AIサーバーの問題は電力だけではありません。消費した電力は最後、すべてになります。その熱を逃がす冷却ファンで世界的な存在感を持つのが、長野県に生産拠点を置く山洋電気(東証プライム: 6516)です。2026年7月29日に発表された第1四半期決算は、売上+33.5%・営業利益+138.1%という、AI特需を絵に描いたような内容でした。

本記事では、山洋電気とはどんな会社か、冷却ファン「San Ace」がなぜAIサーバーで選ばれるのか、そしてサーボモーターを通じた半導体製造装置とのつながりまで解説します。

山洋電気とはどんな会社?

項目内容
社名山洋電気株式会社
証券コード6516(東証プライム)
創業1927年(約100年)。本社東京、主力生産拠点は長野県
事業(社内カンパニー制)サンエース(冷却ファン) ②エレクトロニクス(電源装置・UPS等) ③モーション(サーボモーター・ステッピングモーター)
2026年3月期実績売上収益1,073億円(+9.7%)、営業利益115.5億円(+45.5%)、純利益85億円(+50.8%)
2027年3月期計画売上収益1,288億円(+20.0%)、営業利益162億円(+49.6%)

「冷やすファン」「電気を供給する電源」「動かすモーター」——地味ながら、あらゆる産業機器の裏方を3点セットで押さえる構成です。そのすべてに、いまAIの追い風が吹いています。

最新Q1決算 — 全部門が伸びる「AI特需の教科書」

2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)は、全カンパニーが増収増益でした。

カンパニー売上収益利益牽引役
サンエース(冷却ファン)116.4億円(+19.6%)27.4億円(+76.9%)生成AI・ネットワーク機器向け
モーション(サーボ等)127.3億円(+46.3%)7.7億円(+84.0%)半導体製造装置・ウェハ搬送ロボット向けが大幅増
エレクトロニクス(電源等)63.2億円(+43.0%)6.2億円(黒字転換)再生可能エネルギー・半導体製造装置向け
全社合計322.4億円(+33.5%)営業利益42.1億円(+138.1%)純利益は+184.6%

注目は利益率の跳ね方です。冷却ファンは売上+19.6%に対し利益+76.9%。高性能品へのミックスシフトが起きている証拠で、AIサーバー向けの「特別なファン」が儲けの主役になっていることを示唆します。

冷却ファン「San Ace」— AIサーバーの熱を逃がす技術

GPU1個で1kW級、ラック1本で100kWを超えるAIサーバーの電力は、最終的にすべて熱に変わります。この熱を排出できなければサーバーは数分で止まる——冷却は性能の一部です。山洋電気の「San Ace」ブランドは、サーバー・通信機器向け冷却ファンの世界的な定番として知られます。

  • 二重反転ファン: 前後2つの羽根を逆方向に回す方式の先駆者。高密度サーバーの狭い風路でも、強い圧力(静圧)で風を押し込める。AIサーバーのように部品がぎっしり詰まった筐体ほど、この「押し込む力」が効く
  • 高風量・高静圧・低騒音・省電力の四立: ファン自体もモーターであり、データセンターの消費電力の一部。同じ風量をより少ない電力で出す設計力が競争力になる
  • 信頼性: ファンは回り続ける消耗部品で、止まればサーバーが落ちる。長寿命設計と品質が、ミッションクリティカル用途で選ばれる理由

「液冷の時代が来ればファンは不要になるのでは?」という疑問には、現実は逆と答えられます。液冷はチップの熱を液体に移す技術ですが、その液体の熱を最終的に空気へ逃がすラジエーター部にはファンが必要ですし、液冷が担うのはGPU周辺のみで、電源・メモリ・ストレージなど残りの部品は空冷のまま。むしろ発熱総量の増加は、高性能ファンの需要総量を押し上げています。

半導体製造装置とのつながり — サーボの「大幅増」

今回の決算で見逃せないのが、モーションカンパニーの説明です。会社側は「生成AI関連の設備投資の需要が拡大していることから、半導体製造装置、ウェハ搬送ロボット向けの需要が大幅に増加」と明言しています。

サーボモーターとステッピングモーター(SANMOTIONブランド)は、装置のステージやロボットアームを正確に動かす「筋肉」です。AI→半導体増産→装置・搬送ロボット増産→モーター需要という波及が、冷却ファンとは別ルートで同社に流れ込んでいます。「AIサーバーを冷やすファン」と「AI半導体を作る装置のモーター」の二正面でAI特需を受ける——これが営業利益+138%の構造です。

「電力・熱・動き」— AI波及マップの中の山洋電気

当サイトで追いかけてきたAI投資の波及を並べると、山洋電気の位置がよくわかります。

データセンターでは、IT機器そのものに加えて冷却が電力消費の大きな部分を占めます。「冷却の効率化」は電気代に直結する経営課題であり、高効率ファンは省エネ投資としても選ばれ続けます。

注目点とリスク

  • 競合: ファンでは台湾Delta Electronicsやニデックなど強豪がひしめく。高静圧・高信頼性のハイエンド領域で差別化を維持できるか
  • 液冷シフトの行方: ファン需要は当面増えるものの、冷却アーキテクチャの主導権が液冷側に移れば製品構成の転換が必要になる。同社の電源・モーター技術を含めた総合対応力が試される
  • Q1の勢いの持続性: 営業利益+138%には前年の在庫調整からの回復も含まれる。通期計画(営業利益162億円)の進捗をQ2以降で確認したい

※本記事は企業・業界の解説であり、特定銘柄の売買を推奨する投資助言ではありません。

よくある質問(FAQ)

Q. 冷却ファンはどこのメーカーでも同じではないのですか?

A. 汎用品はコモディティですが、AIサーバー向けは別世界です。高密度筐体に風を押し込む静圧性能、消費電力、騒音、寿命のすべてが要求水準に達する必要があり、二重反転ファンなどの技術蓄積を持つメーカーは限られます。

Q. 液冷が普及したらファンは不要になりませんか?

A. 液冷でも熱の最終出口(ラジエーター・冷却塔)にはファンが必要で、液冷対象外の部品は空冷のままです。発熱総量が増え続ける限り、高性能ファンの需要はむしろ拡大するとみられます。

Q. 山洋電気は半導体業界の企業なのですか?

A. 半導体は作っていませんが、AIサーバーの冷却(San Ace)と、半導体製造装置・ウェハ搬送ロボットの駆動(SANMOTION)という2つの入口で、半導体エコシステムに深く関わっています。

Q. 業績はどれくらいAIに依存していますか?

A. 冷却ファンの生成AI向け、モーターの半導体装置向けが直近の成長を牽引しており、AI関連が業績ドライバーの中心です。一方で産業機械・医療・再エネなど用途は幅広く、単一顧客依存型ではありません。

まとめ

  • 山洋電気は創業約100年の「冷やす・電源・動かす」の裏方トップ企業。Q1は売上+33.5%・営業利益+138.1%とAI特需が直撃
  • 冷却ファン「San Ace」は二重反転ファンの先駆で、高密度AIサーバーの排熱に不可欠。売上+19.6%に対し利益+76.9%と高付加価値品へシフト
  • 液冷時代でもファンは消えない。ラジエーター用途と発熱総量の増加が需要を支える
  • サーボモーターは半導体製造装置・ウェハ搬送ロボット向けが大幅増。冷却と駆動の二正面でAIの恩恵を受ける
  • 通期計画は売上1,288億円(+20%)・営業利益162億円(+49.6%)。競合と液冷シフトの行方が中期の注目点

出典: 山洋電気 2027年3月期第1四半期決算短信(2026年7月29日)山洋電気 2026年3月期決算短信