NVIDIAのAI GPUに使われるABF基板(Ajinomoto Build-up Film:味の素ビルドアップフィルムを絶縁層に使う半導体パッケージ基板)で世界シェア首位に立つイビデン。その生産拠点がほぼすべて岐阜県に集まっていることは、あまり知られていません。

本社は岐阜県大垣市。国内の事業場は10か所で、うち9か所が岐阜県内(県外は愛知県高浜市の衣浦事業場のみ)。さらに自社の水力発電所を3か所保有しています。

この記事では、イビデン公式サイトが公開している拠点情報をもとに、どの事業場で何を作っているのか、いつ開設され、どれだけの広さがあるのかを整理します。2026年に発表された5,000億円投資がどの拠点に向かうのかも、地図の上で確認します。

1. イビデンの国内拠点は13か所

まず全体像です。イビデン公式サイトの国内拠点一覧に記載されているのは、以下の13か所です。

区分名称所在地事業
本社本社・研修センター岐阜県大垣市神田町2-1—
支店東京支店東京都千代田区丸の内2-4-1 丸の内ビルディング29階—
事業場大垣事業場岐阜県大垣市木戸町905電子事業
事業場大垣中央事業場岐阜県大垣市笠縫町100-1電子事業
事業場青柳事業場岐阜県大垣市青柳町300電子・セラミック事業
事業場河間事業場岐阜県大垣市河間町3-200電子事業
事業場大野事業場岐阜県揖斐郡大野町下磯237-1電子事業
事業場神戸事業場岐阜県安八郡神戸町末守1120-1セラミック事業
事業場大垣北事業場岐阜県揖斐郡揖斐川町北方1-1セラミック事業
事業場衣浦事業場愛知県高浜市新田町5-1-7セラミック事業
発電所東横山発電所岐阜県水力発電
発電所広瀬発電所岐阜県水力発電
発電所川上発電所岐阜県水力発電

地名を並べるとはっきりします。大垣市に5か所(本社・大垣・大垣中央・青柳・河間)、揖斐郡に2か所(大野・大垣北)、安八郡に1か所(神戸)。半径20kmほどの範囲に、AI半導体の基板を作る設備が密集しています。

なお「神戸事業場」は「ごうど」と読みます。兵庫県の神戸ではなく、岐阜県安八郡神戸町です。

2. ICパッケージ基板を作るのは5拠点

イビデンの電子事業(ICパッケージ基板)を担うのは、次の5拠点です。

事業場開設敷地面積生産品目
大垣事業場1917年12月75,036㎡ICパッケージ基板
河間事業場1939年8月52,078㎡ICパッケージ基板
青柳事業場1943年11月97,505㎡ICパッケージ基板、グラファイト製品
大垣中央事業場2007年4月113,059㎡ICパッケージ基板
大野事業場——電子事業(公式の拠点一覧に記載)

※大野事業場については、公式サイトの個別ページを参照できなかったため、拠点一覧に記載の所在地・事業区分のみを掲載しています。

※大野事業場については、その後の決算短信(2027年3月期第1四半期)に「昨年度量産稼働を開始した大野事業場の生産が安定推移した」との記載があり、すでに量産が立ち上がっていることが確認できます。

注目したいのは大垣中央事業場です。開設は2007年と最も新しく、敷地面積は113,059㎡で電子事業では最大。ABF基板の需要拡大に合わせて、後から作られた主力工場という位置づけになります。

一方、大垣事業場の開設は1917年(大正6年)。100年以上前から同じ場所で操業が続いています。

3. セラミック事業の4拠点

もうひとつの柱であるセラミック事業は、次の拠点が担います。

事業場開設敷地面積生産品目
衣浦事業場1969年6月170,272㎡触媒担体保持・シール材、グラファイト製品、発泡樹脂製品
大垣北事業場1989年4月104,000㎡SiC-DPF、グラファイト製品、ファインセラミックス製品、高温断熱ウール製品
神戸事業場2010年10月68,239㎡グラファイト製品
青柳事業場1943年11月97,505㎡グラファイト製品(ICパッケージ基板と併設)

ここで半導体と関係が深いのがグラファイト製品です。半導体製造装置の内部で使われる特殊炭素部材で、SiCパワー半導体の製造に欠かせません。4拠点のうち3拠点でグラファイトを作っている点に、この事業の比重が表れています。

セラミック事業の中身とグラファイトの位置づけはイビデンのセラミック事業──DPF苦戦の陰で育つ「半導体装置向けグラファイト」で詳しく扱っています。

4. 開設年で並べると、会社の歴史が見える

公式に開設年が公開されている7拠点を、古い順に並べ替えます。

開設事業場何が起きていた時期か
1917年12月大垣事業場創業期。電力会社としての設備投資
1939年8月河間事業場戦前。化学・カーボン分野へ
1943年11月青柳事業場戦中
1969年6月衣浦事業場高度成長期。唯一の県外拠点
1989年4月大垣北事業場セラミック事業の拡大期
2007年4月大垣中央事業場ICパッケージ基板の増産期
2010年10月神戸事業場グラファイト専用拠点

1917年から2010年まで、およそ100年かけて拠点が積み上がっています。そして最も新しい2拠点(大垣中央・神戸)が、現在の主力であるICパッケージ基板とグラファイトの専用拠点だという並びになります。

イビデンという会社そのものの成り立ちはイビデン完全解説2026──ABF基板世界シェア首位・岐阜発の半導体素材企業の全貌にまとめています。

5. 敷地面積で見る規模感

公式に面積が公開されている7拠点を合計すると、約68万㎡になります。

順位事業場敷地面積事業
1衣浦事業場170,272㎡セラミック
2大垣中央事業場113,059㎡電子
3大垣北事業場104,000㎡セラミック
4青柳事業場97,505㎡電子・セラミック
5大垣事業場75,036㎡電子
6神戸事業場68,239㎡セラミック
7河間事業場52,078㎡電子
—合計680,189㎡—

東京ドームの建築面積(46,755㎡)に換算すると約14.5個分。面積だけで見れば最大の拠点は愛知県の衣浦事業場ですが、こちらはセラミック事業です。半導体基板の生産では、大垣中央が最大という構図になります。

6. 5,000億円投資が向かうのは河間と大野

イビデンは2026年、総額5,000億円規模の設備投資を発表しました。全社売上高を超える規模です。

投じられる先は河間事業場と大野事業場の2拠点。どちらもICパッケージ基板を担う電子事業の拠点です。

拠点所在地位置づけ
河間事業場大垣市河間町1939年開設。既存7拠点で最も敷地が小さい(52,078㎡)
大野事業場揖斐郡大野町下磯大垣市外の電子事業拠点

河間事業場が既存拠点の中で最小だという点は、投資の意味を考えるうえで示唆的です。手狭な拠点に大規模投資を集中させるということは、建て替えか高層化、あるいは隣接地の取得を伴う可能性があります。

投資の内訳・補助金・稼働スケジュールはイビデン5,000億円投資の全内訳──AI需要・経産省補助金・岐阜2拠点の稼働スケジュールで詳述しています。

7. 発電所3か所という異色の資産

半導体部材メーカーが自前の水力発電所を3か所持っているのは、国内では珍しい形です。東横山・広瀬・川上の3発電所は、いずれも岐阜県内にあります。

これは偶然ではありません。イビデンはもともと電力会社として始まった会社です。公式の沿革には、こう記されています。

年社名・出来事
1912年「大垣町吉岡楼において設立総会、揖斐川電力株式会社を設立」
1918年「社名を『揖斐川電化株式会社』に変更」
1921年「社名を『揖斐川電気株式会社』に変更」

電力会社 → 電化 → 電気と社名が移り変わっていることに、事業の重心の動きが表れています。揖斐川の水力で電気を起こし、その電力を使って電気炉でカーボン製品を作る。その延長線上に、半導体装置向けのグラファイトと、ICパッケージ基板があります。

3つの発電所は、その最初期から続く資産ということになります。

半導体の前工程・後工程はどちらも電力を大量に消費します。自社電源を持つことは、電力価格の変動に対する緩衝材にもなります。半導体工場の電力消費については半導体工場はどれだけ電力を使うかで扱いました。

8. なぜ岐阜に集中しているのか

10事業場のうち9か所が岐阜県。この集中は、他の半導体関連企業と比べても際立っています。

企業主要生産拠点の分布
イビデン岐阜県に9拠点+愛知1
マイクロンメモリジャパン広島(東広島)に集約
キオクシア三重(四日市)・岩手(北上)の2拠点

拠点が近接していることには、実務上の意味があります。工程間の輸送距離が短く、人材と技術を拠点間で融通しやすい。100年かけて同じ地域に積み上げてきた結果として、こうした形になっています。

一方でリスクもあります。災害や電力事故が起きたとき、1つの地域に生産が集中していることは分散されていない状態を意味します。ABF基板で世界シェア首位という立場を考えると、この地理的集中は供給網全体の論点でもあります。

ABF基板の供給構造と競合の生産拠点についてはABF基板サプライヤー比較2026──イビデン・新光電工・AT&S・ユニミクロンのシェアと戦略で比較しています。

まとめ:岐阜の一角にAI半導体の基板が集まっている

要点を整理します。

  • 国内拠点は13か所(本社1・支店1・事業場10・発電所3)
  • 事業場10か所のうち9か所が岐阜県。県外は愛知県の衣浦のみ
  • ICパッケージ基板は大垣・大垣中央・青柳・河間・大野の5拠点
  • 最大の電子事業拠点は大垣中央(113,059㎡・2007年開設)
  • 最も古いのは大垣事業場(1917年開設)
  • 公開7拠点の敷地合計は約68万㎡
  • 5,000億円投資は河間・大野に集中
  • 1912年設立の揖斐川電力が出発点。水力発電所3か所を今も保有

NVIDIAのGPUを支えるABF基板が、岐阜県大垣市を中心とした半径20kmほどの範囲で作られている——この事実は、日本の半導体産業の形を考えるうえで覚えておく価値があります。

関連記事:イビデン完全解説2026|イビデン5,000億円投資の全内訳|ABF基板とは?FC-BGAとAI GPUの関係

同じく1つの地域に生産を集約した例として、マイクロン広島工場の全貌も参考になります。岐阜県全体の半導体関連企業は岐阜県の半導体関連企業でまとめています。

出典:イビデン公式サイト「グローバルネットワーク(日本・国内拠点)」および各事業場ページ(大垣・大垣中央・青柳・河間・神戸・大垣北・衣浦)/イビデン公式サイト「沿革」。敷地面積・開設年・社名変更は同社公表値。大野事業場の個別ページは参照できなかったため、拠点一覧の記載のみを掲載しています。