半導体の会社分析

シリコンの未来図 – 技術革新と産業戦略

1. はじめに – 「シリコンの時代」は終わらない

半導体産業は「ポスト・シリコン」時代を見据えた新材料研究(SiC、GaN、グラフェンなど)が進んでいますが、依然としてシリコンは世界の電子機器の主役です。
その理由は、製造技術の成熟・コスト効率・インフラ整備が圧倒的であり、短期的には置き換えが困難だからです。
しかし、AI・5G/6G・自動運転・量子コンピューティングといった新潮流は、シリコンの構造・設計・利用方法に革命を迫っています。


2. シリコン技術の進化最前線

2-1. 微細化の限界とGAAトランジスタ

  • **GAA(Gate-All-Around)**は、従来のFinFETに代わる次世代トランジスタ構造

  • 2nm世代から量産導入(TSMC、Samsung、Intelが2025〜2026年に展開)

  • メリット:リーク電流低減、ドライブ電流増加、省電力化


2-2. High-NA EUVで1nm世代へ

  • ASMLのHigh-NA EUV露光機が2025年出荷開始

  • より短波長の光と高開口数レンズで解像度向上

  • 微細化の限界突破と歩留まり改善に寄与


2-3. 3D実装・チップレット化

  • 1枚のシリコン上にすべてを集積する「モノリシックSoC」から、複数ダイを組み合わせるチップレット設計へ移行

  • 例:CPU+GPU+NPU+HBMを高密度パッケージ内に統合

  • メリット:開発コスト削減、柔軟な製品構成、製造歩留まり向上


2-4. シリコンフォトニクス

  • 光通信技術をシリコン基板に統合

  • AIデータセンターやHPCでボトルネックとなる電気配線遅延を解消

  • Intel、IBM、Nvidiaなどが開発中


3. 産業戦略 – シリコンを巡る世界の動き

3-1. 米国

  • CHIPS and Science Actで半導体製造の国内回帰を促進

  • Intel、TSMC、Samsungが米国内新工場を建設

  • AI・軍事・宇宙開発向け半導体の国産化が狙い

3-2. 中国

  • 国家プロジェクトで半導体自給率向上を目指す

  • 米国の輸出規制で先端EUV装置は入手困難

  • 28nm〜14nmプロセスの国産化を急ピッチで進行

3-3. 日本

  • ラピダスが北海道千歳で2nm量産ラインを建設

  • SoC設計企業とパワー半導体企業の両輪で再浮上狙い

  • 材料・製造装置分野では世界シェア依然高水準

3-4. 欧州

  • EU Chips Actで半導体製造能力を倍増目標

  • ASML(オランダ)がEUV装置で技術的優位を維持


4. シリコンの未来を決める5つの技術潮流

  1. GAA+High-NA EUVによる微細化の延命

  2. チップレット化+先端パッケージによる性能最適化

  3. シリコンフォトニクスで高速・低消費電力通信

  4. AI特化型プロセッサの多様化

  5. 省エネ・サステナブル製造プロセスの確立


5. 市場見通し(〜2030年)

  • AI/HPC向けシリコン:年平均成長率15%以上

  • パワー半導体(SiC/GaN含む):EV・再エネで急成長

  • ロジック半導体:GAA採用で性能と電力効率を両立

  • 製造拠点分散化:米・日・欧で先端拠点が増加


6. 課題とチャンス

課題

  • 製造コストの高騰(2nm世代で1工場数兆円規模)

  • 技術者不足(設計・製造・パッケージ全工程で深刻化)

  • 地政学リスク(米中対立、台湾有事)

チャンス

  • AI・自動運転・IoTの爆発的需要

  • パッケージ技術革新による性能向上

  • 再生可能エネルギー分野での新市場開拓


7. まとめ

シリコンは「過去の素材」どころか、新しい構造・設計・製造戦略によって未来の中核素材として進化を続けています。
次の10年は、GAA・High-NA EUV・チップレット化・シリコンフォトニクスといった革新技術が、シリコンの可能性を限界まで引き出す時代となります。
各国の産業戦略は、この技術潮流と地政学的環境の両方を読み解くことがカギとなるでしょう。