フジクラ株式会社(東証プライム:5803)は、光ファイバー・電線・ボンディングワイヤー・FPCなど、半導体・AIインフラ産業を根底から支える素材・デバイスメーカーです。2026年3月期にはAIデータセンター向け光ファイバー需要が爆発的に拡大し、売上高1兆1,824億円・営業利益1,887億円という創業以来最高の業績を記録しました。

「電線メーカー」のイメージが強いフジクラですが、実は半導体後工程(ボンディングワイヤー)・FPC基板・光電融合デバイスと、半導体業界のサプライチェーン全体に深く根を張る企業です。本記事では最新の事業状況を踏まえ、フジクラと半導体業界の関係を体系的に解説します。

フジクラ株式会社の概要(2026年版)

フジクラ株式会社は1885年(明治18年)創業の総合電線・電装メーカーです。本社は東京都江東区、グループ従業員数は約6万人。東京証券取引所プライム市場に上場しています。

指標2026年3月期実績前年比
売上高1兆1,824億円+20.7%
営業利益1,887億円+39.2%
純利益(予想)1,500億円大幅増
情報通信事業 営業利益1,527億円前年比1.7倍

フジクラの事業は主に3部門から成り立っています。

  • エネルギー&インフラ:電力ケーブル、超電導ケーブル、核融合向け材料
  • エレクトロニクス&オートモーティブ:FPC、ボンディングワイヤー、ワイヤーハーネス、センサ
  • テレコム(情報通信):光ファイバー・光ファイバーケーブル(SWR/WTC)、光接続部品、光電融合デバイス

フジクラの半導体関連事業①:ボンディングワイヤー

ボンディングワイヤーとは、半導体チップ(ICチップ)と基板・リードフレームをつなぐ、直径15〜50μmの極細金属線です。人の髪の毛(約70μm)より細く、半導体後工程(パッケージング工程)のワイヤーボンディング工程で使用されます。スマートフォン・自動車・家電に至るほぼすべての電子機器の半導体パッケージに内包されています。

金ワイヤーから銅・パラジウムコーティング銅ワイヤーへ

かつてのボンディングワイヤーは高品質な金(Au)が主流でしたが、金価格の高騰とともに銅(Cu)ワイヤーへの移行が急速に進みました。フジクラは酸化しやすい銅の弱点を克服したパラジウム(Pd)コーティング銅ワイヤー(PCC)を製品化し、コスト削減と信頼性向上を両立。車載・民生・産業機器向けに幅広く供給しています。

素材特徴主な用途
金(Au)ワイヤー高信頼性・耐食性優秀高信頼性要求品・一部車載
銅(Cu)ワイヤー低コスト・低電気抵抗民生・産業向けパッケージ
Pdコーティング銅(PCC)銅の酸化防止・接合性向上車載・高信頼性デバイス
銀合金(Ag)ワイヤー銀の高導電性活用特定パワー半導体向け

フジクラの半導体関連事業②:フレキシブルプリント基板(FPC)

FPC(Flexible Printed Circuit)は、薄くて曲げられるプリント基板です。フジクラはFPCの国内大手メーカーであり、特に高密度・高多層FPCの分野で高い技術力を持ちます。

FPCの主な用途

  • スマートフォン:カメラモジュール・ディスプレイ接続・折りたたみ機構
  • 車載:カメラ・センサ・ADAS(先進運転支援システム)向け
  • ウェアラブル:スマートウォッチ・医療機器
  • AIサーバー:高速信号伝送・熱管理部材としての需要拡大

近年のAIサーバー需要拡大に伴い、データセンター内の高密度実装向けFPC需要も伸びています。また、HBM(High Bandwidth Memory)などの先端パッケージングにおいてもFPC技術の活用が進んでいます。

フジクラの半導体関連事業③:光ファイバー・光電融合デバイス

フジクラの現在の主力事業であり、AI時代を象徴する成長ドライバーが光ファイバー・光電融合技術です。2026年3月期の情報通信事業の営業利益は1,527億円(前年比1.7倍)と急拡大し、フジクラの収益の柱となっています。

なぜ光ファイバーがAI時代に不可欠なのか

AI学習には数万基のGPUをネットワークで結んだ大規模クラスターが必要です。このGPU間のデータ転送には膨大な帯域幅が求められますが、従来の銅配線では消費電力・発熱・伝送距離に限界があります。これを解決するのが光インターコネクト(光でデータを転送する技術)です。フジクラは「AIの血管」とも称される光ファイバーケーブルのトップメーカーとして、その恩恵を最大限に享受しています。

SWR®/WTC®:AIデータセンター向け高密度光ファイバーケーブル

フジクラのコア製品がSWR(Slotted Core Wrapping Ribbon)およびWTC(Wrapping Tube Cable)と呼ばれる高密度多心光ファイバーケーブルです。従来の丸型ケーブルより大幅に細径・高密度化を実現し、データセンターの配線を劇的に省スペース化します。

  • 2026年3月:国内データセンター向け最多心数となる4,000心SWR®/WTC®を製品化
  • 生産能力を2022年度比で約4倍に引き上げる計画(日米両拠点での大規模投資)
  • 千葉・佐倉市の事業所に約400億円を投じた新工場建設を発表
  • 米国拠点への投資は最大2,600億円を想定

光電融合デバイス(Co-Packaged Optics:CPO)

さらに一歩踏み込んだ技術が光電融合デバイス(光と電気を一つのパッケージに統合したデバイス)です。Co-Packaged Optics(CPO)と呼ばれるこの技術は、スイッチチップと光学部品を同一パッケージに統合することで、消費電力を大幅に削減しながら超高速データ転送を実現します。

CPO市場は2025年から本格的な量産フェーズに入り、2034年まで年率30.6%で成長すると予測されています。フジクラは光ファイバーの世界的トップメーカーとして、このCPO時代に向けた光電融合デバイスの開発・量産化に取り組んでいます。

新中期経営計画(2026〜2028年度):5,300億円投資でさらなる成長へ

2026年5月19日、フジクラは2026〜2028年度の新中期経営計画を発表しました。AIデータセンター向け光ファイバー事業と次世代エネルギー(核融合)分野を2本柱に、3年間で総額5,300億円を投資する大型計画です。

目標2028年度2035年度(長期)
売上高1兆6,000億円2兆8,000億円
営業利益3,150億円5,800億円
主要投資AIデータセンター・核融合・R&D光電融合・次世代エネルギー

特に注目されるのは核融合エネルギー分野への参入です。フジクラが長年培ってきた超電導線材・高機能材料技術を活用し、将来的な核融合エネルギー市場への参入を視野に入れています。

まとめ:フジクラはAI時代の「半導体インフラ企業」へ進化

フジクラの半導体関連事業を2026年の最新情報でまとめると以下の通りです。

  • ボンディングワイヤー:ICパッケージ後工程の必需品。Pdコーティング銅ワイヤーで車載・民生向けに供給継続
  • FPC:スマホ・車載・AIサーバー向けに高密度FPCを展開。HBMなどの先端パッケージにも活用
  • 光ファイバー(SWR/WTC):AI時代の主役製品。生産能力を4倍に拡大し、売上1兆円超・過去最高益を牽引
  • 光電融合デバイス(CPO):次の成長ドライバー。GPUクラスター内の超高速・低消費電力データ転送を担う
  • 新中計(2026〜2028年):5,300億円投資で2028年度営業利益3,150億円・売上1兆6,000億円を目標

かつての「電線メーカー」のイメージは過去のものとなりつつあります。フジクラは今や、AIデータセンターの光配線インフラを世界規模で支える「AIインフラ企業」として、半導体・AI業界において不可欠なサプライヤーの地位を確立しています。

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semi-connect編集室
半導体業界の技術・企業・市場動向を発信するブログ「semi-connect.net」の管理人。半導体プロセス・前工程・後工程からエレクトロニクス企業の財務分析まで、業界の基礎から最新情報をわかりやすく解説します。