データセンターが使う水の問題|節電すると水を消費するトレードオフと、台湾を襲った渇水
データセンターの環境負荷といえば電力の話が中心です。ただし現場でより深刻な制約になりうるのは、水のほうかもしれません。
しかもこの2つは片方を減らすと片方が増える関係にあります。この記事では、なぜデータセンターが水を使うのか、そして半導体工場がどれだけ使うのかを、公表データで整理します。
なぜデータセンターが水を使うのか
サーバーが出す熱を外へ捨てるためです。多くのデータセンターは冷却塔(クーリングタワー)で水を蒸発させ、その気化熱で冷却水の温度を下げています。
蒸発した水は戻ってきません。だから使い続ければ、その分だけ水を取り込む必要があります。
効率を測る指標がWUE(Water Usage Effectiveness)です。電力1kWhあたり何リットルの水を使ったか(L/kWh)を示します。データセンター業界では、水ストレス地域においてフル稼働時のWUEを0.4L/kWh以下に設計するという目標が掲げられています。
規模を試算してみる
10万kWのデータセンターがWUE 0.4L/kWhで24時間稼働した場合を計算します。
- 1日の消費電力:10万kW × 24時間 = 240万kWh
- 1日の水使用量:240万kWh × 0.4L = 96万L = 約960トン
25mプール(約400トン)で2杯分以上が、毎日蒸発して消えていく計算になります。しかもこれは効率目標を達成した場合の数字です。
核心|節電すると水を食い、節水すると電気を食う
ここが最も重要な構造です。PUE(電力効率)とWUE(水効率)はトレードオフの関係にあります。
| 冷却方式 | 水の使用 | 電力 |
|---|---|---|
| 蒸発冷却(冷却塔) | 水を消費する | 効率が良い |
| 空冷式チラー | 現場での水使用ゼロ | その分だけ多く必要 |
空冷式チラーを使えば水は使いません。ただし電力は増えます。水冷式のデータセンターは、多くの空冷式よりエネルギー消費が10%ほど少ないとされており、水を使わない選択は電力系統への負担と引き換えになります。
「PUEを下げるために水を蒸発させれば、WUEは悪化する」——省エネと節水は同時に達成できません。どちらを優先するかは、その土地に電力と水のどちらの余裕があるかで決まります。
なお外気が低ければ蒸発冷却に頼る時間そのものが減ります。寒冷地が有利になるのはこのためで、電力と水の両方で効いてきます。
AI全体では2027年に42〜66億立方メートル
個別施設ではなく世界全体の規模でも見積もりがあります。世界のAIを動かすための取水量は、2027年には42〜66億立方メートルに達すると予測されています。
半導体工場は桁が違う|TSMCは1日15〜20万トン
データセンターの水使用量は決して小さくありませんが、半導体工場と比べると規模が変わります。
TSMCは1日あたり15〜20万トンの水を消費しているとされます。南部科学園区の自社施設だけでも1日9万9,000トンです。
先ほど試算した10万kW級データセンターの約960トンと比べると、150倍から200倍の規模です。
半導体製造では洗浄工程で大量の超純水を使います。どれだけ使うかは半導体工場はどれだけ超純水を使うのかで詳しく解説しています。
2021年、台湾を襲った渇水
この規模の水を使う産業が、水を確保できなくなったらどうなるか。実例があります。
2021年、台湾は56年ぶりの干ばつに見舞われました。
- 台湾政府は水供給をめぐり6年ぶりの非常警報を発令
- 台中市にある2つの主要サイエンスパークで、企業向けの水供給を15%削減
- TSMCは工場に給水車(タンクローリー)を使って水を運ぶ緊急対策を開始
給水車では追いつかない
ここで規模の問題が効いてきます。給水車1台が運べる水は20トン程度です。
1日15〜20万トンを給水車で賄おうとすれば、7,500〜1万台が必要になります。現実的な手段ではありません。
実際にはこの緊急対策は不足分を埋めるためのもので、根本的な解決にはなりませんでした。大規模な工場は、その土地の水インフラから切り離せないということです。
この渇水は、世界中のメーカーが半導体不足に直面していた時期と重なりました。水不足が供給網の問題として世界に波及した最初の事例といえます。
液冷は水を減らす方向に働く
AI向けサーバーで採用が進む液冷は、水の観点ではむしろ有利です。
NVIDIAは、GB200 NVL72と液冷システムの組み合わせにより、従来の空冷アーキテクチャと比べて水の使用効率が300倍以上改善するとしています。
理由は、冷却水を閉じた回路で循環させ、蒸発させずに熱を運ぶ方式だからです。蒸発冷却のように水が失われません。
電力密度が上がるほど液冷が必須になり、結果として水の消費は抑えられる——電力と水で逆方向に働く点は押さえておく価値があります。
日本の立地条件としての水
国内で工場やデータセンターの立地を考えるとき、水は電力と並ぶ条件になります。
- 安定した水源があるか——地下水・河川・工業用水道
- 自治体との調整がつくか——農業用水や生活用水との配分
- 排水を処理できるか——使った水を戻す側の容量
- 再利用でどこまで減らせるか——回収率を上げれば取水量は下がる
熊本にTSMCの工場が立地した背景の一つに、豊富な地下水があります。水は後から増やせないインフラである以上、立地の段階でほぼ決まります。
電力の制約とあわせて見ると、半導体工場もデータセンターも「置ける場所」が想像以上に限られていることが分かります。
よくある質問
Q. データセンターはなぜ水を使うのですか?
冷却塔で水を蒸発させ、その気化熱でサーバーの熱を逃がしているためです。蒸発した水は戻らないため、継続的に取水が必要になります。
Q. 水を使わない冷却方式はありますか?
空冷式チラーなら現場での水使用はゼロにできます。ただし電力は増えます。水冷式は空冷式よりエネルギー消費が10%ほど少ないとされ、水と電力のトレードオフになります。
Q. WUEとは何ですか?
Water Usage Effectiveness——電力1kWhあたりの水使用量(L/kWh)です。業界では水ストレス地域でフル稼働時0.4L/kWh以下という目標が掲げられています。
Q. 半導体工場とデータセンター、どちらが水を使いますか?
半導体工場です。TSMCは1日15〜20万トンを消費するとされ、10万kW級データセンターの試算値(約960トン)の150〜200倍にあたります。
Q. 台湾の渇水では何が起きましたか?
2021年、56年ぶりの干ばつで台湾政府が6年ぶりの非常警報を発令し、台中の主要サイエンスパークで水供給が15%削減されました。TSMCは給水車で水を運びましたが、1台20トン程度では1日の消費量に到底届きませんでした。
Q. 液冷にすると水は増えますか?
減ります。閉じた回路で循環させ蒸発させないためです。NVIDIAはGB200 NVL72と液冷の組み合わせで、空冷比300倍以上の水使用効率改善としています。
まとめ
- データセンターは冷却塔で水を蒸発させて熱を捨てている。蒸発した水は戻らない
- 指標はWUE(L/kWh)。水ストレス地域では0.4L/kWh以下が業界目標
- PUEとWUEはトレードオフ。空冷式チラーなら水はゼロだが電力が増える(水冷式は空冷式よりエネルギー消費が10%ほど少ない)
- 世界のAIを動かす取水量は2027年に42〜66億立方メートルと予測
- 半導体工場は桁が違う。TSMCは1日15〜20万トン
- 2021年の台湾は56年ぶりの干ばつでサイエンスパークの供給が15%削減。給水車1台20トンでは1日分に7,500〜1万台必要で現実的でなかった
- 液冷は水の観点では有利。閉回路で蒸発させないため
- 水は後から増やせないインフラ。立地の段階でほぼ決まる
参考・出典
- データセンターの「渇き」を持続可能な形で癒すには?|Allianz Global Investors――WUEの定義(水消費量÷IT機器の消費電力)、水ストレス地域での0.4L/kWh目標と適用時期(新規施設2025年1月1日/既存施設2040年末)、水冷式は空冷式よりエネルギー消費が約10%少ないこと、2027年のAI向け取水量42〜66億立方メートルの予測
- NVIDIA Blackwell プラットフォームが水の使用効率を300倍以上改善|NVIDIA――GB200 NVL72と液冷システムによる水使用効率の改善
- 台湾で深刻な水不足、TSMCとUMCの対策は|EE Times Japan、2021年3月――2021年の台湾の干ばつ、TSMCの1日あたり水消費量、給水車による緊急対策
- 台湾の水不足深刻化、非常警報も発令-TSMCはタンクローリー活用|Bloomberg、2021年3月――6年ぶりの非常警報、台中の主要サイエンスパークでの水供給15%削減









