生成AIの普及でデータセンターの消費電力と通信量が爆発的に増え、これまで電気(銅配線)が担ってきたチップ間・ボード間の信号伝送が限界に近づいています。その突破口として、いま半導体業界で最も注目される技術の一つが光電融合(こうでんゆうごう)です。

2025年にはエヌビディアやブロードコムが光電融合を使った製品を相次いで発表し、研究段階から実用化の段階へと移りつつあります。この記事では、光電融合の仕組み・メリット・実装の世代(LPO/NPO/CPO)・シリコンフォトニクス・グローバル各社の動向・日本のIOWN/産総研の取り組み・課題までを、半導体メディアの視点で体系的に解説します。

光電融合とは?

光電融合とは、光信号を扱う回路(フォトニクス)と電気信号を扱う回路(エレクトロニクス)を融合させ、コンピュータの中でやり取りされる電気信号を光信号に置き換える技術の総称です。光と電気を一体化したデバイスは「光半導体」と呼ばれることもあります。

身近な光ファイバー通信も広い意味では光電融合ですが、いま開発が加速しているのは、コンピュータの内部——ボード間やチップ間、さらにはチップ内部の信号を光に置き換えようとする技術です。電気でしか行えなかった信号のやり取りを光に移すことで、省エネ・高速・大容量・低遅延を同時に狙います。

なぜ今、光電融合なのか ―― 電気配線の限界

AIの高性能化に伴い、GPUなどのプロセッサ同士が交換するデータ量は飛躍的に増えています。ところが、銅配線による電気信号の伝送には、次のような物理的な壁があります。

  • 消費電力と発熱:電気信号は伝送中に減衰し、距離が伸びるほど多くの電力を消費して発熱する。AIデータセンターでは、この「信号を動かすための電力」自体が大きな負担になっている
  • 帯域と距離のトレードオフ:銅配線は高速になるほど短距離しか送れず、長距離と高速を両立できない
  • I/O密度の限界:チップから取り出せる電気配線の本数(端子数)に限りがあり、データの「出入り口」がボトルネックになる

光信号は、伝送中の損失が圧倒的に少なく、波長多重(1本の光に複数の波長を乗せる)で大容量を稼ぎやすく、距離が伸びても性能が落ちにくいという特徴があります。電気の弱点を光で補うのが、光電融合の狙いです。

項目電気信号(銅配線)光信号
伝送損失大きい(距離で急増)非常に小さい
帯域(容量)限界が近い波長多重で大容量
距離高速ほど短距離長距離でも高速を維持
消費電力・発熱多い少ない

光電融合の仕組み ―― シリコンフォトニクスと光集積回路

光電融合の中核を担うのが、シリコンフォトニクスです。これは、半導体でおなじみのシリコン基板の上に、光を通す光導波路や光部品を作り込み、電子回路と同じように光回路を集積する技術です。これらを集積したチップを光集積回路(PIC:Photonic Integrated Circuit)と呼びます。

光電融合デバイスは、おおむね次の部品で構成されます。

  • 光源(レーザ):光のもとを作る。外部に置く方式と、チップ上に集積する方式がある
  • 変調器(モジュレータ):電気信号に合わせて光を点滅・変化させ、電気を光に変換(E/O)。マイクロリング型やマッハ・ツェンダー型(MZM)が代表的
  • 受光器(フォトディテクタ):届いた光を電気に戻す(O/E)
  • 光導波路:チップ内で光を運ぶ「配線」

電気↔光の変換を、いかに小さく・低消費電力で・プロセッサの近くで行うかが、光電融合の技術競争の焦点です。

実装の世代 ―― プラガブルからCPO、そしてチップ内へ

光電融合図解2_世代ロードマップ光電融合図解2_世代ロードマップ

光電融合は、電気→光変換を行う場所をプロセッサ(ASIC)に近づけていく方向で進化しています。近づけるほど、電気で送る距離が短くなり、省エネと高速化が進みます。

世代変換を行う場所特徴
プラガブル光トランシーバ装置のフロントパネル(着脱式)現在の主流。交換しやすいが消費電力が大きい
LPO(リニアドライブ)フロントパネル(着脱式)DSPを省いて低消費電力化した中間解
NPO(ニアパッケージ)ASICの近傍(同一基板上)光部品をASICのすぐ隣に配置
CPO(コパッケージ)ASICと同一パッケージ内本命。電気の距離を最短化(後述)
光I/Oチップレットプロセッサのすぐ隣(パッケージ内)光入出力を小型チップ(チップレット)化して直結
オンチップ/光演算チップ内部究極形。演算まで光で行う(実用化は遠い)

※LPO=Linear-drive Pluggable Optics、NPO=Near-Package Optics、CPO=Co-Packaged Optics。

CPO(コパッケージドオプティクス)とは

いま実用化の主戦場になっているのがCPO(コパッケージドオプティクス)です。CPOは、これまで装置の端に着脱式で付けていた光トランシーバ(とDSP)をなくし、電気→光の変換機能をスイッチやプロセッサのASICと同じパッケージの中に取り込む方式です。光ファイバーをパッケージから直接引き出せるため、電気で信号を送る距離が劇的に短くなり、消費電力を大きく削減できます。

重要なのは、CPOが本質的に「先端半導体パッケージング技術」であるという点です。電子回路チップ(EIC)と光チップ(PIC)を3次元的に積層・集積するヘテロジニアス集積(異種集積)がCPOの土台であり、チップレットや2.5D/3D実装といった先端パッケージ技術とそのまま地続きです。光電融合は、後工程・パッケージングの新たな主役になりつつあります。

一方で、CPOには光部品が故障してもパッケージごと交換になりやすい(着脱式のように現場で差し替えられない)という弱点もあり、信頼性の作り込みや、当面の中間解としてのLPOの併存が議論されています。

グローバルの動向(2025〜2026年)

光電融合図解4_NVIDIA_Broadcom光電融合図解4_NVIDIA_Broadcom

エヌビディア(NVIDIA)

エヌビディアは2025年3月のGTC 2025で、シリコンフォトニクスを使ったCPO対応のネットワークスイッチ「Quantum-X Photonics」(InfiniBand)「Spectrum-X Photonics」(Ethernet)を発表しました。Quantum-Xは144ポート×800Gb/s級の大容量を液冷で実現し、光エンジンはTSMCのCOUPEプロセスで製造され、マイクロリング変調器を採用するとされています。エヌビディアは、CPO化によってデータセンター全体で大幅な電力削減が見込めると説明しています。

ブロードコム(Broadcom)

ブロードコムは2021年からCPOを開発しており、102.4Tb/s級のEthernetスイッチ「Tomahawk 6(Davisson)」などを展開しています。プラガブル比で電力効率を大きく改善し、マッハ・ツェンダー型変調器を用いる点がエヌビディアのマイクロリング型と対照的です。

TSMC・その他

製造面では、TSMCのCOUPE(Compact Universal Photonic Engine)が、電子チップ(EIC)と光チップ(PIC)を3D接合する基盤技術として、エヌビディア・ブロードコム双方の鍵を握っています。このほか、光I/Oチップレットを手がけるAyar Labsやインテル、Lightmatter、Celestial AIなど、多くのプレーヤーが参入しています。「CPOの本格的な立ち上がりは2026年」との見方が広がっています。

日本の動向 ―― IOWN・NTT・産総研

光電融合図解5_日本の動向光電融合図解5_日本の動向

NTTのIOWNと光電融合デバイス

日本ではNTTが、2019年に発表した次世代ネットワーク構想「IOWN(アイオン)」のもと、オール・フォトニクス・ネットワークを推進しています。NTTは、光電変換モジュールをLSIの直近に同一基板上で実装する「光チップレット」、半導体レーザを薄膜状に作る「メンブレン化合物半導体技術」、光の位相・振幅まで扱う「デジタルコヒーレント信号処理」などを開発。2023年には光電融合事業を担うNTTイノベーティブデバイスを設立し、研究から事業化へ動いています。

産総研の光電融合研究センター

産業技術総合研究所(産総研)は、2025年4月に「光電融合研究センター」を発足。2022年には企業連携の「GDC協議会」(次世代グリーンデータセンター用デバイス・システムに関する協議会)を立ち上げ、50社を超える電機・化学メーカーが参加しています。「光」に強い産総研と「電」に強い企業が連携し、CPO(光電コパッケージ)などの開発を進めています。経済産業省も、光電融合を日本の半導体産業が世界と戦うための重要技術と位置づけています。

日本はフォトニクス・エレクトロニクス・材料のいずれにも高い技術を持つ一方、エヌビディアやインテルのような大量採用ユーザーが国内にいないことが課題と指摘されています。

光電融合の課題

  • レーザ光源の集積と熱:レーザは熱に弱く、発熱するプロセッサの近くに置く設計が難しい
  • 大量の光ファイバー接続:1パッケージあたり1000本近い光ファイバーを精密に接続・配線する、従来の半導体製造になかった技術が必要
  • 信頼性と交換性:CPOは故障時にパッケージごと交換になりやすく、保守性の作り込みが課題
  • コストとテスト:電気・光・デジタルの多面的な検査が必要で、量産・歩留まり・コストのハードルが高い
  • エコシステムと標準化:部材・製造・実装にまたがるサプライチェーンと標準化の整備が必要

今後の展望 ―― 通信の光化から、演算の光化へ

光電融合図解7_今後の展望光電融合図解7_今後の展望

光電融合は、まず「通信(信号伝送)」を光化し、ボード間→パッケージ内→チップ内へと、変換点をプロセッサに近づけながら段階的に進みます。その先にあるのが、演算そのものを光で行う「光コンピューティング」です。ただし演算の光化は技術的難度が非常に高く、産総研は本格的な実現を2050〜2060年代と見通しています。当面の主戦場は、AIデータセンターのネットワークとプロセッサ周辺のCPOです。

よくある質問(FAQ)

Q. 光電融合と光ファイバー通信は何が違うのですか?

光ファイバー通信も広義の光電融合ですが、いま注目されているのはコンピュータ内部(チップ間・ボード間)の信号を光化する技術です。装置の外をつなぐ通信から、装置やチップの「中」へと光化が進んでいる、と捉えると分かりやすいです。

Q. CPOとシリコンフォトニクスの関係は?

シリコンフォトニクスは光回路をシリコンに集積する基盤技術、CPOはそれを使って光部品をプロセッサと同一パッケージに収める実装方式です。CPOの多くがシリコンフォトニクスで作られます。

Q. 光電融合と半導体パッケージはどう関係しますか?

CPOは、電子チップと光チップを3次元に集積する先端パッケージング(ヘテロジニアス集積)そのものです。チップレットや2.5D/3D実装と地続きで、光電融合は後工程・パッケージングの重要テーマになっています。

Q. IOWNとは何ですか?

NTTが2019年に発表した次世代ネットワーク構想で、ネットワークから端末まで光技術を取り入れるオール・フォトニクス・ネットワークを中核とします。光電融合デバイスはIOWNを支える基盤技術です。

まとめ

  • 光電融合は、コンピュータ内部の電気信号を光に置き換え、省エネ・高速・大容量・低遅延を実現する技術。
  • 背景にあるのは、AI時代の銅配線の限界(電力・発熱・帯域・I/O密度)。
  • 実装はプラガブル→LPO→NPO→CPO→光I/Oチップレット→オンチップと、変換点をプロセッサに近づける方向で進化。
  • 本命のCPOは、シリコンフォトニクスと先端パッケージング(ヘテロジニアス集積)の融合であり、エヌビディア・ブロードコム・TSMCが2025〜2026年に実用化を加速。
  • 日本はNTT(IOWN)・産総研を軸に高い技術を持つが、国内の大量採用ユーザー不在が課題。

光電融合は、通信と半導体の境界を溶かし、AIインフラの電力問題を解く鍵として急速に立ち上がっています。とりわけCPOは「パッケージング技術」としての色彩が濃く、後工程・先端実装の今後を占ううえで見逃せないテーマです。

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半導体業界の技術・企業・市場動向を発信するブログ「semi-connect.net」の管理人。半導体プロセス・前工程・後工程からエレクトロニクス企業の財務分析まで、業界の基礎から最新情報をわかりやすく解説します。