半導体は「作って終わり」ではない
ニュースでよく耳にする「TSMC(台湾)」や「NVIDIA(米国)」という名前。
しかし、世界中で使われている半導体チップは、彼らだけで完成するわけではありません。
実は、製造されたばかりの半導体は、そのままではただの「シリコンの破片」であり、使うことができません。
ここで登場するのが、今回解説するOSAT(オーサット)です。
半導体産業を影で支え、近年その技術的価値が急上昇しているこの業態について、分かりやすく解説します。
OSATとは何か?
OSATは、Outsourced Semiconductor Assembly and Test の略称です。
日本語では「半導体組立・検査受託企業」と呼ばれます。
一言で言えば、「半導体の『後工程』を専門に請け負う会社」です。
半導体の製造は大きく2つのフェーズに分かれます。
前工程(Front-end): シリコンウェハーの上に微細な回路を描き込む工程(TSMCなどのファウンドリが担当)。
後工程(Back-end): チップを切り出し、パッケージに封入し、検査する工程(ここがOSATの領域)。
料理に例えるなら、ファウンドリが「最高のピザ生地と具材を焼き上げる(前工程)」役割なら、OSATは「それを箱に詰め、カットし、宅配できる状態にして検品する(後工程)」役割と言えます。
OSATの具体的な2つの役割
OSATの業務は、名前の通り「Assembly(組立)」と「Test(検査)」の2つが柱です。
まずはマンガで役割を確認していきましょう。

① Assembly(組立・パッケージング)
ウェハーから切り出された繊細なチップ(ダイ)は、そのままでは空気中のゴミや衝撃で簡単に壊れてしまいます。また、電子機器の基板に接続するための「足」もありません。
保護する: チップを樹脂やセラミックで覆い、熱や衝撃から守ります。
つなぐ: チップ上の微細な電極と、外部の端子を金線(ワイヤボンディング)や突起(バンプ)で電気的に接続します。
② Test(検査)
出荷される半導体が正常に動作するか、不良品がないかを厳しくチェックします。
選別: 電気を通し、高温・低温などの過酷な環境下でも動作するかテストします。
信頼性保証: 不良品が市場に出回るのを防ぐ「最後の門番」の役割を果たします。
なぜ今、OSATが注目されているのか?
以前は、後工程は「単なる梱包作業」と見なされ、付加価値が低いと思われていました。しかし現在、OSATの技術力こそが半導体の性能を左右する時代になっています。
その理由は「ムーアの法則の限界」です。
ムーアの法則とは: 半導体の回路を微細化(小さく)すればするほど、性能が上がりコストが下がるという経験則。
現在、回路の微細化は物理的な限界に近づき、開発コストも天文学的になっています。
そこで、「1つのチップを極限まで小さくする」のではなく、
「複数の異なるチップをパズルのように組み合わせて、1つの高性能なパッケージにする」という技術が主流になりつつあります。
これを「先端パッケージング(Advanced Packaging)」と呼びます。
3D積層技術やチップレット技術など、高度な組立技術を持つOSAT企業の存在感が爆上がりしているのです。
代表的なOSAT企業
世界市場では、台湾と中国、アメリカの企業が大きなシェアを持っています。
ASE Technology(台湾): 世界シェアNo.1の巨人。圧倒的な生産能力を持つ。
Amkor Technology(アメリカ): 世界シェアNo.2。自動車向けなどに強みを持つ老舗。
JCET(中国): 中国最大のOSAT企業。
日本企業も、特定の技術分野や材料・製造装置において、これらのOSAT企業を支える重要な役割を担っています。
OSAT企業と半導体エコシステムの協力関係

OSAT企業群とそのほかの半導体企業との協力関係を見ていきましょう。
図に示した通り、NVIDIAやAMDなどのファブレス企業から、TSMCなどのファウンドリー企業に半導体チップ製造の依頼が来ます。
その後、半導体チップを作りこんだ半導体ウエハをOSAT企業に送り、加工、パッケージング、テストなどを行い、自動車メーカーやデータセンターなどに提供されます。
まとめ:OSATは「下請け」から「パートナー」へ
OSATはもはや、単なる製造代行業者ではありません。
AI(人工知能)や自動運転車に搭載される次世代チップの性能を引き出すためには、設計段階からOSATと協力してパッケージング方法を決める必要があります。
「前工程(微細化)」の進化が鈍化する中、「後工程(パッケージング)」の進化がこれからのテック業界の鍵を握っています。
半導体ニュースを見る際は、ぜひ「誰がパッケージングしているのか?」にも注目してみてください。
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