1. Hopperアーキテクチャとは?
Hopperアーキテクチャは、NVIDIAが2022年に発表したデータセンター向けGPUアーキテクチャで、AIやHPC(高性能計算)に特化して設計されています。
名称は**グレース・ホッパー(Grace Hopper)**海軍少将に由来し、コンピュータ科学の発展に貢献した彼女への敬意を表しています。
このアーキテクチャを採用した代表製品が、NVIDIA H100 Tensor Core GPUです。
2. Hopperが登場した背景
近年のAIモデルは、大規模化と複雑化が急速に進んでいます。
例:GPT-3(175Bパラメータ)、GPT-4、生成AIの普及
これらのモデルを学習・推論するには、膨大な計算資源と高速メモリが必要です。
Hopperは、この計算需要の爆発に対応するため、
より高い演算効率
より高速なメモリ帯域
大規模GPU間接続
を実現することを目的に設計されました。
3. Hopperアーキテクチャの主な特徴
3-1. 第4世代Tensor Core
新たに**FP8(8ビット浮動小数点)**に対応
FP8の採用で、FP16比2倍の演算スループット
AI推論・学習の効率を飛躍的に向上
3-2. Transformer Engine
大規模言語モデル(LLM)やTransformerベースAIに特化
FP8とFP16を自動で切り替え、精度と速度を両立
ChatGPTクラスのモデル学習に最適化
3-3. NVLink 第4世代
GPU間の双方向通信帯域:900 GB/s
最大256基のGPUをNVSwitchで接続可能
超大規模クラスタ構築が可能
3-4. 高帯域メモリ(HBM3)
最大80GB HBM3
メモリ帯域:3.35 TB/s
TSMCのCoWoS-Lパッケージを採用し、GPUとメモリを近接実装
3-5. セキュアコンピューティング機能
データセンター向けに暗号化機能を強化
機密性の高いAIモデルや医療データ処理に対応
4. Hopperアーキテクチャのメリット
項目 | Hopper世代のメリット |
---|---|
AI性能 | FP8+Transformer Engineで推論性能最大6倍(A100比) |
HPC性能 | 科学計算・シミュレーションでもFP64性能向上 |
スケーラビリティ | 最大256 GPUクラスタでペタFLOPS級の計算 |
エネルギー効率 | 演算精度の最適化により、ワットあたり性能向上 |
柔軟性 | AI、HPC、データ分析まで幅広く対応 |
5. 採用事例(2025年時点)
OpenAI / Microsoft Azure
GPT-4や次世代生成AIモデルの学習Google Cloud
LLM推論・強化学習Meta
AI研究(LLaMAなど)NVIDIA DGX H100システム
データセンターAI/HPC統合プラットフォーム
6. Hopperと前世代Ampereの比較
項目 | Hopper (H100) | Ampere (A100) |
---|---|---|
製造プロセス | TSMC 4N (4nm) | TSMC 7N (7nm) |
CUDAコア数 | 16,896 | 6,912 |
Tensor Core | 第4世代 (FP8対応) | 第3世代 (FP16まで) |
メモリ | 80GB HBM3 | 80GB HBM2e |
帯域幅 | 3.35 TB/s | 2.0 TB/s |
NVLink | 第4世代 900 GB/s | 第3世代 600 GB/s |
7. 今後の展望
Hopperは、AI/HPC分野でのデファクトスタンダードとして数年間は主力となる見込みです。
しかし、2025〜2026年には後継の**Blackwellアーキテクチャ(B100/B200 GPU)**が登場予定で、さらに性能・効率が向上すると予測されています。
Hopperで採用されたFP8・Transformer Engine・CoWoSパッケージは、次世代にも引き継がれ、より洗練された形になるでしょう。
8. まとめ
Hopperアーキテクチャは、AI時代における演算効率・スケーラビリティ・エネルギー効率の三拍子をそろえたGPU設計です。
特にFP8対応とTransformer Engineは、生成AIモデルの開発スピードを加速し、AIの商用化・普及に直接的な影響を与えています。
Hopperは単なるGPUではなく、AI計算インフラの新基準ともいえる存在です。