「食品添加物や樹脂添加剤を作っている化学会社」──ADEKAをそう認識している人は多いかもしれません。しかし実態は、ALD(原子層堆積)向けプリカーサー材料で世界シェア15%・業界No.1を誇る半導体材料の有力メーカーです。

2026年7月には120億円を投じた新研究棟「半導体イノベーションセンター」を久喜(埼玉県)で本格稼働させ、2035年度に半導体材料単独で営業利益325億円という目標を掲げています。

本記事では、ADEKAとはどんな企業か・なぜ半導体材料に強いのか・主力製品と技術的背景・最新動向を体系的に解説します。

ADEKAとはどんな会社か

項目内容
正式名称株式会社ADEKA
旧社名旭電化工業株式会社(2006年に改称)
創業1917年(電解苛性ソーダ製造が起源)
本社東京都荒川区東尾久7丁目
上場市場東証プライム(証券コード:4401)
主な事業化学品(樹脂添加剤・食品添加物・界面活性剤)+情報・電子化学品(半導体材料)

ADEKAは2006年に「旭電化工業」から社名変更した化学メーカーで、100年以上の歴史を持ちます。売上の構成は大きく「化学品(樹脂・食品・油脂)」と「情報・電子化学品(半導体材料中心)」の2軸ですが、近年は後者の半導体材料事業が急成長し、会社の顔になりつつあります。

なぜADEKAが半導体材料に強いのか──金属錯体の合成技術

ADEKAが半導体材料で世界的な地位を確立した理由は、創業以来培ってきた有機金属錯体の合成技術にあります。

半導体製造のALD(原子層堆積)プロセスで使うプリカーサーとは、薄膜を形成するための「原料ガス」の前段階にあたる有機金属化合物です。この化合物の設計には精密な有機合成と金属配位の知識が必要であり、ADEKAはそこに圧倒的な強みを持っています。

ALD(原子層堆積)とは何か

ALDは、ウェーハ表面に原子1〜2層ずつ正確に膜を積み重ねていく薄膜形成技術です。

  1. プリカーサーA(金属化合物)を吹きつけ → 表面1原子層に吸着
  2. 余剰ガスをパージ(排気)
  3. プリカーサーB(酸化剤・還元剤など)を吹きつけ → 反応して薄膜1層形成
  4. 余剰ガスをパージ
  5. 1〜4を必要な膜厚になるまで繰り返す

1サイクルあたり0.1nm程度の膜厚制御ができ、3nm・2nm世代の先端半導体で必須の技術です。CVD(化学気相堆積)と比べて段差被覆性が高く、細いコンタクトホールにも均一に成膜できます。

なぜHigh-k膜(高誘電率膜)にプリカーサーが必要か

DRAM(Dynamic RAM)のキャパシタは、誘電率の高い絶縁膜(High-k膜)を薄く形成することで容量を稼ぎます。かつては二酸化ケイ素(SiO₂)が使われていましたが、微細化が進むにつれて厚みが限界に達し、現在はHfO₂(酸化ハフニウム)やZrO₂(酸化ジルコニウム)などのHigh-k材料が主流です。

このHfO₂(ハフニウムオキサイド)・ZrO₂(ジルコニウムオキサイド)をALDで成膜するためのプリカーサー(Hf・Zr有機金属化合物)でADEKAは世界シェアNo.1を取っています。

ADEKAの主力製品群

① ALD/CVD向けプリカーサー(前工程・成膜材料)

膜の種類用途主な採用先
HfO₂・ZrO₂(High-k膜)DRAMキャパシタ絶縁膜SK hynix・Samsung・Micron
TiN・TaN(メタルゲート)FinFETのゲート電極ロジック先端ノード全般
Ru(ルテニウム)先端ロジックのコンタクトホール埋め込み2nm以降の先端ロジック
Al₂O₃(酸化アルミ)パッシベーション膜・バリア膜DRAMセル構造全般

特に注目なのがルテニウム(Ru)プリカーサーです。2nm以降のロジック半導体では、タングステン(W)に代わりRuがコンタクトホールの埋め込み材料として採用される流れがあり、ADEKAはここでも先手を打っています。

② 光酸発生剤(PAG)──EUVレジスト向け

EUV(極端紫外線)露光に使われるフォトレジストは、光(EUV光)が当たると酸を発生させる「光酸発生剤(PAG)」を含む化学増幅型レジスト(CAR)が主流です。ADEKAはこのPAGの設計・合成でも国内有力メーカーとなっています。

③ 後工程向け材料(2026年〜本格展開)

従来は前工程材料(プリカーサー・レジスト材料)が中心でしたが、AIチップ需要を背景にAdvanced Packaging(3D積層・チップレット)が急拡大しており、ADEKAは後工程材料を強化しています。

  • 放熱材料:パワー半導体・AIチップの熱対策向け
  • 接着剤・アンダーフィル:フリップチップ・CoWoS工程向け
  • 導電性銅ペースト:再配線層(RDL)形成向け

2026年最大トピック:半導体イノベーションセンター本格稼働

2026年7月2日、ADEKAは埼玉県久喜市の「ADEKAテクノロジーセンター久喜」に新研究棟「半導体イノベーションセンター」を本格稼働させました。

項目仕様
投資額約120億円
規模地上7階建て、延床面積1万1,545m²
研究開発エリア従来比2.7倍に拡張
クリーンルーム従来比2.5倍(850m²超、Class1000×8室・Class100×2室)
研究員数約150人
グローバル連携韓国・台湾・米国のグループ拠点と連携

クリーンルームがClass1000(1立方フィートあたりのパーティクル1,000個以下)・Class100を確保しており、顧客(メモリ・ロジックメーカー)の製造プロセスを再現した評価実験が社内で完結できる体制が整いました。

特に注目は「韓国・台湾・米国との連携強化」です。SK hynix(韓国)・TSMC(台湾)・各米国半導体メーカーとの共同開発をより密に進める拠点として機能させる方針です。

業績推移と2035年ビジョン

時点全社営業利益(参考)半導体材料単独目標
2015年度193億円(測定開始前)
2025年度416億円(2015年比2倍超)
2035年度目標325億円(全社利益の40%超)

2035年目標の「半導体材料単独325億円」は野心的な数字です。これを達成するには、現在の主力であるDRAM向け前工程材料(プリカーサー・PAG)に加え、後工程向け材料や先端ロジック向け新材料でも収益柱を複数作ることが前提になります。

競合との比較──ADEKAはどこが違うか

企業主力領域ADEKAとの差異
ADEKA日本High-k ALDプリカーサー(世界No.1)メモリ起点の先行優位
Air Products米国特殊ガス・ALDプリカーサーガス供給インフラが強み
Entegris米国プロセス材料全般(フィルター・スラリー)後工程材料も幅広い
UP Chemical韓国薄膜材料・ALDプリカーサー顧客との地理的近接性
SK Trichem韓国ALD材料(DRAM向け)SK hynix系列の垂直統合

ADEKAの優位性は「メモリ起点で培った金属錯体合成技術の深さ」にあります。High-k絶縁膜プリカーサーで蓄積したHf・Zr・Ruなどの有機金属合成ノウハウが、新領域材料の開発に横展開できる点が競合との差別化要因です。

日本の半導体材料サプライチェーンにおけるADEKAの位置づけ

日本の半導体材料メーカーは世界市場で存在感を持っています。ADEKAはその中でもALD材料という特定ニッチで圧倒的地位にある企業です。

材料カテゴリ日本の代表企業
ALD/CVDプリカーサーADEKA(世界No.1)
フォトレジストJSR・信越化学・東京応化
CMP研磨剤(スラリー)フジミインコーポレーテッド・昭和電工
特殊ガス昭和電工・大陽日酸
フォトマスクブランクスHOYA・信越化学

まとめ

  • ADEKAは1917年創業の化学メーカー。半導体材料(ALD向けプリカーサー)では世界シェア15%・No.1
  • 強みの源泉は有機金属錯体の合成技術。High-k膜(HfO₂・ZrO₂)から先端ロジック向けRuプリカーサーまで対応
  • EUVレジスト向け光酸発生剤(PAG)でも国内有力メーカー
  • 2026年7月に120億円投資の「半導体イノベーションセンター」を久喜市で本格稼働
  • 2035年度目標:半導体材料単独で営業利益325億円(全社の40%超)
  • 後工程(放熱材料・銅ペースト)への展開でAdvanced Packaging需要も取り込む方針

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【参考・引用元】

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