宮崎県の半導体産業が、いま大きな注目を集めている。

2023年から2024年にかけて、旧ソーラーフロンティア国富工場がローム子会社であるラピスセミコンダクタに引き継がれ、総額約3,000億円を投じるSiCパワー半導体の新拠点に生まれ変わった。TSMC進出で一躍脚光を浴びた熊本とは別の文脈で、宮崎県はシリコンアイランド九州の次世代パワー半導体拠点として静かに存在感を高めている。

本記事では宮崎県内に拠点を持つ半導体関連企業を網羅的に整理し、業界最大のトピックであるラピスセミコンダクタ宮崎第二工場の経緯を詳述する。

宮崎県とシリコンアイランド九州──その歴史的文脈

「シリコンアイランド九州」という呼称は、1967年の三菱電機による熊本進出を起点として半導体工場が九州全域に集積してきた歴史に由来する。2000年には九州の集積回路生産額が約1兆4,000億円に達し、日本の半導体生産を牽引した。

宮崎県はその中で、清武町木原地区を核とする工場集積を形成してきた。ラピスセミコンダクタ宮崎工場・旭化成マイクロテクノロジ・シリコンウェーハ加工のSHIN-SEIが隣接するように立地しており、素材加工から製造・設計まで一定のバリューチェーンを構成している。

そして2023年以降、従来の集積に加えて国富町のSiCパワー半導体拠点が加わり、宮崎県の産業地図は大きく塗り替えられた。宮崎県は「新生シリコンアイランド九州の実現」を旗印に掲げ、2023年12月に産学官連携のみやざき半導体関連産業人材育成等コンソーシアムを設立(2025年11月時点79機関参加)、次なる誘致・育成を加速させている。

【最注目】ソーラーフロンティア旧国富工場 → ラピスセミコンダクタ宮崎第二工場

宮崎県の半導体産業を語るうえで、2023〜2024年の最大トピックがこの案件だ。

ソーラーフロンティア国富工場の概要と遊休化

ソーラーフロンティア株式会社(昭和シェル石油系)は宮崎県東諸県郡国富町に太陽電池(CIS薄膜系)の製造工場を持っていた。国富工場は敷地面積約40万m²・延床面積約23万m²という大規模施設で、国内有数の太陽電池生産拠点だったが、太陽電池市場の急速な変化と中国勢の台頭により生産縮小が続き、工場資産が遊休化していた。

ローム株式会社との基本合意・資産取得の経緯

日付出来事
2023年7月12日ソーラーフロンティアとローム株式会社が旧国富工場の資産売却に関する基本合意を締結
2023年10月末(予定)売却完了を当初予定していた時期
2023年11月7日ローム(子会社ラピスセミコンダクタを通じて)が資産取得完了を発表
2023年12月21日宮崎県・国富町・ラピスセミコンダクタの三者立地協定締結

なお、ソーラーフロンティアは資産売却後も施設の一部をリースバックする形で継続利用している。資産取得の対象は遊休になっていた部分であり、工場全体の完全移転ではない点に留意が必要だ。

ラピスセミコンダクタ宮崎第二工場の概要

取得した土地・建物を活用して、ラピスセミコンダクタ(ローム100%子会社)はSiCパワー半導体の製造拠点「宮崎第二工場」を整備した。

項目内容
所在地宮崎県東諸県郡国富町田尻1815番地
製品SiCパワー半導体・SiCウェーハ
敷地面積約40万m²
延床面積約23万m²
総設備投資額約3,000億円(2029年度までの計画)
雇用計画2026年度末までに約700名
試験生産開始2024年11月末
政府支援安定供給確保支援基金から最大1,300億円近くの補助(東芝等との合算)

SiC(炭化ケイ素)パワー半導体はEV・再生可能エネルギー・産業機器の電力制御に使われる次世代デバイスで、従来のシリコン(Si)に比べて損失が低く高温動作が可能だ。ローム・ラピスはSiCパワー半導体で世界的な競争力を持ち、宮崎第二工場はその生産能力増強の中核拠点として位置づけられている。

なお、2024〜2025年にかけてEV市場の需要拡大ペースが当初想定より鈍化しており、量産フル稼働のタイムラインに変動が生じている可能性がある。最新の稼働状況はローム公式情報を確認されたい。

半導体デバイスメーカー

ラピスセミコンダクタ株式会社 宮崎工場(既存拠点)

所在地:〒889-1601 宮崎県宮崎市清武町木原727

ローム株式会社の100%子会社。宮崎市清武町に置く既存の宮崎工場(第一工場)は、モノシリックIC・パワー半導体(IGBT・SiC)・MEMS・高周波デバイスを製造する。6インチウェーハを主軸に月産6万枚規模の生産能力を持ち、従業員は約696名(2022年時点)。LSIからMEMSまで幅広いデバイスを手がけるニッチファンドリーとして機能しており、国富町の第二工場整備と合わせてラピスセミコンダクタにとって宮崎は最重要生産県となっている。

旭化成マイクロテクノロジ株式会社

所在地:〒880-0805 宮崎県宮崎市橘通東5丁目3-10

旭化成エレクトロニクスの100%子会社として2002年3月に設立。事業内容はアナログ・ミックスドシグナルLSIの設計開発に特化しており、製造機能は持たないファブレス設計会社だ。ホール素子・磁気センサーIC・電流センサーなどのアナログ半導体設計で高い技術力を持つ。2026年4月時点の従業員数は116名。製品はスマートフォン・車載・産業機器向けに広く使われている。

旭化成マイクロシステム株式会社(延岡工場)

所在地:宮崎県延岡市

旭化成グループの半導体製造子会社で、車載向けアナログ・デジタル混載LSI・ホール素子・電子コンパスを製造している。6インチ・8インチのデュアルライン体制で月産約2.4万枚規模を持ち、従業員数は約800名と宮崎県内最大規模の半導体製造拠点の一つだ。

なお2020年10月に工場火災が発生し、一時的に代替生産体制に移行した経緯がある。現在(2026年時点)の生産正常化状況については旭化成グループの公式情報を参照されたい。

半導体材料・加工メーカー

株式会社SHIN-SEI

所在地:〒889-1601 宮崎県宮崎市清武町木原58-13

シリコンウェーハの切断・研磨加工を専業とする中小企業。1980年にウェーハラッピング(研磨)工程を導入し、1984年に現在地へ移転してスライシング(切断)工程を追加、2007年には6インチウェーハの切断対応を開始した。設備はワイヤーソー・スライシングマシン・NC面取り機・ラッピングマシン・洗浄機など。従業員約32名の専門性の高い加工企業として、地域の半導体エコシステムを下支えしている。

宮崎県の半導体政策と今後の方向性

宮崎県は2023年12月19日、産学官連携による「みやざき半導体関連産業人材育成等コンソーシアム」を設立した(2025年11月時点で79機関参加)。ラピスセミコンダクタ宮崎工場・宮崎大学・宮崎県工業技術センター・地元高専などが参加し、SiCプロセスやアナログ設計を担える技術者の育成プログラムを展開している。

政府側も2023年12月、ローム・ラピスセミコンダクタと東芝が合計3,800億円以上の設備投資(宮崎県・石川県)を行うと発表し、経済産業省の安定供給確保支援基金から最大1,300億円近くの補助が決定している。

企業・工場所在地主な製品・事業規模感
ラピスセミコンダクタ宮崎第二工場国富町田尻SiCパワー半導体・SiCウェーハ投資3,000億円・700名雇用計画
ラピスセミコンダクタ宮崎工場宮崎市清武町IC・IGBT・MEMS・高周波デバイス従業員約696名
旭化成マイクロテクノロジ宮崎市橘通東アナログ・混載LSI設計従業員116名(設計専業)
旭化成マイクロシステム延岡市車載アナログ混載LSI・ホール素子従業員約800名
SHIN-SEI宮崎市清武町シリコンウェーハ加工従業員約32名

まとめ

宮崎県は熊本のTSMC誘致ほど大きく報道されることはなかったが、ラピスセミコンダクタを核としたSiCパワー半導体の産業集積という独自の強みを着実に形成しつつある。

旧ソーラーフロンティア国富工場という「負の遺産」をSiCウェーハ・パワー半導体の最新拠点に転換し、3,000億円の投資計画・700名の雇用創出・政府補助1,300億円という規模の大型プロジェクトが動いている。清武町木原地区の既存集積と国富町の新拠点が連携することで、宮崎県は「SiCパワー半導体の量産を一貫して担う県」という新しい産業的アイデンティティを獲得しようとしている。

TSMC後の半導体誘致・生産拡充の波が九州全体に広がるなか、宮崎県の動向は今後も注目に値する。

※本記事の企業情報・投資計画は各社公式発表・宮崎県公式資料・政府資料等に基づきます。計画値と実績は変動する場合があります。最新情報は各社・各機関の公式情報をご確認ください。

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semi-connect編集室
半導体業界の技術・企業・市場動向を発信するブログ「semi-connect.net」の管理人。半導体プロセス・前工程・後工程からエレクトロニクス企業の財務分析まで、業界の基礎から最新情報をわかりやすく解説します。