フィジカルAIの「脳」に当たるAI推論チップは注目されますが、脳だけでは動物は動けません。物理世界を認識する「感覚器官」──目・耳・皮膚に相当するセンサーがなければ、フィジカルAIはただの計算機です。

ロボット・自動運転車・スマートファクトリーでは、カメラ(視覚)・LiDAR(空間認識)・mmWaveレーダー(近距離探知)・触覚センサー(触感)・IMU(平衡感覚)という5種類のセンサーが連携して動作します。本記事では、これらのセンサーを支える半導体サプライヤーと技術の差を整理します。

フィジカルAIのセンサーマップ──5種類の役割と担当半導体

センサー種別人間の感覚役割主要半導体企業
イメージセンサー目(視覚)RGB画像・深度情報。物体・顔・テキスト認識ソニー・ON Semiconductor・Samsung
LiDAR(ToF/FMCW)目(空間認識)3D点群で周囲の形状・距離を高精度計測Luminar・Hesai・Innoviz・ソニー(小型)
mmWaveレーダー耳(気配感知)電波で人・物の距離・速度を検知。霧・雨・暗所でも有効Texas Instruments・NXP・Infineon
触覚センサー皮膚(触感)指先・手のひらの圧力・温度・テクスチャを検出Bosch(MEMS)・TE Connectivity・各社新興
IMU(慣性計測装置)三半規管(平衡感覚)加速度・角速度・姿勢角を計測。転倒防止・歩行制御Bosch・TDK(InvenSense)・STMicro・ADI

イメージセンサー──ロボットの「目」を供給するソニー

フィジカルAIの視覚を担うイメージセンサーは、ソニーが世界トップシェアを維持しています。

項目内容
世界シェアソニーが約50%(CMOS イメージセンサー全体)
フラッグシップIMXシリーズ(産業・ロボット・車載・スマートフォン向け)
革新製品IMX500(AI統合センサー):世界初、センサー内にAI処理・メモリを内蔵
ロボット向け強化グローバルシャッター採用:高速移動体(4m/s)でもモーションブラーなし
競合ON Semiconductor(OmniVision)・Samsung・STMicro

IMX500──「センサー内でAI推論が完結する」革新

従来のイメージセンサーは撮影データをSoCに送り、SoC側でAI推論を行います。IMX500はこの流れを根本から変えました。

従来: センサー → データ転送 → SoC(AI推論) → 結果出力
IMX500: センサー内蔵AI → 結果のみ出力(データ転送が不要)

この設計により、カメラから大量の生データを送る通信帯域が不要になります。スマートカメラ・工場検査カメラ・小型ロボットで特に有効です。ノエトラの中核企業であるソニーは、センサーという「フィジカルAIの目」においても主要サプライヤーの立場にあります。

グローバルシャッター vs ローリングシャッター

方式仕組み特性ロボット向き
グローバルシャッター全画素を同時に露光高速移動物体でもゆがみなし◎(必須)
ローリングシャッター行ごとに順次露光高速動作でゆがみ(ジェロ効果)が発生△(静止物体のみ)

ロボットアームが4m/sで動く環境では、ローリングシャッターの映像はゆがんで正確な位置が把握できません。ヒューマノイド・産業ロボット・自動運転向けのイメージセンサーはほぼグローバルシャッターが標準です。

LiDAR──3D点群で「空間の形」を把握する

LiDAR(Light Detection And Ranging)はレーザーを照射して反射光の飛行時間から距離を計測し、3次元の点群データを生成します。カメラが「色と形のテクスチャ」を取得するのに対し、LiDARは「正確な距離と形状」を取得します。

方式原理強み弱み
ToF(Time of Flight)レーザー飛行時間で距離計測低コスト・低消費電力長距離精度がやや劣る
FMCW(周波数変調連続波)ドップラー効果で距離+速度を同時計測速度も取得可能・長距離高精度コスト高・処理複雑
MEMSミラー走査型MEMSミラーでレーザーを走査小型・低コスト走査速度に制限あり

主要LiDARサプライヤー

企業強み・特徴
Hesai Technology(ヘサイ)中国車載・ロボット向けの量産コスト低減。中国EV各社に大量採用
Luminar Technologies米国FMCW方式。Volvo・Mercedes採用。長距離L4向け
Innoviz TechnologiesイスラエルFMCW方式。BMW向け量産で実績
Ouster(Velodyne合併)米国産業・ロボット向けに実績。REA合併でシェア拡大
ソニー日本小型LiDAR深度センサーを提供。IMXシリーズとの統合が強み
RoboSense中国NVIDIA Jetson・DRIVE・Omniverse全プラットフォームに対応

RoboSenseはNVIDIA Jetson・DRIVEの両プラットフォームに対応するLiDARを提供しており、フィジカルAIエコシステムとの統合が進んでいます。

mmWaveレーダー──「見えなくても感知する」センサー

mmWave(ミリ波)レーダーはカメラやLiDARが苦手な環境条件を補う役割を担います。

比較項目カメラLiDARmmWaveレーダー
霧・雨・雪△(性能低下)△(性能低下)◎(影響なし)
暗所△(照明必要)◎(無関係)
速度計測△(計算必要)△(FMCW方式のみ)◎(ドップラー直接計測)
距離精度
テクスチャ・色
コスト

Texas Instruments(TI)はmmWaveレーダーセンサーとNVIDIA Jetson Thor・NVIDIA Holoscanを統合したソリューションを発表しており、人間とロボットが共存する工場での安全距離検知(ASIL対応)として採用が進んでいます。ロボットが人間に近づきすぎると自動で速度を落とす「近接安全システム」の心臓部です。

触覚センサー──ロボットに「皮膚」を与える最急成長セグメント

触覚センサーはフィジカルAIセンサー市場で最も急成長するセグメントです(CAGR 25.8%)。

ヒューマノイドロボットが卵を握る場合、どれほどの力で握れば壊れないかを感知する必要があります。触覚センサーがなければ、ロボットは物体を壊すか、逆に掴み損ねます。

技術原理検知項目特徴
圧抵抗型(Piezoresistive)圧力で抵抗値が変化圧力・荷重シンプル・低コスト。指先センサーに多用
圧電型(Piezoelectric)圧力で電荷が発生動的な力・振動高速応答。素材はPZT・PVDF
容量型電極間の静電容量変化圧力・形状・近接高分解能。手のひら型センサー向け
導電性ゴム型圧縮で導電性が変化分布圧力(皮膚状)大面積対応。ロボットの「人工皮膚」
MEMS型微細加工でセンサーを集積圧力・温度・加速度小型・高精度・量産性高

触覚センサーの実用例

  • Figure 03:指先1本あたり3gの力を検知できる触覚センサーを搭載。繊細な物体の把持が可能
  • Tesla Optimus:指先の圧力センサーで把持力を制御
  • MEMS型+DCNN(深層畳み込みニューラルネット):触れた物体の種類・形状を触感だけで認識する研究が進む

触覚センサーのチップ化(ASIC化)はまだ発展途上です。現状は各ロボットメーカーが独自設計で作り込むケースが多く、汎用の触覚センサーチップが普及すれば部品コストの大幅削減が見込まれます。

IMU──ロボットの「平衡感覚」を支える縁の下の半導体

IMU(Inertial Measurement Unit)は加速度センサー+ジャイロセンサーを組み合わせ、ロボットの傾き・移動速度・回転を計測します。二足歩行ロボットが転倒しないために不可欠です。

企業主要製品強み
BoschBMI系列(MEMSジャイロ)小型・低消費電力。スマートフォンに大量採用の実績
TDK(InvenSense子会社)ICM-4xxxx系列高精度。Apple・Samsung向けの実績がロボットに転用
STMicroelectronicsLSM6DSxx系列産業IoT向けに幅広く採用。低コスト量産に対応
Analog Devices(ADI)ADISシリーズ(精密IMU)高精度・耐振動。産業・航空向けが強み
セイコーエプソンM-V340シリーズ高精度MEMSジャイロ。産業用・ロボット向けに実績

センサーフュージョン──5種類のセンサーを統合する半導体

実際のロボット・自動運転車では、5種類のセンサーを単独で使うのではなく組み合わせます(センサーフュージョン)。この統合処理を行うのがAI推論SoC(Jetson Thor等)です。

組み合わせ取得できる情報用途
カメラ+LiDAR「形状(LiDAR)+色・テクスチャ(カメラ)」自動運転・物体認識
カメラ+mmWaveレーダー「視覚(カメラ)+悪天候時の速度・距離(レーダー)」ADAS・工場安全センサー
LiDAR+IMU「3D点群+自己位置推定(SLAM)」AMR自律移動・マッピング
触覚+カメラ「触感+視覚の同時フィードバック」ヒューマノイド把持作業
全センサー統合完全な空間認識+自己位置+物体操作能力汎用ヒューマノイドロボット

ノエトラとソニー──センサー供給の立場からも重要な役割

ノエトラの中核4社の一つであるソニーは、フィジカルAIに対して2つの側面から貢献します。

  1. ソフト・AI側:Aiboで培った動作AI技術・ロボット向けAIの研究開発
  2. ハードウェア側:世界シェア約50%のIMXイメージセンサー・小型LiDARをロボット向けに供給

特にIMX500のようなAI統合センサーは、ノエトラが開発するフィジカルAI基盤モデルとの組み合わせで真価を発揮します。センサー内蔵AIで一次処理した結果だけをJetson ThorやノエトラのAIモデルに送ることで、推論全体の消費電力と通信帯域を大幅に削減できます。

→ ノエトラの詳細は「ノエトラ(Noetra)とは?フィジカルAI国産基盤モデルの全貌」を参照。

フィジカルAIセンサー市場の規模予測

時期市場規模・動向
2025年ヒューマノイドロボット向けセンサー市場 USD 18.42億ドル
2026〜2032年CAGR25.8%(触覚・圧力センサーが最も急成長)
2032年USD 92.18億ドル規模に拡大予測
成長ドライバーヒューマノイド量産・自動運転普及・スマートファクトリー展開

まとめ

  • フィジカルAIのセンサーは5種類(カメラ・LiDAR・mmWaveレーダー・触覚センサー・IMU)。それぞれが人間の「目・空間認識・気配感知・皮膚・平衡感覚」を担う
  • ソニーIMX500はAI推論をセンサー内で完結させる世界初のAI統合イメージセンサー。データ転送コストを削減しフィジカルAIのエッジ運用を効率化
  • LiDARは形状、カメラは文脈を担う補完関係。センサーフュージョン(統合処理)がAI推論SoCの主要タスク
  • mmWaveレーダー(TI)はカメラ・LiDARが苦手な悪天候・暗所でも機能する。工場の人間との安全共存に不可欠
  • 触覚センサーはCAGR 25.8%で最も急成長するセグメント。指先3gの力検知が量産ヒューマノイドに標準搭載される流れ
  • ノエトラ中核のソニーは「AIモデル側」と「センサー供給側」の両方でフィジカルAIエコシステムに貢献する二刀流の立場

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【参考・引用元】

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