データセンターの建設計画で「電力が確保できない」という話が出ます。ただしこれは、多くの場合発電所が足りないという意味ではありません。

問題は送電網です。電気はあるのに、そこまで運ぶ線に空きがない。そして線を増やすには6〜10年かかります。この記事では、公表資料をもとにその時間差を整理します。

「電力不足」の中身は送電線の空き容量

データセンターのような大規模需要は、特別高圧で電力を受け取ります。そのためには送電線と変電設備につながる必要があり、ここには物理的な容量の上限があります。

電気を作る余力があっても、その電気を通す線の容量が埋まっていれば接続できません。これが「空き容量がない」という状態です。

空きがなくなった3つの理由

  • 送電網は需要が減る前提で作られてきた——日本の電力需要は人口減少と省エネで長く減少基調でした。増強する理由がありませんでした
  • 再生可能エネルギーの接続が増えた——太陽光や風力が空き容量を使っています
  • 需要が特定の地域に集中する——データセンターは利用者や通信網に近い場所へ寄ります

つまり需要が減る前提で設計された網に、急に大口の需要が来たという構図です。

核心|送電線の増強には6〜10年、1.5〜1.8兆円

具体的な数字で見ると、規模がはっきりします。電力広域的運営推進機関(OCCTO)が2024年4月にまとめた北海道本州間連系設備(日本海ルート)の計画です。

項目内容
設備容量200万kW(±525kV双極1回線の直流海底ケーブル)
概算工事費1.5〜1.8兆円程度
概略所要工期6〜10年程度

工事費の内訳はこうなっています。

  • 海域工事:8,700〜11,000億円程度
  • 陸上工事:4,700〜5,100億円程度
  • アクセス線・開閉所工事:1,700億円程度

200万kWは大型原発2基分にあたります。それを運ぶ線1本に、1.5兆円超と最大10年が必要だということです。

しかもOCCTOは、ケーブルの製造・設置工程や長距離の海底送電線工事に向けた事前調整により、工期が相当程度変動する可能性があると注記しています。6〜10年でも楽観的な数字ではありません。

需要は4年で5倍になる|合わない時間軸

一方の需要側の動きです。OCCTOの需要想定では、データセンターと半導体工場の新増設分がこう見込まれています。

年度個別計上された最大需要電力
2026年度83万kW
2030年度420万kW
2035年度762万kW

4年で約5倍です。需要はこの速度で立ち上がるのに、送電線は6〜10年動きません。

これが「電力不足」の正体です。絶対量の不足ではなく、供給側の設備投資が需要の立ち上がりに追いつけない時間差の問題だということです。

妥協案としてのノンファーム型接続

この行き詰まりに対して導入されたのがノンファーム型接続です。日本版コネクト&マネージと呼ばれる取り組みの柱にあたります。

考え方は単純です。接続できる容量をあらかじめ決めず、系統に空きがあるときに送電する。その代わり、混雑しているときは出力の抑制を受け入れるという条件で接続を認めます。

  • 2021年1月——空き容量のない基幹系統で受付開始
  • 2023年4月——下位のローカル系統でも受付開始。空き容量の有無にかかわらず適用

資源エネルギー庁の資料では、2024年2月末時点で申込みが約1,400万kWに達したとされ、ノンファーム型接続が増えれば系統の混雑が発生すると見込まれています。

そして資源エネルギー庁は、系統の検討にあたってデータセンターや半導体工場のような特別高圧需要家を考慮の対象に挙げています。

ただしデータセンターとは相性が悪い

「混雑時は制御を受け入れる」という条件は、データセンターにとって重いという点は押さえておく必要があります。

24時間止められない設備にとって、止まる可能性のある接続は前提が崩れます。結局は自家発電設備や蓄電池を持つ、あるいはそもそも余裕のある地域に立地するという判断になります。

だから立地が動く|秋田だけ変換設備が2セット

先ほどの日本海ルートの設備構成を見ると、興味深い偏りがあります。交直変換設備の配置です。

エリア交直変換設備
後志(北海道)100万kW×2×1セット
秋田100万kW×2×2セット
新潟100万kW×2×1セット

秋田だけが2セットです。北海道の再エネを本州へ流す経路上で、秋田が中継点になる構造です。

秋田でAIデータセンターの誘致が進んでいる背景には、この系統計画があります。電力を確保できる場所にデータセンターが動くという流れは、感覚ではなく設備計画に裏付けられています。

OCCTOの需要想定でも、2025年度と2035年度を比べて北海道と東京が特に増加すると指摘されています。北海道はラピダスの千歳工場と再エネ立地が重なる地域です。

半導体工場にとっての意味

同じ制約は半導体工場にもかかります。むしろ工場のほうが深刻な面があります。

  • 瞬時電圧低下すら許容できない——製造装置は一瞬の電圧変動で処理中のウェハを失います
  • 工場の建設は数年で終わる——送電線の増強を待っていては投資判断が成立しません
  • 用地選定の段階で電力が制約条件になる——水や地盤と並ぶ立地要件です

近年の国内工場の立地が特定地域に集中しているのは、補助金だけでなく電力を引ける場所が限られているためでもあります。

よくある質問

Q. 発電所を作れば解決しますか?

解決しません。問題は発電量ではなく、電気を運ぶ送電網の容量です。発電所を増やしても、そこから需要地まで送る線に空きがなければ使えません。

Q. 送電線の増強にはどれくらいかかりますか?

OCCTOの北海道本州間連系設備(日本海ルート)では、200万kWの増強に概略所要工期6〜10年程度、概算工事費1.5〜1.8兆円程度と見込まれています。しかも資材製造や事前調整で工期が変動する可能性があると注記されています。

Q. ノンファーム型接続なら繋げますか?

繋げますが、条件があります。混雑時に抑制を受け入れることが前提です。止められないデータセンターや半導体工場にとっては、そのまま採用しにくい条件です。

Q. なぜ北海道や東北にデータセンターが集まるのですか?

電力に余裕があり、系統増強の計画が具体化しているためです。日本海ルートでは秋田に交直変換設備が2セット置かれ、北海道の再エネを本州へ運ぶ中継点になります。

Q. 空き容量はどこで確認できますか?

一般送配電事業者が系統情報を公表しています。ただし実際の可否は個別の接続検討で決まるため、公表値だけでは判断できません。

まとめ

  • 「電力不足」の多くは発電量の不足ではなく送電線の空き容量の不足
  • 原因は需要減少を前提に作られた網再エネの接続増需要の地域集中
  • 増強には6〜10年、1.5〜1.8兆円(200万kWの日本海ルートの例)
  • 一方で需要は2026年度83万kW→2030年度420万kWと4年で約5倍時間軸が合わない
  • ノンファーム型接続は妥協案だが、抑制を受け入れる条件は止められない設備には重い
  • 結果として電力を引ける地域へ立地が動く。日本海ルートで秋田だけ変換設備が2セット
  • 半導体工場は瞬時電圧低下すら許容できないため、制約はさらに厳しい

参考・出典