SiCパワー半導体のコストと性能は、実はウェハー(基板)で大半が決まります。シリコンでは「基板は安い脇役」ですが、SiCでは基板がデバイス原価の主役級。先駆者Wolfspeedの経営破綻も、中国勢の攻勢も、8インチ化競争も、すべて「基板」を舞台に起きています。

本記事はSiCクラスターの第2回として、SiCウェハーの作り方・なぜ高いのか・世界シェアと中国勢の台頭・8インチ移行の現在地を解説します。SiCそのものの基礎は「SiCパワー半導体とは?」からどうぞ。

SiCウェハーは何が特別なのか — シリコンとの決定的な違い

シリコンウェハーSiCウェハー
結晶の作り方CZ法(液体から引き上げ)昇華法(気体から成長)
温度約1,400℃2,000℃超
成長速度速い(時間あたりmm級)桁違いに遅い
硬さ普通ダイヤモンドに次ぐ硬さ=加工が大変
主流サイズ300mm(12インチ)150mm(6インチ)→200mm(8インチ)へ移行中

シリコンは融かして固める「鋳造」に近い作り方ができますが、SiCは融点まで熱すると分解してしまうため液体にできません。そこで粉末を2,000℃超で昇華させ、種結晶の上に気体から少しずつ積もらせる「昇華法」で結晶を育てます。窯の中は直接観察できず、温度分布のわずかな乱れが欠陥になる、職人技と装置ノウハウの塊のような工程です。

ウェハーができるまで — 4つの難所

  • ① 結晶成長(昇華法): 数日かけてもインゴットの高さは数cm。シリコンのような2mの単結晶は作れず、1本から取れるウェハー数が根本的に少ない
  • ② スライス: ダイヤモンド並みに硬いため、切断だけで長時間+材料ロスが発生。近年はレーザーで薄く剥がす新技術(ディスコのKABRAなど)が登場し、加工時間とロスの削減が進む
  • ③ 研磨: 硬い素材を原子レベルの平坦さに磨き上げる。ここも時間とコストの塊
  • ④ エピタキシャル成長: 仕上げに、デバイスを作るための高品質な結晶膜を表面に成長させる(これは次回のエピ編で詳述)

「成長が遅い×加工が大変×歩留まりが厳しい」の三重苦。SiCウェハーがシリコンの数十倍の価格になるのは、この構造ゆえです。

ところが今、価格が急落している — 中国勢の攻勢

長年「高くて作れる会社が限られる」のがSiC基板でしたが、状況は一変しました。中国メーカーが大規模投資で参入し、6インチウェハーの単価が大きく下落しています(EE Times Japan)。TankeBlue(天科合達)やSICC(山東天岳)といった中国基板メーカーが外販シェアを急拡大し、かつての「Wolfspeed一強」の構図は崩れました。

価格下落はデバイスメーカーには朗報ですが、基板専業メーカーには死活問題です。基板の値崩れは、垂直統合で基板に巨額投資してきたWolfspeedの経営を直撃した要因のひとつでもあります(詳細は本クラスターのWolfspeed編で扱います)。

市場規模と主要プレイヤー

SiCウェハー市場は2025年の約9.7億ドルから2026年に約11.8億ドル、2031年には約31.5億ドルへ成長すると予測されています(Mordor Intelligence)。単価下落を数量拡大が上回る構図です。

プレイヤー特徴
Wolfspeed(米)長年の基板最大手。経営再建中も基板技術は業界の基準
Coherent(米)旧II-VI。基板大手の一角
SiCrystal(独)ロームの子会社。欧州の主要基板メーカー
SKシルトロン(韓)SKグループ。デュポンの事業買収で参入
TankeBlue・SICC(中)急成長中の中国勢。価格競争の主役
レゾナック(日)基板およびエピタキシャルウェハーの大手。日本の砦

興味深いのは、デバイス首位のSTMicroelectronicsが中国の三安光電と合弁を組み、8インチウェハーを週1万枚規模で生産する工場を立ち上げていることです(2025年生産開始、2028年フル稼働目標)。デバイス大手ですら基板を「買う」から「作る・囲い込む」へ動いており、基板の戦略価値の高さを物語ります。

8インチ移行 — コスト打開の本命

現在の主流は6インチ(150mm)で、2025年時点で市場の53.75%、販売枚数では9割以上を占めます。しかし8インチ(200mm)は年率28.6%で拡大すると予測される成長領域です。

大口径化のメリットは単純で、1枚から取れるチップ数が約1.8倍になり、外周ロスも相対的に減るため、チップあたりの基板コストが大きく下がることです。ただしSiCの8インチは、結晶成長の温度管理も加工もいっそう難しく、「作れること」と「安く量産できること」の間に大きな壁があります。

各社の動きは活発です。ローム(宮崎に8インチ対応新工場)、デンソーと三菱電機、富士電機など日本勢が相次いで8インチ投資を表明し、InfineonやWolfspeedも8インチ量産を進めています。サジェスト検索に「ローム sic 8インチ」「デンソー sic 8インチ」と並ぶほど、投資家の関心も8インチに集中しています。

よくある質問(FAQ)

Q. SiCウェハーはなぜそんなに高いのですか?

A. 結晶成長が2,000℃超の昇華法で極めて遅いこと、ダイヤモンド級の硬さで切断・研磨に時間がかかること、欠陥制御が難しく歩留まりが厳しいことの三重苦のためです。シリコンウェハーの数十倍の価格になります。

Q. 中国製の安いウェハーで日本勢は大丈夫ですか?

A. 汎用の6インチ基板は価格競争が厳しくなっています。日本勢の活路は、品質勝負のエピタキシャルウェハー(レゾナックが大手)や8インチの早期量産、加工装置(レーザースライスなど)といった高付加価値領域です。

Q. エピタキシャルウェハーとは何ですか?

A. 基板の上にデバイス品質の結晶膜を成長させた「デバイスをすぐ作れる状態」のウェハーです。SiCではこのエピ層の品質がデバイス性能を左右します。詳しくは本クラスターのエピタキシャル編で解説します。

Q. 8インチになると何が変わるのですか?

A. 1枚あたりのチップ取得数が約1.8倍になり、チップ単価が下がります。SiC普及の最大の障壁であるコスト問題への最有力の答えで、各社の投資が集中しています。

まとめ

  • SiCウェハーは2,000℃超の昇華法で作られ、成長の遅さ・硬さ・歩留まりの三重苦で高価
  • 中国勢(TankeBlue・SICC)の参入で6インチ単価は下落中。基板の勢力図は激変している
  • 市場は2031年に約31.5億ドルへの成長予測。STと三安の合弁など「基板の囲い込み」が加速
  • 8インチ移行(年率28.6%成長)がコスト打開の本命。ローム・デンソー・三菱電機・富士電機など日本勢の投資も集中

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出典: EE Times Japan「SiCウエハー市場、単価下落で伸び率鈍化」Mordor Intelligence「炭化ケイ素(SiC)ウエハー市場 2026-2031年」