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可視光では見れないSiの結晶構造を見る方法【X線回折】

可視光では見れない Si結晶構造を見る X線回折

シリコン(Si)の結晶構造について(100)とか(111)とか結晶の面方位がある、といったことを聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。

そもそもなぜ、結晶構造などを我々は知ることができているのでしょうか。

結晶構造なんて目で見ることは出来ません。

雪の結晶は光学顕微鏡で拡大すればみることができますが、Siの結晶構造は光学顕微鏡ではなにもわかりません。

今回は、Siの結晶構造をどうやって調べるのか、その原理についてざっくり説明していきたいと思います。

シリコンの結晶構造は超微細

Siの結晶構造は非常に細かいもので、肉眼で構造が見分けられるわけではありません。

Si原子と原子の間の距離は、わずか0.24nm(ナノメートル)です。

1nmは、1mの10分の1というとても短い距離です。

目に見えないぐらい小さいのにどうやって構造の形がわかったのだろうかと疑問に思う方も少なくないと思います。

人間の目にとらえられる可視光線の波長は、0.4~0.7μm(マイクロメートル、1mmの1000分の1)程度なので原子間の距離より1000倍以上も長い距離です。

人間は、可視光線の波長より短いものを空間的に識別することはできないので、可視光を使うかぎり、nm単位の結晶構造は見分けられません。

たとえば、光学顕微鏡は、可視光線を使う顕微鏡なので、ある程度の拡大図は見れるのですが、Siの結晶構造は見れないのです。

いくらお金を積んで開発した優れた光学顕微鏡でも、波長が大きすぎるので結晶構造は解析できません。

これは裏を返すと、結晶の構造を調べるためには、波長が1nmより短い光(電磁波)を使えば良いことになります。

波長の短いX線を使った回折で結晶構造を調べる

非常に短い波長の光として用いるのが「X線」です。

X線(エックスせん、英: X-ray)は、波長が1pm – 10nm程度の電磁波のこと。

pm(ピコメートル: 1/1,000,000,000,000 m: 1兆分の1メートル)

nm(ナノメートル: 1/1,000,000,000: 10億分の1メートル)

μm(マイクロメートル: 1/1,000,000 m: 100万分の1メートル)

nm(ナノメートル: 1/1,000,000,000: 10億分の1メートル)

X先の発見者であるヴィルヘルム・レントゲンの名をとってレントゲン線と呼ばれることもある光(電磁波)です。

電磁波ですが放射線の一種でもあり、X線撮影にも使われます。

このX線を結晶に入射して、その回折を見るのです。

回折は、回折格子に光を照射したときに見られる現象です。

回折格子の回折条件は、「隣の溝で回折した光との光路差(d×sinθ)が、光の波長λ(ラムダ)の整数倍になる方向で光が強めあう」というものです。

たとえば回折格子に垂直に光が入射した場合では、以下のように回折されます。

nλ=dsinθ (nは正の整数, n倍の意味で使用)

この式は、ブラッグの回折条件と呼ばれている式です。

dは隣の溝との間隔のこと。

通常はn=1の回折(1次の回折光といいます)が使われることが多いです。

波長λが変わると、上の式に従って回折角θが変わります。

裏を返すと、回折角θを測れば、波長λがわかります。

例えば、

λ=0.5μm(マイクロメートル)、n=1, d=1μmの場合、回折角θは30度とわかります。

波長λが0.6umであれば、回折角θ=37°となります。

波長が0.7umであれば、回折角θ=44°です。

測定では、回折角θだけでなく、その回折角θでの回折光の強さも測定します。

こうして得られた回折光の強さを縦軸に、そして波長を横軸に書いたグラフが「スペクトル」になります。

「回折格子を使って測る波長λと、回折格子の溝dの間隔が同じ程度の大きさ」であることを覚えておきましょう。

この関係が、結晶とX線の関係でもそのまま活用できます。

結晶の構造を見る場合は、波長の極めて短いX線を使います。

回折格子の役割を果たすのは結晶構造(原子の並び方)です。

ここでひとつ注意点があります。

X線は結晶の内部にも進入するので結晶表面の回折だけでなく、内部の原子による回折も一緒に考える必要が出てくるので計算が少し複雑になります。

まあでも大まかな原理的は一緒です。

上のブラッグの回折条件の式を使うことで、X線の波長λと回折角θが測定でわかるはずなので、結果的に結晶を形成している原子間距離dがわかります。

結晶にX線を照射すると回折が起こることを発見したのはドイツのラウエ(1879~1960)です。

そして、この回折現象からブラッグの回折条件を導いたのが、イギリスのヘンリー・ブラッグ(1862~1942)とローレンス・ブラッグ(1890~1971)の二人です。この人達は親子で正規に残る発見を成し遂げています。すごい。。。

X線の回折現象を利用して結晶の構造を調べる方法は、ラウエ法と呼ばれているので知識として覚えておいてもらえるとよいかと思います。

これまでX線を使うラウエ法によって、非常に沢山の物質の結晶構造が明らかになりました。

この功績をたたえて、1914年にはラウエに、そして1915年にはブラッグ親子にノーベル物理学賞が授与されています。