トランジスタとは、語源をたどるとTransfer Resistorらしい。
さて、トランジスタは、半導体デバイスの代表格である。
トランジスタは、電圧、電流、信号を増幅することができる。
トランジスタといっても、
・MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor 酸化膜-酸化膜-半導体 電界効果トランジスタ)
・バイポーラトランジスタ
などの種類がある。
バイポーラトランジスタは、電子(エレクトロン)と正孔(ホール)の2つのキャリアが電気伝導に直接寄与している半導体デバイスだ。
バイポーラトランジスタの歴史
バイポーラトランジスタは、1947年に、ベル研究所の研究チームによって発明された。
ゲルマニウム(Ge)という半導体基板に、電極として鋭い2本の針を突き立てた、今思えば非常にワイルドなデバイスだった。
トランジスタ動作とは
さてバイポーラトランジスタの理想的な状態を考えていこう。
バイポーラトランジスタは、2つ以上のpn接合を持っているトランジスタだ。
・pnpトランジスタ(2つのpで、1つのnを挟んだトランジスタ)
・npnトランジスタ(2つのnで、1つのpを挟んだトランジスタ)
これら2つともバイポーラトランジスタだ。
pnpトランジスタを考えると、
P+領域(高濃度のp領域)は、エミッタ(Emitter)と呼ばれる。
中央の狭いn領域は、ベースと言う。
ベース幅は、少数キャリアの各山頂に比べて短いのが特徴だ。
そしてもうひとつのp領域(これはそこまで高濃度ではない)は、コレクタ(Collector)と言う。
エミッタのP+領域は、その領域の中ならどこでも一緒(これを不純物分布が均一と表現したりもする)とする。
そのほか、ベースのn領域も、その領域のなかだったら、どこでも同じ濃度。
コレクタのp領域の、その領域の中ならどこでも同じ濃度と考えることにする。
トランジスタの通常動作のことを活性モードと読んだりする。
通常動作=活性モードだ。
活性モードでは、
・エミッタとベース接合は順方向バイアス(VEB>0)
・コレクタ/ベース接合は逆バイアス(VCB<0)
になっている。
バイポーラトランジスタのトランジスタ動作
バイポーラトランジスタの熱平衡状態
まず、熱平衡状態(なにもバイアス・電圧をかけていない状態)の理想的なpnpトランジスタを考えてみよう。
エミッタ、ベース、コレクタからのびている電線は、すべて接地しているとする。
エミッタが一番高濃度のp+領域
コレクタが普通の濃度のp領域
間に入るベースはコレクタの濃度よりも気持ち高濃度のn領域とする。
濃度順番に並べると以下と仮定する。
エミッタ(p+)>ベース(n)>コレクタ(p)
そして、断面構造とあわせてエネルギーバンド図をみていこう。
熱平衡状態では、なにもバイアスがかかっていないので、バイポーラトランジスタに電流は流れない。
つまり、エネルギーバンド図のフェルミ準位は、一定に整うことになる。
熱平衡状態ではなく、外部からバイアス(電圧)がかかると、このエネルギーバンド図が変化してくる。
バイポーラトランジスタの通常動作(=活性モード)を考える
それでは、外部からバイアス(電圧)がかかっている通常動作(=活性モード)のバイポーラトランジスタを考えてみよう。
まずは、ベースを接地して、エミッタとコレクタにバイアス(電圧)をかける、というケースを考えてみる。
ベース接地バイポーラトランジスタの場合は、ベース領域からのびている電線は、入力と出力回路で共用される。
そして、バイアスがかかった状態の拡散層の濃度と空乏層のイメージも一緒に考えてみたい。
通常動作(=活性モード)では、熱平衡状態と比べて、エミッタ/ベース接合の空乏層幅は狭くなっており、コレクタ/ベース接合の空乏層幅は広くなっているのが特徴だ。
さらに通常動作(=活性モード)時は、エミッタ/ベース接合が順方向にバイアスされているので、
・正孔(ホール)は、エミッタ(p+)からベース(n)へ移動する
・電子はベース(n)からエミッタ(p+)へ移動する
欠陥などが存在しない理想的な状態を考えると、上記2つの電流成分がエミッタ電流と言える。
一方で、コレクタ/ベース接合は、逆バイアスされている。
逆バイアスされているので、積極的に電流はながれず、小さな飽和電流が流れている。
ベース幅(Wd)が非常に狭いと、エミッタから注入された正孔(ホール)が、ベース内を移動(拡散)し、ベース/コレクタ接合の空乏層端に到達する。
そして、コレクタ領域に侵入することができる。
この移動構造からエミッタ(放出するもの)とコレクタ(収集するもの、集めるもの)というそれぞれの端子の名前に由来している。
エミッタからベースに注入された正孔が、ベースを通過し、コレクタに到達すれば、コレクタの正孔電流はエミッタから注入された正孔電流にほぼ等しい。
コレクタに近接したエミッタからキャリアを注入することで、逆バイアスされたコレクタ/ベース接合に大きな電流を流すことができる。
これがトランジスタ動作であり、2つのpn接合がお互いに影響し合うほど十分に接近している場合に実現できる。
逆に、2つのpn接合の接合間の距離が大きすぎると、エミッタ/ベース接合から注入されたキャリアがコレクタに到達する前にベース領域で再結合すれば、トランジスタ作用は望めなくなり、せっかくpnp構造をつくっても、バイポーラトランジスタとして動作せず、2つのダイオードでしかなくなる。
バイポーラトランジスタの「電流利得」
通常動作(=活性モード)時の理想pnpトランジスタ内の電流成分を考えてみよう。
空乏層内の再結合電流は考慮しないこととする。
バイポーラトランジスタでも濃度設計や構造設計によっていろいろと性能に良し悪しが出てくる。
いい感じの設計では、エミッタより注入された正孔電流IEmitter,Pが大きくなる(電流の大部分を占める)。
Emitterの頭文字「E」と、ホールのポジティブ電荷(Positive charge)の頭文字「P」から、エミッタからの正孔電流をIEPと表現することもある。
次に、コレクタを流れる正孔電流はICollector,Pと表現する。
そしてベース電流だ。
ベース電流は以下の3つの成分があると考えていこう。
・IEmitter,N:(エミッタから注入された電子電流)
・ICollector,N:(ベースからコレクタへ移動する電子による電流)
・IBase,p=IEmitter,P– ICollector,P:エミッタから注入された正孔電流と、コレクタへ流れる正孔電流の差分
ここで、先程の図にも記載したが、電子電流と電子の流れの向きは逆になるので、ご注意いただきたい。
一方で、正孔電流と正孔の流れは同じだ。
エミッタ、ベース、コレクタに流れる電流を式で整理すると以下のように表現できる。
バイポーラトランジスタの特性で重要なパラメータとして、ベース接地時の電流利得α0がある。
ベース接地時の電流利得α0は次のように表現できる。
これをあえて、IEmitter,pを追記すると以下のようになる。
上記式右辺の第一項はエミッタ効率γと言われ、全エミッタ電流に対する正孔電流の割合を表す指標だ。
イイ感じの設計のバイポーラトランジスタは、この値が高くなる。
そして、ベース伝達率(ベース到達率)αTという新しいパラメータも登場する。
ベース伝達率(ベース到達率)αTは、エミッタから注入された正孔電流が、そのくらいコレクタに到達したかを表す割合を表現している。
つまり、ベース接地時の電流利得α0は以下のように表現できる。
性能の良いバイポーラトランジスタは、IEmitter,pはIEmitter,nより大きくなるように設計されており、ICollector,pはIEmitter,pに近い値になるので、必然的にエミッタ効率γとベース伝達率(ベース到達率)αTは1に近く、したがって、エミッタ効率γとベース伝達率(ベース到達率)αTの掛け算であるベース接地時の電流利得α0も1に近くなる。
コレクタ電流をベース接地時の電流利得α0で表現することもできる。
ベース伝達率(ベース到達率)αTの式を思い出してほしい。
これを変形すると
これをICの式に代入すると、
ここで、右辺の式の第一項に、エミッタ効率γを追記する。
書き方をかえると、
ここで、ベース接地時の電流利得α0は
なので、
そして、
なので、
となる。
なお、右辺第二項のICollector,nは、ベース/エミッタ開放時(IE=0)のコレクタ-ベース電流だ。
ICollector,nをICBOと表現することも可能だ。
ICBOとは、ベース/エミッタ接合を開放したときの、コレクタ/ベース接合間に流れる「漏れ電流」を表現している。
これによって、ベース接地のコレクタ電流ICollectorは、
と書くことができる。