連携することができます。これにより、EDAツールで作成された設計データなどをTeamcenterで一元管理し、他の部門と共有することが可能になります。
例えば、、、
- 回路設計者が作成した回路図を、Teamcenterに保存し、製造部門と共有する。
- 製造部門は、Teamcenterから回路図を参照し、製造工程を計画する。
- 販売部門は、Teamcenterから製品情報を入手し、顧客に提供する。
Siemens EDAの主要ツール
- Calibre: 物理検証ツール
- Tessent: DFTツール
- Questa: 機能検証ツール
- Xpedition: PCB設計ツール
- Mentor Graphics QuestaSim: ロジックシミュレーションツール
- FormalPro: フォーマル検証ツール
Cadence vs Siemens EDA:どちらを選ぶべきか?
最適なEDAツールは、設計対象、設計フロー、必要な機能、予算によって異なります。
- アナログ/ミックスシグナル設計が中心: Cadence
- デジタル設計が中心で、DFTが重要: Siemens EDA
- PCB設計: Cadence (Allegro)
- AI駆動設計: Cadence
- Siemens PLMとの連携: Siemens EDA
両社のツールを評価し、プロジェクトのニーズに最適なものを選択するべき、といえます。
Cadence(ケーデンス)とSiemens(ジーメンス)の比較表
Cadence(ケーデンス)とSiemens(ジーメンス)の比較表をどうぞ。
機能 | Cadence | Siemens EDA |
強み | アナログ/ミックスシグナル設計、検証、サインオフ | デジタル設計、検証、サインオフ、DFT |
PCB設計 | Allegro | Xpedition |
論理合成 | Genus Synthesis Solution | – |
配置配線 | Innovus Implementation System | – |
物理検証 | – | Calibre |
DFT | – | Tessent |
機能検証 | – | Questa |
AI駆動設計 | 注力 | – |
PLM連携 | – | 可能 |
DFTとは
DFTは Design For Test の略で、日本語では テスト容易化設計 と呼ばれます。
LSIやVLSIなどの集積回路は、非常に複雑な構造をしています。そのため、製造後に正しく動作するかをテストすることは非常に重要ですが、複雑な回路をそのままテストするのは困難です。そこで、DFTという設計手法を用いることで、回路のテストを容易にするための工夫を設計段階から組み込みます。
DFTの主な目的は、、、
- テストの効率化: テストにかかる時間とコストを削減します。
- テスト品質の向上: より高い故障検出率を実現します。
- テスト容易性の向上: テストの実施を容易にします。
DFTを実現するための具体的な技術をあげると、、、
- スキャン設計: 回路内のフリップフロップを直列に接続し、外部からテストパターンを入力できるようにする技術。
- メモリBIST (Built-In Self-Test): メモリにテスト回路を組み込み、自己診断を可能にする技術。
- ロジックBIST: 論理回路にテスト回路を組み込み、自己診断を可能にする技術。
- 境界スキャン: チップ間の接続をテストするための技術。
DFTのメリット
- 製造コストの削減
- 開発期間の短縮
- 製品品質の向上
- 故障解析の容易化
DFTの適用分野
DFTは、以下のような分野で広く利用されています。
- LSI、VLSIなどの集積回路設計
- FPGA (Field-Programmable Gate Array) 設計
- ASIC (Application Specific Integrated Circuit) 設計
Siemens EDAとDFT
Siemens EDA (旧Mentor Graphics) は、DFTツールにおいて業界をリードする存在です。Tessent™ というツールファミリーで、スキャン設計、メモリBIST、ロジックBISTなど、様々なDFT技術に対応したツールを提供しています。
まとめ
CadenceとSiemens EDAは、どちらも強力なEDAツールを提供しており、半導体設計の進化を支えています。
半導体の進化がスマホやPC、AIの進化につながっています。
それぞれの強みと特徴を理解し、最適なツールを選択することで、高品質なチップを効率的に設計することができます。