2022年8月に設立されたRapidus(ラピダス)は、日本が30年ぶりに世界最先端の半導体製造に再挑戦するための国家プロジェクトの中核企業です。

北海道千歳市に世界最先端の2nmプロセス工場を建設中であり、2025年には試作ラインが稼働を開始。

2026年に先行顧客向けのデザインキット(PDK)提供、2027年の量産開始を目指しています。

なぜ今、日本が2nm半導体に挑むのか——その背景から最新状況まで徹底解説します。

Rapidus設立の背景:日本半導体産業の復興

1980年代、日本の半導体産業は世界市場の約50%を占める覇者でした。NEC・日立・東芝・富士通などが先端DRAMで世界をリードし、「日本半導体」は品質の代名詞でした。しかし1990年代以降、韓国・台湾勢の台頭、円高、バブル崩壊後の設備投資縮小、そして日米半導体協定による市場開放など複合要因が重なり、日本の半導体産業は急速に競争力を失いました。

2020年代に入り、米中半導体覇権競争・コロナ禍によるサプライチェーン寸断・自動車向け半導体不足が相次いで顕在化し、「半導体は経済安全保障の要」という認識が世界的に広まりました。日本政府はこの危機感を背景に、国内半導体産業の再生を国家戦略として位置づけ、Rapidusの設立を後押ししました。

会社概要

  • 正式社名:Rapidus株式会社
  • 設立:2022年8月10日
  • 本社:東京都千代田区
  • 工場:北海道千歳市(IIM-1:初期製造ライン)
  • 代表取締役社長:小池淳義氏
  • 会長:東哲郎氏(元東京エレクトロン社長)
  • 目標:2nmプロセス半導体の量産(2027年)

株主構成:日本産業界の総力結集

Rapidusは日本を代表する大企業8社が出資して設立されました。

半導体・電機・自動車・通信・金融など多様な産業から出資を集めたことは、Rapidusが特定業界の利益を超えた「国家的プロジェクト」であることを示しています。

トヨタ自動車
ソニーグループ
ソフトバンク
NTT
NEC
デンソー
キオクシア
三菱UFJ銀行

設立時の民間出資総額は73億円でした。

これに対し日本政府(経済産業省)が3,300億円超の補助金を投入しており、実質的には政府主導の官民プロジェクトという性格を持ちます。

2025年時点で政府の補助額は累計1兆円規模に達する見込みです。

なぜ「2nm」なのか:最先端を狙う理由

Rapidusが28nmや5nmではなく、あえて世界最先端の「2nm」を目指す理由は何でしょうか。

理由①:成熟プロセスでは競争できない

28nm・40nm等の成熟プロセスは中国(SMIC等)・台湾・韓国が低コストで大量生産しており、今から参入しても価格競争で勝てません。後発の日本が差別化できるのは「世界最先端」領域のみという判断です。

理由②:AI・次世代技術の需要は最先端プロセスに集中

AIチップ・スーパーコンピューター・次世代通信(6G)・量子コンピューターの補助回路——これらの成長市場で使われる半導体はすべて最先端プロセスを必要とします。2030年代以降も成長が見込まれる分野に、今から製造基盤を持つことが国家戦略上の意義です。

理由③:経済安全保障:地政学リスクの分散

世界の最先端半導体製造の90%以上がTSMC(台湾)に集中しており、台湾海峡有事が発生すればグローバルな半導体供給は壊滅的な打撃を受けます。日本・米国・欧州が自国に先端製造拠点を持つことは、サプライチェーン強靭化の観点から急務です。

Rapidusのコアコンセプト「LSTC」:Rapidusは単なる製造企業ではなく、設計・製造・パッケージング・ソフトウェアを一体提供する「ワンストップ半導体サービス」を目指しています。これを「Logic Semiconductor Technology Center(LSTC)」モデルと呼び、顧客チップの構想段階から量産まで伴走する新しいビジネスモデルです。

Rapidusの重要なマイルストーン

2022/8

Rapidus株式会社設立。日本政府が700億円の補助金を表明。

2022/12

IBMとの技術提携合意。米国アルバニーNanoTechでの共同研究を開始。

2023/9

北海道千歳市での工場「IIM-1」着工式。地元政府・経産省が参加。

2024/3

政府補助金を追加で3,300億円(累計)表明。ASMLからEUV装置搬入開始。

2025/4

千歳IIM-1の試作ライン(パイロットライン)が稼働開始。2nmプロセス試作を開始。

2026

先行顧客向けPDK(プロセス設計キット)提供開始。設計支援サービス本格化。

2027(目標)

量産ライン稼働開始。外部顧客チップの製造受託開始。

Rapidusの組織体制とキーパーソン

役職氏名主な経歴
代表取締役社長小池淳義元ウェスタンデジタル・IBMでの半導体製造経験
取締役会長東哲郎元東京エレクトロン社長・半導体業界の重鎮
最高技術責任者(CTO)中村道治(顧問)元東北大総長・半導体政策立案に関与
技術顧問IBM研究者チームAlbany NanoTechに常駐・2nm技術移転を担当

「ラピダス」という社名の意味

「Rapidus」はラテン語で「速い(Rapid)」を意味します。世界の半導体技術開発が猛スピードで進む中、日本が「速く」追いつき・追い越すという決意が込められています。また英語の「Rapid」とも親和性が高く、グローバルな展開を意識した命名です。

課題と批判

Rapidusに対しては「後発すぎる」「資金が足りない」「技術者が足りない」などの懸念も業界内外から指摘されています。TSMCがN2量産に要した開発コスト・期間と比較した際の実現可能性への疑問は今も消えていません。一方、政府の強力なコミットメント、IBMとの提携、そしてASML装置の確保など、着実な進展も見られます。正念場は2026〜2027年です。

まとめ:30年ぶりの挑戦が始まった

Rapidusは日本の半導体産業が30年の低迷を経て世界最先端に再挑戦する、史上最大の国家的半導体プロジェクトです。2nmという世界最難関のプロセスに挑む試みは、成功すれば日本の技術・経済・安全保障に多大な恩恵をもたらします。2027年の量産開始に向けた正念場を、日本の半導体業界全体が固唾を呑んで見守っています。