半導体工場は電気を大量に使う——よく聞く話ですが、何にどれだけ使っているのかまで示された記事は多くありません。

この記事では公表データをもとに、規模と内訳を整理します。結論を先に言うと、消費の6割は生産装置です。そして空調を緩めても、工場全体の電力はほとんど減りません。

まず規模感|国内の新増設分だけで原発1基分

電力広域的運営推進機関(OCCTO)は、データセンターと半導体工場の新増設分を需要想定に個別計上しています。半導体工場だけを抜き出すとこうなります。

年度最大需要電力需要電力量
2026年度19万kW18億kWh
2030年度92万kW65億kWh
2035年度101万kW74億kWh

新増設分だけで、大型原発1基分に相当する101万kWです。既存工場の分は含みません。

なおデータセンターの661万kWと比べると小さく見えますが、半導体工場は2032年度ごろに100万kWで頭打ちになる点が特徴です。計画済みの工場が出そろうためです。

個別の工場で見ると

  • TSMC(台湾全社)——年間の電力消費は台湾の総電力需要の約8%を占めるとされます。2030年に向けてさらに比率が上がるという見方もあります
  • ラピダス千歳——4棟がフル稼働した場合、最大で約60万kWの需要が見込まれます。これは北海道全体の最大電力需要の約1割にあたります

1社・1拠点で地域の電力構成を左右する規模だということです。ラピダスの千歳工場が北海道の電力事情とセットで語られるのは、このためです。

内訳|生産装置が6割

ここからが本題です。日本空気清浄協会のクリーンルーム省エネルギー委員会がまとめたモデル工場の試算(夏期)では、消費エネルギーの比率はこうなっています。

区分比率
生産装置60%
空調・生産冷却ユーティリティ32%
その他ユーティリティ8%

最大の消費源は製造装置そのものです。「半導体工場の電力=クリーンルームの空調」というイメージがありますが、装置のほうが大きいという結果です。

空調・生産冷却の中身

32%を占める空調・生産冷却ユーティリティの内訳です。

設備比率
冷熱源機器67%
空調ファン13%
照明弱電設備7%
排気設備5%
冷却水設備5%
外調機3%
温熱源機器0.1%

3分の2が冷熱源機器、つまり冷凍機・チラーの類です。クリーンルームを23℃・45%といった条件に保つために、熱を運び出し続けています。

工場が抱える設備の一覧

同じ資料では、工場全体のエネルギー消費として次の13項目を積み上げています。半導体工場が何を動かしているかの一覧としても読めます。

  • 冷熱源機器/温熱源機器/空調ファン/外調機
  • 装置電気容量(製造装置本体)
  • 排気設備
  • 純水プラント/排水処理プラント
  • N2オンサイト(窒素製造)
  • 冷却水設備/圧縮空気/真空設備
  • 照明弱電設備

製造装置を動かすだけでは工場は成立しません。超純水、窒素、圧縮空気、真空、排気処理——これらを24時間供給し続ける設備が背後にあります。

意外な事実|空調を緩めても全体は減らない

同じ資料には、クリーンルームの温湿度条件を緩めたときの省エネ効果の試算が載っています。ここが最も示唆的です。

基準の23℃・45%から、26℃・55%まで緩めた場合の東京での試算結果です。

対象消費エネルギー比率
冷熱源のみで見ると88.9%(約11%削減)
工場全体で見ると97.6%(約2.4%削減)

冷熱源だけなら11%も減るのに、工場全体では2.4%しか減りません。

理由は単純です。冷熱源は「空調32%のうちの67%」=工場全体の約21%に過ぎず、6割を占める生産装置には手が付いていないからです。

しかも温湿度を緩めれば、プロセスの安定性や歩留まりに影響が出るリスクを負います。リスクを取って2.4%——この割の合わなさが、半導体工場の省エネの難しさを表しています。

では何をするのか

資料が挙げる対策は、それぞれ現場の判断を伴うものばかりです。

  • 冷熱源機器——室内温湿度条件の緩和
  • 空調ファン——循環換気回数の削減(FFUの間引き運転)
  • 排気設備——装置排気風量の見直し
  • 冷却水設備——往還温度差の確保による水量削減
  • 照明弱電——照明器具の間引き

いずれもクリーン度や装置の安全余裕を削る方向です。省エネの主戦場が装置側の技術革新に移るのは、必然だといえます。

「大量に使う」より深刻なのは「止められない」

電力量の多さ以上に効いてくるのが、供給の質です。

  • 瞬時電圧低下でも被害が出る——落雷などによる一瞬の電圧低下で、処理中のウェハをまとめて失うことがあります
  • 復旧に時間がかかる——クリーンルームの環境と装置の立ち上げには相応の時間が必要です
  • 真空・排気は止められない——常時稼働が前提の設備です

「安い電気」より「途切れない電気」が優先される——これが工場立地の判断を規定します。送電線の空き容量が立地の制約になるのも同じ理由です。

よくある質問

Q. 半導体工場の電力は何が一番大きいですか?

生産装置です。モデル工場の試算では生産装置60%、空調・生産冷却ユーティリティ32%、その他8%となっています。空調のイメージが強いですが、装置のほうが大きい構成です。

Q. クリーンルームの温度を上げれば節電できますか?

効果は限定的です。23℃45%から26℃55%へ緩めても、冷熱源は約11%減る一方、工場全体では約2.4%の削減にとどまります。歩留まりへのリスクに見合うかは別の判断になります。

Q. 工場1つでどれくらいの電力を使いますか?

公表は限られますが、ラピダス千歳は4棟フル稼働で最大約60万kW、北海道全体の最大需要の約1割にあたる見込みとされています。TSMCは全社で台湾の総電力需要の約8%を占めるとされます。

Q. 半導体工場とデータセンター、どちらが電力を使いますか?

国内の新増設分で比べるとデータセンターです。2035年度で661万kW対101万kW。ただし半導体工場は電力の「質」への要求が厳しく、瞬時電圧低下も許容できません。

Q. 製造装置以外に何に電気を使っていますか?

超純水の製造、窒素の製造、圧縮空気、真空、排気処理、排水処理などです。これらを24時間供給し続ける設備が工場を支えています。

まとめ

  • 国内の新増設分だけで2035年度101万kW=原発1基分。ただし2032年度ごろに頭打ち(OCCTO)
  • 個別ではラピダス千歳が4棟フル稼働で最大約60万kW=北海道の最大需要の約1割
  • 内訳は生産装置60%/空調・生産冷却32%/その他8%。最大の消費源は装置本体
  • 空調32%の内訳は冷熱源機器が67%。冷凍機・チラーが中心
  • 温湿度を26℃55%まで緩めても工場全体では約2.4%減にとどまる。生産装置に手が付かないため
  • 電力量より「止められない」ことのほうが制約として重い。瞬時電圧低下でもウェハを失う

参考・出典