半導体パッケージで「レジン(樹脂)」というと、多くの人がチップを包む黒い封止樹脂を思い浮かべます。しかし実際には、パッケージの土台となる基板の樹脂や、フリップチップの隙間を埋めるアンダーフィル、さらにはチップを静電気から守る搬送材料の樹脂まで、半導体は何種類ものレジンに支えられています。

この記事では、最も中心的な封止樹脂(EMC)を軸に、基板樹脂(BT・ABF)・アンダーフィル・ESD対策樹脂まで、半導体パッケージのレジンを丸ごと体系的に解説します。組成・成形・特性・信頼性・最新動向まで、技術的な視点で掘り下げます。

【全体像】半導体パッケージで使われる「レジン」の種類

まず、半導体パッケージに登場するレジンを整理しておきましょう。役割がまったく異なる複数の樹脂が、それぞれの場所で働いています。

種類役割代表例
封止樹脂(モールド樹脂・EMC)チップ全体を覆って保護・絶縁するエポキシ封止材(EMC)
基板樹脂(積層板・絶縁膜)パッケージの土台=配線基板をつくるBT樹脂、ABF(ビルドアップフィルム)
アンダーフィルフリップチップのチップ‐基板間の隙間を埋めるキャピラリー/モールドアンダーフィル
工程・周辺材料搬送・実装時にチップを保護するESD対策樹脂(トレイ・治具)、ダイアタッチ材

以下では、最も中心的な①封止樹脂を詳しく解説し、続いて②基板樹脂・③アンダーフィル・④周辺材料を順に見ていきます。

封止樹脂(レジン)とは? ―― 4つの役割

封止樹脂とは、半導体チップやワイヤ、リードフレーム/基板を覆って保護する樹脂の総称です。現在の主流はエポキシ系封止材(EMC:Epoxy Molding Compound)で、「モールド樹脂」「封止材」などとも呼ばれます。役割は大きく4つです。

  • 機械的保護:衝撃・振動・応力からチップとワイヤを守る
  • 環境からの保護:水分・イオン・光・ガスの侵入を防ぐ
  • 電気絶縁:端子間・配線間の絶縁を確保する
  • 放熱補助・形状付与:熱を逃がし、扱いやすい形状を与える

封止樹脂は、後工程(ダイボンディング→ワイヤボンディング→モールド(封止)→めっき→個片化)の中で成形されます。

封止樹脂に使われる樹脂の種類(エポキシ・シリコーン・ほか)

封止樹脂は、加熱で硬化して二度と溶けない熱硬化性樹脂が使われます。代表的な樹脂と使い分けは次の通りです。

樹脂特徴主な用途
エポキシ樹脂耐久性・耐水性・電気特性・接着力に優れ、最も一般的汎用IC全般(EMCの主流)
シリコーン樹脂高い耐熱性・耐寒性・絶縁性・化学安定性高温環境、パワー半導体、LED
ウレタン樹脂柔軟性があり耐湿性に優れる(耐熱は劣る)高湿度環境向け
フェノール樹脂高耐熱。エポキシの硬化剤としても重要硬化剤、耐熱用途

このうち圧倒的主流がエポキシ系(EMC)です。以下では、このEMCの中身を見ていきます。

EMC(エポキシ系封止材)の組成

EMCは単一樹脂ではなく、複数材料を配合した複合材料(コンポジット)です。特に重量の大半を占める無機フィラーが特性を決めます。

構成要素主な材料役割
エポキシ樹脂各種エポキシ(ベース樹脂)接着・絶縁・成形の母材
硬化剤フェノール樹脂系(フェノールアラルキル等)エポキシを架橋・硬化させる。低吸水・低反り・難燃の鍵
無機フィラー溶融シリカ(球状)、全体の70〜90wt%超低CTE化・高熱伝導・低吸湿・低コスト化
硬化促進剤イミダゾール、リン系硬化速度の調整
カップリング剤シランカップリング剤フィラー‐樹脂、樹脂‐被着体の密着性向上
難燃剤リン系・金属水酸化物(ハロゲンフリー化が主流)燃焼を抑制
離型剤ワックス類金型からの離型性
着色剤カーボンブラック遮光・識別。パッケージが黒い理由

フィラーがEMCの主役

EMCの性能を握るのが溶融シリカを中心とした無機フィラーです。重量の7〜9割を占め、次の効果をもたらします。

  • 熱膨張率(CTE)の低減:シリコンや金属に近づけ、反り・クラックを防ぐ
  • 熱伝導率の向上:放熱性を高める
  • 吸湿の低減:耐湿信頼性を高める
  • 低コスト化・低収縮:高価な樹脂の使用量と硬化収縮を抑える

近年は、狭い隙間にも流せるようフィラーを微細化・球状化しつつ、充填率を高める設計が進んでいます。あわせて、フェノール系硬化剤を低吸水・低弾性・高Tg・低反り・ハロゲンフリーに最適化することで、先端パッケージの要求に応える材料開発が進んでいます。

封止材に求められる特性

特性求められる方向理由
熱膨張率(CTE)低く、Si・金属に近い反り・剥離・クラックを防ぐ
ガラス転移温度(Tg)高い使用温度域で安定
吸湿性低い耐湿性、リフロー時のクラック防止
熱伝導率高い発熱を逃がす
接着性・低応力高接着・低応力界面剥離(デラミ)を防ぐ
イオン性不純物極小(Cl⁻・Na⁺)アルミ配線の腐食を防ぐ

特にCTEの整合は重要です。封止樹脂・シリコン・リードフレーム(銅や42アロイ)のCTEが食い違うと、温度変化のたびに界面に応力がかかり、剥離・クラック・ワイヤ断線の原因になります。フィラーでCTEを抑えるのは、この応力を減らすためです。

封止の成形方法(モールディング)

方式概要得意な領域
トランスファーモールド固形EMCを加熱・加圧し金型キャビティへ流し込むQFP・QFN・BGAなど量産品全般(主流)
コンプレッションモールド顆粒/液状EMCを供給し圧縮成形大面積・ウェハ/パネルレベル、低ワイヤ変形
液状封止(ポッティング等)液状樹脂を塗布・流し込み硬化COB、特殊形状、少量品

主流はトランスファーモールドです。予熱したEMCタブレットをプランジャーで押し出し、ランナー・ゲートから複数キャビティへ同時充填し、加熱硬化後にポストモールドキュア(PMC)で完全硬化させます。先端用途では、ワイヤ変形やフィラー偏りが起きにくいコンプレッションモールドが、ファンアウトやウェハ/パネルレベル封止で拡大しています。

②基板樹脂 ―― パッケージの“土台”をつくるレジン(BT・ABF)

意外に見落とされがちですが、多くのパッケージの土台となる配線基板(サブストレート)そのものも樹脂でできています。BGAやCSP、CPU/GPU向けのFCBGAなどは、金属リードフレームではなく樹脂製の積層板を骨組みに使います。

BT樹脂(ビスマレイミド・トリアジン)

BT樹脂は、三菱ガス化学が開発した熱硬化性樹脂で、高い耐熱性と優れた電気特性を持ちます。かつて高性能半導体の基板は高価なセラミックが主流でしたが、BT樹脂を用いたBT積層板はセラミックに比肩する性能を、より安く・加工しやすく実現し、1990年代以降のパッケージ基板に広く普及しました。温度変化に強い低反り材であることも、配線が微細化したパッケージ基板で重宝される理由です。BGA・CSPの基板や、FCBGA基板のコア材として、現在も世界中で使われています。

ABF(ビルドアップフィルム)

CPUやGPUのような高密度なFCBGAでは、コア基板の上に絶縁層と配線を何層も積み上げるビルドアップ基板が使われます。この絶縁層に用いられる代表的な樹脂フィルムがABF(Ajinomoto Build-up Film)です。微細配線を多層に形成でき、先端ロジックのパッケージ基板を支える重要材料となっています。

つまり、封止樹脂が「チップを覆う」レジンなら、基板樹脂は「チップを載せる土台」のレジンです。両者はまったく別の材料で、別々の特性が求められます。

③アンダーフィル ―― フリップチップ特有の封止材

チップを裏返してはんだバンプで基板に接続するフリップチップでは、アンダーフィルがチップと基板の隙間(バンプ周囲)を埋めます。チップと基板のCTE差で、はんだバンプには温度変化のたびに集中応力がかかりますが、隙間を樹脂で埋めることで応力をパッケージ全体に分散させ、接合部の寿命を延ばすことができます。

  • キャピラリーアンダーフィル(CUF):実装後、毛細管現象で液状樹脂を流し込む
  • モールドアンダーフィル(MUF):隙間充填と上面モールドを1工程で同時に行う(工程短縮に有利)
  • ノーフローアンダーフィル:チップを載せる前に樹脂を塗布しておく

④ESD対策樹脂・工程材料 ―― チップを静電気から守るレジン

レジンは、パッケージの構成材料だけでなく、製造・搬送の現場でチップを守る場面でも使われます。代表例がESD(静電気放電)対策樹脂です。

シリコンチップは静電気に非常に弱く、搬送トレイや治具との摩擦で生じた静電気で、簡単に損傷します。そこで、静電気を逃がす(静電気拡散性をもつ)ESD対策樹脂でチップ用のトレイや治具を作り、ハンドリング中のチップを保護します。近年は3Dプリンタ用のESDレジンで、こうした治具・トレイを内製する動きも広がっています。封止樹脂のように製品の一部にはなりませんが、歩留まりとコストを守る“縁の下のレジン”です。

封止樹脂にまつわる信頼性トラブル

  • ポップコーン現象:吸湿した水分がリフロー高温で気化・膨張し、パッケージが内部から割れる。乾燥保管とMSL(吸湿感度レベル)管理で対策
  • デラミネーション(界面剥離):樹脂と被着体の界面が剥がれる。接着性・低応力設計で防ぐ
  • 反り(ワーページ):CTE・弾性率の不整合や硬化収縮で薄型・大型品が反る。実装不良の原因
  • クラック:熱応力・吸湿で樹脂やチップに亀裂が入る

封止の品質管理

封止工程では、樹脂がチップと十分に密着していること充填部に気泡(ボイド)を残さないことが品質上の要点になります。そのために、充填条件の最適化と、樹脂の硬化時間(ゲルタイム)の正確な管理が欠かせません。硬化が速すぎれば充填不良、遅すぎれば生産性低下につながるため、材料ごとに最適な硬化挙動を把握することが重要です。

封止樹脂の最新動向

  • 低反り(ロウワーページ)化:ファンアウトや大型・薄型パッケージ向け
  • フィラーの微細化・高充填化:FCBGAや2.5D/3D実装の狭い隙間に対応
  • 高熱伝導化:パワー半導体・高発熱AIチップ向け
  • 低誘電(低Dk・低Df)化:AIチップ間の高速通信・高周波で信号損失を抑える
  • パネルレベル封止(PLP)対応:顆粒/液状EMC+コンプレッション成形が伸長
  • 環境対応(グリーン化):ハロゲンフリー難燃、鉛フリーリフロー耐性

よくある質問(FAQ)

Q. 封止樹脂と基板樹脂(BT)は何が違いますか?

封止樹脂はチップを覆って保護するレジン(EMC)、基板樹脂はチップを載せる土台=配線基板をつくるレジン(BTやABF)です。同じ「樹脂」でも役割も材料もまったく異なります。

Q. 封止材はエポキシ以外も使われますか?

はい。主流はエポキシですが、高耐熱が要るパワー半導体やLEDにはシリコーン、高湿度向けにはウレタンなど、用途に応じて使い分けられます。

Q. なぜパッケージは黒いのですか?

封止樹脂にカーボンブラックを加えているためです。光による誤動作を防ぐ遮光性や、識別・マーキングの視認性のためです。

Q. ESD対策樹脂とは何ですか?

静電気を逃がす性質をもつ樹脂で、チップ搬送用のトレイや治具に使われます。静電気に弱いチップを、ハンドリング中の静電気放電(ESD)から守る役割を担います。

まとめ

  • 半導体パッケージのレジンは封止樹脂・基板樹脂・アンダーフィル・工程材料と多岐にわたる。
  • 主役の封止樹脂(EMC)はエポキシ+溶融シリカフィラー(7〜9割)の複合材料で、低CTE・低吸湿・高接着が信頼性のカギ。
  • パッケージの土台はBT樹脂やABFなどの基板樹脂で、封止樹脂とは別物。
  • フリップチップではアンダーフィルがはんだ接合の寿命を延ばす。
  • 搬送・実装ではESD対策樹脂がチップを静電気から守る。
  • 先端パッケージ向けに低反り・微細フィラー・高熱伝導・低誘電の高機能化が進む。

「レジン」と一口に言っても、半導体パッケージの中では役割の異なる複数の樹脂が連携しています。これらを理解することは、パッケージと後工程全体の信頼性を理解することにつながります。

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semi-connect編集室
半導体業界の技術・企業・市場動向を発信するブログ「semi-connect.net」の管理人。半導体プロセス・前工程・後工程からエレクトロニクス企業の財務分析まで、業界の基礎から最新情報をわかりやすく解説します。