1. 半導体と超純水の関係
半導体チップは、ナノメートル単位の精度で作られる極めて繊細な製品です。
その製造工程では、ウエハー表面にわずかなホコリや金属イオンが残るだけで不良品になってしまいます。
そこで登場するのが超純水(Ultra-Pure Water, UPW)。
洗浄工程で使う水は、不純物をほぼゼロまで取り除いた超純水でなければなりません。
2. どれくらいの量を使うのか?
半導体工場では想像以上の量の超純水が必要です。
目安:300mmウエハー1枚あたり 約2,000〜4,000リットル
大規模工場(最先端ライン)では、1日あたり数万〜数十万トンを消費
世界最大級の工場では、1日にオリンピックプール数十杯分の水が必要
例(参考値)
工場規模 | 生産能力 | 超純水使用量の目安 |
---|---|---|
中規模工場 | 数万枚/月 | 約2万〜5万トン/日 |
大規模工場 | 数十万枚/月 | 約10万〜15万トン/日 |
※実際の数字は工程内容や再利用率によって変動
3. なぜそんなに使うのか?
半導体製造では、洗浄工程が非常に多いからです。
フォトリソグラフィー(露光)後のレジスト除去
エッチング後の残渣除去
CMP(化学機械研磨)後のスラリー洗浄
パターン形成ごとの表面クリーニング
最新チップでは数百回の洗浄工程があり、そのたびに大量の超純水が必要になります。
4. 水の再利用と循環システム
さすがに使いっぱなしでは環境・コスト負担が大きいため、半導体工場では超純水の再生・再利用が行われています。
回収した使用済み水をろ過・脱イオン処理して再び超純水に
再利用率は約70〜80%(最先端工場では90%近くを目指す)
排水は環境基準に適合させて放流
しかし、再利用しても一定量の新たな水資源が必要で、水不足地域では工場立地の大きな課題になります。
5. 環境・社会的な影響
台湾の水不足問題:TSMCなどの大手半導体メーカーは、渇水時に給水車で水を確保した事例あり
アリゾナ州の課題:乾燥地帯に進出した工場が水資源の確保で注目を集める
企業の対応:水使用量削減のための循環システム投資、地域と連携した水資源管理
6. まとめ
半導体工場は、高性能チップの品質を守るために膨大な超純水を消費しています。
ただし、環境負荷や地域資源への影響が大きいため、再利用率向上と水資源管理が業界全体の重要テーマになっています。
今後は「水の効率化」が、最先端半導体工場の競争力の一部になるでしょう。