WIP(仕掛品)とは?半導体・製造現場での意味とWIP管理をわかりやすく解説【2026年版】

「製造現場でWIPって言われたけど、どういう意味?」「仕掛品とどう違うの?」——半導体工場や製造業で働き始めると、必ずと言っていいほど耳にするのがWIP(Work In Progress)という言葉です。
WIPは単なる用語ではなく、工場の生産性・納期・コストを左右する「生産管理の中心概念」です。とくに半導体のように工程数が数百にもおよび、製造リードタイムが数か月にわたる業界では、WIPをどう管理するかが工場の競争力を直接決めます。
この記事では、WIPの基本的な意味から、混同しやすいFG・SFG・RMとの違い、そして半導体製造現場ならではのWIP管理の考え方(リトルの法則・サイクルタイム・ボトルネック)まで、図解を交えてわかりやすく解説します。
WIP(仕掛品)とは?
WIPとは Work In Progress(またはWork In Process)の略で、日本語では 「仕掛品(しかかりひん)」 を意味します。
かんたんに言えば、「原材料には手を加えたが、まだ完成品にはなっていない、製造途中の品」のことです。ラインに投入されてから、検査・包装を終えて出荷できる状態になるまでの、すべての“途中段階”の在庫がWIPに含まれます。
WIP=完成品(FG)でも原材料(RM)でもない、製造ラインの「途中」にあるすべての品。
「Work In Progress」と「Work In Process」の違い
どちらも略すと「WIP」で、意味もほぼ同じです。会計・経理の文脈では Work In Process(仕掛品在庫の評価)、生産管理・現場の文脈では Work In Progress(進行中の仕事・モノの流れ)が使われる傾向がありますが、現場では区別せず同義で扱われることがほとんどです。
WIPは「お金」でもある
WIPは現場では「モノ」として扱われますが、会計上は棚卸資産(在庫)として計上される「お金」でもあります。原材料費に加え、ここまで投入した加工費・労務費・経費が積み上がった状態のため、WIPが工場内に滞留しているということは、それだけの資金が現金化されずに眠っていることを意味します。これがWIP管理が経営的にも重要である理由のひとつです。
WIPと混同しやすい用語(RM・SFG・FG)の違い
WIPは、製造の「川上から川下」への流れの中に位置づけると一気に理解しやすくなります。製造現場では、在庫を進捗段階に応じて次の4つに分類します。
| 略語 | 正式名称 | 日本語 | 状態 | 外部に販売できる? |
|---|---|---|---|---|
| RM | Raw Material | 原材料 | 加工前。購入したままの状態 | (基本的に販売対象外) |
| WIP | Work In Progress | 仕掛品 | 製造途中。そのままでは売れない | × |
| SFG | Semi-Finished Goods | 半製品・中間製品 | 製造途中だが、その状態で出荷可能 | ○ |
| FG | Finished Goods | 完成品 | 全工程完了。出荷・販売できる | ○ |
モノの流れとしては、次のように変化していきます。
RM(原材料)→ WIP(仕掛品)→ SFG(半製品)→ FG(完成品)
WIPとSFG(半製品)の決定的な違い
WIPとSFGは「どちらも完成前の在庫」のため、もっとも混同されやすいペアです。見分ける基準はシンプルで、「その状態のまま外部に販売・出荷できるかどうか」です。
- WIP(仕掛品)=製造途中で、そのままでは外部に販売できない状態
- SFG(半製品)=製造途中だが、その状態でも独立して販売・出荷できる状態
たとえば加工食品の缶詰で考えると、中身を加工しているだけの段階はWIP、缶に詰めて密封し(ラベル貼りや箱詰めはまだでも)販売・保管できる状態になればSFG、という具合です。
【ここが本題】半導体製造現場におけるWIP
ここからが、一般的な製造業の解説では語られない半導体ならではのWIPの話です。半導体製造は、ほかの製造業と比べてWIP管理の難易度が桁違いに高い世界です。その理由は大きく3つあります。
① 工程数が数百、リードタイムが数か月
半導体の前工程(ウェハプロセス)は、成膜・フォトリソグラフィ・エッチング・イオン注入・CMPなどを何百回も繰り返します。1枚のウェハが投入されてから前工程を抜けるまで2〜3か月かかることも珍しくありません。つまり、工場の中には常に「途中段階のウェハ(=WIP)」が大量に流れている状態になります。
半導体におけるWIPの代表例を、工程の流れに沿って整理すると次のようになります。
| 段階 | 分類 | 具体例 |
|---|---|---|
| 素材 | RM(原材料) | シリコンウェハ、各種ガス、レジスト、ターゲット材など |
| 前工程の途中 | WIP(仕掛品) | 成膜・露光・エッチング途中のウェハ(ロット単位で流動中) |
| 前工程完了〜後工程前 | SFG(半製品) | 回路形成済みのウェハ(外販やOSATへの委託が可能な状態) |
| 後工程の途中 | WIP(仕掛品) | ダイシング・ボンディング・封止途中のチップ |
| 最終 | FG(完成品) | 検査・マーキング・梱包まで終えた出荷可能なチップ |
ポイントは、前工程を終えたウェハが「SFG(半製品)」として外部に販売・委託できる点です。ウェハを製造するファウンドリと、組み立て・検査を担うOSAT(後工程の受託企業)が分業している現代の半導体サプライチェーンでは、この「半製品としてのウェハ」のやり取りが日常的に発生します。
② 1枚あたりの価値が非常に高い
最先端ロジックの300mmウェハは、前工程を終えた段階で1枚あたり数十万円〜数百万円に達します。WIPが工場内に滞留するということは、それだけ高額な資産が現金化されずに眠り続けることを意味します。半導体工場でWIP管理がシビアなのは、滞留が即、巨額の資金拘束に直結するからです。
③ ロット単位で枚数(k枚・kウェハ)管理される
半導体では、ウェハをロット(通常25枚=1キャリア)単位でまとめて流動させます。WIPの量も「ロット数」や「枚数(ウェハ)」で数えられ、MES(製造実行システム)によって「いまどのロットがどの工程にいるか」がリアルタイムに追跡されます。「WIPが各工程にどう分布しているか」を可視化することが、半導体工場の生産管理の出発点です。
WIP管理が重要な理由 ―― リトルの法則とサイクルタイム

「WIPは少なければ少ないほど良いのか?」というと、答えはノーです。WIP管理の本質を理解するうえで欠かせないのが、リトルの法則(Little’s Law)です。
WIP = スループット × サイクルタイム
(仕掛品量 = 単位時間あたりの生産量 × 1個が完成までにかかる時間)
この式が示すのは、WIP・スループット(生産量)・サイクルタイム(製造リードタイム)の3つは独立ではなく、必ず連動するということです。半導体の現場では、サイクルタイムを「TAT(Turn Around Time)」や「ターン」と呼ぶこともあります。
WIPが多すぎるとどうなるか
- サイクルタイムが延びる:各工程の前に長い「行列(待ち時間)」ができ、1ロットが完成するまでの時間が伸びる
- 資金が拘束される:高額なウェハが大量に滞留し、キャッシュフローを圧迫する
- 品質リスクが上がる:問題が発覚したとき、すでに大量のWIPが影響を受けてしまい、手戻りや廃棄が大規模化する
WIPが少なすぎるとどうなるか
- 装置の稼働率が落ちる:高額な製造装置の前に「流すべきウェハ」がなく、装置が遊んでしまう
- スループットが下がる:とくにボトルネック工程でWIPが枯渇すると、工場全体の生産量が落ちる
つまりWIP管理とは、「サイクルタイムを短く保ちながら、装置を遊ばせない“ちょうどよいWIP水準”を見つける」というバランス調整に他なりません。
ボトルネック工程とWIP ―― TOC(制約理論)の視点

半導体工場のように工程が長くなると、必ずどこかにボトルネック工程(処理能力が最も低く、全体の生産量を律速する工程)が生まれます。たとえば、台数が限られ高価なEUV露光装置などがボトルネックになりやすい代表例です。
TOC(制約理論)の考え方では、工場全体のスループットはボトルネックの処理能力で決まるとされます。そのため、WIP管理の鉄則は次の通りです。
- ボトルネックの前には、適度なWIP(バッファ)を確保する——ボトルネックを絶対に遊ばせないため
- ボトルネック以外の工程で、むやみにWIPを増やさない——どうせボトルネックで詰まるため、上流で作りすぎても滞留が増えるだけ
「全工程をフル稼働させればいい」のではなく、「ボトルネックを基準にWIPの流れを設計する」——これが現代の生産管理の核心です。
適正なWIPを保つための代表的な手法
実際の現場では、次のような手法やシステムを組み合わせてWIPをコントロールします。
- MES(製造実行システム)でのWIP可視化:全ロットの工程位置・滞留時間をリアルタイムに把握し、異常な滞留を早期に検知する
- CONWIP(Constant WIP):工場全体のWIP総量を一定の上限に抑え、完成した分だけ新規投入する方式
- かんばん方式 / プル生産:後工程の必要量に応じて前工程が生産する「引っ張り型」で作りすぎを防ぐ
- ディスパッチング(投入・優先順位ルール):どのロットを次に流すかをルール化し、ボトルネックの稼働とサイクルタイムを最適化する
近年は、これらにAIや機械学習を組み合わせてWIPの最適配分や納期予測を自動化する「スマートファクトリー化」が、半導体後工程を中心に急速に進んでいます。
その他の関連用語(BQA・BQC)
WIP周辺では、検査前の完成品を指す用語が使われることもあります。
- BQA(Before Quality Assurance):品質保証(QA)検査の前の状態
- BQC(Before Quality Control):品質管理(QC)検査の前の状態
これらは「ほぼ完成しているが、まだ最終検査を通っていない」状態で、完成品(FG)に最も近いWIPと言えます。生産数をカウントする際は、製造リードタイムが大きく異なるため、初期工程のWIPとは分けて集計するのが一般的です。
よくある質問(FAQ)
Q. WIPと仕掛品は同じ意味ですか?
はい、同じです。WIP(Work In Progress)の日本語訳が「仕掛品」です。海外拠点や英語のシステム上では「WIP」、日本の会計・現場では「仕掛品」と表記されることが多いですが、指している中身は同一です。
Q. WIPと半製品(SFG)の違いは何ですか?
「その状態のまま外部に販売・出荷できるか」が違いです。販売できないのがWIP(仕掛品)、販売できるのがSFG(半製品)です。半導体では、前工程を終えたウェハがSFGにあたり、ファウンドリからOSATへ受け渡される場面が典型例です。
Q. WIPは少ないほど良いのですか?
必ずしもそうではありません。WIPを減らしすぎると装置が遊んでスループットが落ち、増やしすぎるとサイクルタイムが延びて資金が拘束されます。リトルの法則(WIP=スループット×サイクルタイム)にもとづき、ボトルネックを基準に「適正水準」を保つことが重要です。
Q. なぜ半導体ではWIP管理が特に重要なのですか?
工程数が数百、製造リードタイムが数か月におよぶうえ、ウェハ1枚あたりの価値が非常に高いためです。WIPの滞留が「巨額の資金拘束」と「納期遅延」に直結するため、MESによる徹底した可視化と管理が欠かせません。
まとめ
最後に、この記事のポイントを整理します。
- WIP(Work In Progress)=仕掛品。原材料でも完成品でもない、製造途中のすべての在庫を指す。
- 在庫は RM(原材料)→ WIP(仕掛品)→ SFG(半製品)→ FG(完成品) の順に流れる。WIPとSFGの違いは「そのまま販売できるか」。
- 半導体ではWIPがロット・枚数単位でMES管理され、工程数の多さ・高い単価ゆえにWIP管理の重要度が極めて高い。
- WIP管理の本質はリトルの法則(WIP=スループット×サイクルタイム)にもとづくバランス調整。多すぎても少なすぎても損失が出る。
- ボトルネック工程を基準にWIPの流れを設計するのが、生産性を最大化する鍵。
WIPは「ただの仕掛品」ではなく、工場の生産性・納期・キャッシュフローを映す“鏡”のような存在です。WIPの流れを理解することは、半導体工場の全体像を理解することそのものと言えるでしょう。













