中国地方の半導体産業は2025〜2026年に大きな転換点を迎えている。最大のニュースは米マイクロン・テクノロジーが広島工場に1兆5000億円を投資してHBM新工場を建設する計画だ。政府補助金5000億円が付く国策レベルの案件で、2026年5月に着工し2028年ごろに次世代メモリの出荷を開始する。一方で鳥取県ではシャープ米子が2026年7月に完全閉鎖するなど、半導体産業の集積と撤退が同時に進む局面だ。本記事では5県の企業・工場を最新データで完全解説する。

【この記事でわかること】
・広島県:マイクロン1.5兆円HBM新工場(2026年5月着工)・三菱電機福山300mm Siライン・ディスコ330億円新棟・ローツェ搬送装置
・岡山県:ローム・ワコー笠岡(後工程再編)・三社電機
・鳥取県:シャープ米子2026年閉鎖の背景と地域経済への影響
・島根県:メルコパワーデバイス益田工場(三菱電機グループ)
・山口県:UBE高純度硝酸50%増産・ルネサス山口跡地の行方

中国地方の半導体産業:5県の役割分担

中国地方の半導体産業は一極集中ではなく、5県がそれぞれ異なる工程・製品で産業生態系を形成している。

強み・役割代表企業2026年の最大トピック
広島県DRAM・HBM前工程、パワー半導体前工程、製造装置(切断・搬送)マイクロン・三菱電機・ディスコ・ローツェマイクロン1.5兆円HBM新工場着工
岡山県パワー半導体後工程、半導体部品ローム・ワコー(笠岡)・三社電機ローム国内グループ再編でRAM傘下に
鳥取県(液晶→縮小局面)シャープ米子(閉鎖)シャープ米子2026年7月完全閉鎖
島根県パワーデバイス部品(樹脂成形・プレス加工)メルコパワーデバイス益田工場三菱電機グループの部品供給継続
山口県半導体向け化学品(高純度硝酸)・精密加工UBE株式会社・周南精密加工企業群UBEが高純度硝酸を5割増産へ

【広島県】マイクロン1.5兆円が変える「中国地方の半導体地図」

広島県の半導体産業はマイクロン・テクノロジーの大型投資を軸に急速に注目度が高まっている。三菱電機の300mmパワー半導体前工程、ディスコの精密加工ツール新工場建設、半導体搬送装置のローツェと組み合わさり、広島県は「中国地方随一の半導体集積地」としての地位を確固たるものにしつつある。

広島県の主要半導体企業

企業名所在地主な製品・ライン2026年最新動向
マイクロンメモリジャパン 広島工場東広島市DRAM(現行)→ HBM次世代メモリ(新棟)1兆5000億円投資・政府補助5000億円・2026年5月着工・2028年出荷目標。HBM4向けEUV導入でAI向け高帯域幅メモリの世界3大供給拠点の一つへ
三菱電機 パワーデバイス製作所 福山事業所福山市Siパワー半導体(IGBT・MOSFET)前工程(8インチ・12インチ)2024年9月から300mm(12インチ)Siウェーハのモジュール組立向け供給開始。2021年11月に旧シャープ土地を取得して自社工場に改修。EV向けパワーモジュールの安定供給拠点として機能
フェニテックセミコンダクター広島市パワー半導体(IGBT・ダイオード・整流素子)前工程・後工程旧広島松下電子工業。パナソニックグループから独立した専業受託メーカー。産業・車載向けパワーデバイスを受託生産
シャープ福山レーザー福山市レーザーダイオード(CD・DVD・BDプレイヤー向け)光通信・センシング向けレーザーデバイスの生産継続。シャープグループの光学デバイス専業拠点
エピクルー東広島市化合物半導体ウェーハ(GaAs・GaN)エピタキシャル成長光通信・無線通信向けGaAsウェーハの受託成長

広島県の半導体製造装置メーカー(世界トップ企業が集積)

企業名所在地主な製品2026年最新動向
ディスコ 広島事業所・郷原工場(建設中)呉市半導体ダイシング装置・研削装置・ダイシングブレード(精密加工ツール)330億円を投じた郷原工場(精密加工ツール専用)を2026年2月着工・2028年4月竣工予定。AI半導体の需要急増でダイシング装置の受注が急拡大
ローツェ 東広島工場東広島市ウェーハ搬送ロボット・ロードポート・ミニエンバイロメント(半導体搬送装置全般)国内搬送装置のトップメーカー。TSMCを含む世界全主要ファブに供給。AI向け装置需要増で業績好調。東広島の本社・工場を拡充継続
ホーコス府中市工作機械・半導体製造装置用精密部品半導体装置向け精密加工部品の受注拡大
注目:マイクロン広島 HBM新工場(1.5兆円・2026年5月着工)
これは日本国内の半導体工場への単一投資として、TSMCの熊本工場(第1弾約1兆円)を超える規模だ。マイクロンはSK hynix・Samsungに遅れていたHBM市場で追い上げを図っており、広島工場はHBM4の製造にEUV(極端紫外線)露光装置を新規導入する。政府補助5000億円は「特定半導体基金」を通じた過去最大級の支援額で、2028年の出荷開始を目指す。EUV導入に伴い、広島周辺にはASMLのサービス拠点・EUVレジスト・フォトマスク検査装置が集積し始める可能性が高い。

【岡山県】パワー半導体後工程の静かな産地:ロームグループ・三社電機

岡山県は表立って目立たないが、ロームグループの後工程(アセンブリ・テスト)と特殊パワー半導体(サイリスタ・ダイオード)の生産を担う産地だ。

岡山県の主要半導体企業

企業名所在地主な製品2026年最新動向
ローム・ワコー 笠岡工場笠岡市パワー半導体・ダイオード・抵抗器の後工程(組み立て・テスト)2026年4月のローム国内再編でRAM(ローム・アッセンブリマニュファクチャリング)の中核拠点に。後工程の効率化・自動化を推進
三社電機製作所 岡山工場笠岡市電力用半導体(大容量ダイオード・サイリスタ・IGBT モジュール)インフラ・産業用電力変換器向け特殊パワー半導体に特化。大型設備への安定供給を継続
新日本無線 倉敷工場倉敷市マイクロ波半導体・アナログICJRC(日本無線)グループとして高周波デバイスを継続生産
岡山電気通信 岡山工場岡山市半導体モジュールの実装・アッセンブリEMS(電子機器製造受託)として継続

【鳥取県】シャープ米子2026年閉鎖——液晶撤退が意味するもの

鳥取県の半導体・電子デバイス産業は2026年7月のシャープ米子完全閉鎖というインパクトの大きな出来事に直面している。

シャープ米子閉鎖の経緯

時期出来事
1994年米子富士通として創業(液晶デバイス製造)
2005年富士通から液晶事業を引き継ぎシャープ関連会社へ
2026年1月希望退職者を約160人募集と発表
2026年5月事業終了
2026年7月完全閉鎖(予定)

閉鎖の背景には、中国・韓国メーカーとの液晶パネル価格競争の激化とシャープグループ全体の構造改革がある。シャープ米子での従業員は約160人で、鳥取県知事・米子市長が緊急協議するほど地域経済への影響は大きい。

ただし、鳥取県にはこれ以外にも精密部品メーカーや電子機器組立企業が点在しており、半導体産業がゼロになるわけではない。三洋電機(現パナソニック)の関連製造拠点が引き続き鳥取市内で稼働している。

解説:シャープ米子閉鎖が象徴する「液晶産業の終わり」
シャープはかつて鳥取・三重・大阪堺・天理に液晶パネルの一大拠点を構えていた。しかし中国・台湾のパネルメーカーが規模の経済で価格を下げ続けた結果、日本の液晶パネル生産は相次いで撤退に追い込まれた。シャープ米子の閉鎖はその最終章の一つだ。一方で、同じ液晶工場の跡地(大阪堺工場)がKDDIのAIデータセンターに転用されたように、跡地活用が次の課題となる。

【島根県】三菱電機グループの部品供給拠点:メルコパワーデバイス益田

島根県では三菱電機のパワーデバイス製造を支えるグループ会社が存在感を持つ。

企業名所在地主な製品特徴・動向
メルコパワーデバイス 島根工場益田市パワーデバイス用樹脂成形品・金属プレス品・金型三菱電機パワーデバイス製作所のパートナー会社。精密プレス加工・樹脂成形で三菱電機ブランドのパワーデバイス製品を支える。ISO9001/ISO14001取得済み
島根富士通(現:島根富士通エレクトロニクス)出雲市電子機器・半導体搭載基板の組立製造富士通グループとしてサーバー・通信機器の製造を継続

【山口県】UBEが半導体洗浄用高純度硝酸を50%増産:化学品で存在感

山口県はデバイスメーカーの集積こそ少ないが、半導体の製造工程に不可欠な化学品(高純度薬液)の生産で重要な役割を果たしている。特にUBE株式会社(旧宇部興産)の高純度硝酸は半導体ウェーハの洗浄に使われる基幹材料だ。

山口県の主要半導体関連企業

企業名所在地主な製品・役割2026年最新動向
UBE株式会社(旧宇部興産) 宇部ケミカル工場宇部市高純度硝酸(半導体ウェーハ洗浄液)・特殊化学品既存施設内に新ラインを増設し生産能力を5割増強。2027年度までに2021年度比2倍の生産能力を目標。TSMCを含む先端ファブへの安定供給を強化
ルネサスエレクトロニクス 山口工場(閉鎖済み・跡地活用中)宇部市(旧)マイコン前工程→閉鎖2022年6月に閉鎖。土地(11.8万㎡)・建屋は山口県の企業立地ガイドに未利用工場として掲載。誘致活動継続中
山口セミコンダクター(旧 NEC山口)防府市半導体後工程(アセンブリ・テスト)受託独立系後工程受託企業として継続稼働
デンソー 山口関連製造拠点周南市自動車電子部品・ECU車載半導体搭載モジュールの製造継続
東ソー 南陽事業所周南市(旧 新南陽市)半導体用高純度薬液(フッ酸・アンモニア水)化学コンビナートを活かした高純度薬液の安定供給
注目:UBE 高純度硝酸50%増産(山口県宇部市)
半導体の製造では「ウェーハ洗浄工程」に大量の高純度薬液が必要だ。硝酸・フッ酸・硫酸・アンモニア水など、各洗浄工程に特化した薬液が使われ、不純物レベルはppt(1兆分の1)以下という超高純度が要求される。UBEは1970年代から化学コンビナートで硝酸を製造しており、先端半導体の微細化進行に合わせて品質規格も順次厳格化。2027年度に2倍の生産能力を達成すれば、国内半導体工場への安定供給に大きく貢献する。

中国地方を横断する製造装置・精密加工の集積

中国地方では半導体デバイスだけでなく、製造装置や精密部品のメーカーが広島・岡山を中心に集積している。

企業名拠点主な製品特徴
ディスコ 広島事業所・郷原工場呉市ダイシング装置・グラインダー(半導体切断・薄化)世界シェアトップクラス。330億円新工場が2028年に完成すればさらに生産能力拡大
ローツェ 東広島本社工場東広島市ウェーハ搬送ロボット・FIMS・ロードポート搬送装置で国内最大手。2026年もAI向け装置の需要増で業績好調
岡谷電機産業 岡山工場倉敷市バリスタ・EMC対策部品(半導体保護部品)半導体・電子機器の保護デバイス
中電工 広島広島市クリーンルーム設備工事・半導体設備工事マイクロン・三菱電機の工場設備工事に参画
大陽日酸 中国エリア広島・岡山各地産業ガス・超高純度ガスマイクロン・三菱電機への近接ガス供給

2026〜2028年に注目の動向

  • マイクロン広島 HBM新棟着工(2026年5月):着工が確認され次第、東広島市周辺にASMLサービス拠点・EUVレジストサプライヤー・クリーンルーム工事会社が集積を加速。2028年の出荷開始に向けた装置搬入(2026〜2027年)が一大イベントになる
  • ディスコ 郷原工場竣工(2028年4月):330億円投資の精密加工ツール専用工場が稼働すれば、呉市がダイシングブレードの世界最大生産拠点の一つになる
  • ルネサス山口工場跡地の利活用:11.8万㎡の跡地は山口県が誘致活動中。半導体・データセンター・物流施設などの用途が想定される
  • UBE 高純度硝酸2倍達成(2027年度目標):宇部工場の増設ラインが稼働するタイミングで国内ファブへの供給量が大幅増加
  • 鳥取県の産業代替策:シャープ米子閉鎖後の用地活用・新産業誘致が県・市の最優先課題に。半導体後工程やデータセンター誘致の可能性を模索中

まとめ

中国地方の半導体産業は、1.5兆円投資のマイクロン広島(HBM最前線)、三菱電機・ディスコ・ローツェの装置・デバイスクラスター(広島)、ロームグループの後工程拠点(岡山)、化学品サプライヤー(山口・UBE)という多様な構造で成立している。

シャープ米子の閉鎖は地域経済への痛手だが、マイクロンの巨大投資がそれを補って余りある雇用・経済効果をもたらす可能性がある。東広島市が「九州熊本に続く第2の半導体クラスター」になれるか、2026〜2028年の動向が分岐点だ。

九州の動向は九州の半導体企業・工場マップ、北海道(Rapidus)の動向は北海道の半導体企業・工場一覧も合わせてご覧ください。

ABOUT ME
semi-connect編集室
半導体業界の技術・企業・市場動向を発信するブログ「semi-connect.net」の管理人。半導体プロセス・前工程・後工程からエレクトロニクス企業の財務分析まで、業界の基礎から最新情報をわかりやすく解説します。