はじめに

「酸化ガリウム(Ga₂O₃)」という材料をご存じでしょうか。SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)に次ぐ「次世代パワー半導体の第三の候補」として、近年研究者の間で注目が高まっています。2026年3月、名古屋大学の研究チームが世界で初めてとなる酸化ガリウムの新規結晶成長技術を確立したと発表しました。EV(電気自動車)、宇宙開発、再生可能エネルギーを大きく前進させる可能性を持つこの技術について、わかりやすく解説します。

酸化ガリウムとは?SiCやGaNと何が違う?

酸化ガリウム(化学式:Ga₂O₃)は、ガリウムと酸素から成る化合物で、「ワイドバンドギャップ半導体」の一種に分類されます。バンドギャップとは、半導体の性能を決める基本的な物性値で、数値が大きいほど高電圧・高温環境でも安定して動作できるという特性があります。

主要な半導体材料を比較するとその差は一目瞭然です。従来のシリコン(Si)は約1.1eV(電子ボルト)、現在急速に普及中のSiCが約3.3eV、GaNが約3.4eVであるのに対し、酸化ガリウムはなんと約4.5eVと、これら次世代材料をも上回ります。

このため、酸化ガリウムで作ったパワー半導体は理論上、SiCやGaNよりもさらに高い電圧を扱え、エネルギー損失を少なくできます。電力変換の効率が上がれば、EVの航続距離が伸び、電力インフラのロスが減るなど、社会全体のエネルギー効率向上につながります。

さらに製造コストの面でも酸化ガリウムは優位性を持ちます。SiCウエハは製造に特殊な高温プロセスが必要で高コストですが、酸化ガリウムはシリコンと同様の「融液成長法」でウエハを低コストに作れる可能性があります。高性能かつ低コストという組み合わせは、実用化において決定的な強みです。

名古屋大学が達成した「世界初」の中身

2026年3月、名古屋大学の研究チームは世界で初めてとなる「酸化ガリウムのエピタキシャル成長技術」を確立したと発表しました。

エピタキシャル成長とは、半導体デバイスを作る際に、ウエハ(基板)の上に高品質な薄い結晶層を積み重ねて育てる技術です。この結晶層の品質が、最終的なデバイス性能を大きく左右します。これまで酸化ガリウムは、均一で欠陥の少ない高品質な結晶膜を安定して形成することが難しく、それが実用化への大きな壁になっていました。

名古屋大学が確立した新技術は、この結晶成長の制御性と品質を飛躍的に向上させたとされています。従来手法と比べて結晶欠陥を大幅に低減でき、デバイス特性の安定性が格段に改善されるとのことです。この成果により、酸化ガリウムを使ったトランジスタや整流器(ダイオード)などのパワーデバイスが、実用化に向けて大きく一歩踏み出したと業界関係者は評価しています。

EV・宇宙・再エネ——広がる応用の可能性

酸化ガリウムが実用化されると、どのような分野で活躍が期待されるのでしょうか。

EV(電気自動車)では、バッテリーからモーターへ電力を変換するインバーターにパワー半導体が使われています。酸化ガリウムを採用したインバーターは高い電圧で安定動作し、変換ロスを削減できるため、一回の充電で走れる距離が伸びる、あるいは充電時間が短縮されるといった効果が期待されます。脱炭素社会に向けてEVシフトが加速する中、パワー半導体のさらなる高性能化は自動車メーカーにとって急務です。

宇宙開発においては、宇宙空間の強い放射線環境に対する高い耐性が酸化ガリウムの強みになります。人工衛星や探査機に搭載される電源回路や通信モジュールに使われるパワー半導体は、放射線によって性能が劣化しやすいという課題があります。酸化ガリウムのデバイスが搭載されれば、衛星の寿命延長や信頼性向上に直結します。日本が官民一体で推進する宇宙ビジネスにも大きく貢献しそうです。

再生可能エネルギーの分野では、太陽光や風力で発電した電気を家庭・産業向けに変換するパワーコンディショナーへの搭載が見込まれます。変換効率が上がれば、同じ発電量からより多くの電力を取り出せるようになり、再エネの経済性が向上します。

まとめ

名古屋大学が確立した世界初の酸化ガリウム成長技術は、SiC・GaNに続く第三の次世代パワー半導体材料の実用化へ向けた大きな突破口です。理論性能の高さと低コスト製造の可能性を兼ね備える酸化ガリウムは、EV・宇宙・再エネという成長分野を支える素材として、今後の研究・産業動向から目が離せません。

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semi-connect編集室
半導体業界の技術・企業・市場動向を発信するブログ「semi-connect.net」の管理人。半導体プロセス・前工程・後工程からエレクトロニクス企業の財務分析まで、業界の基礎から最新情報をわかりやすく解説します。