半導体チップの放熱技術|熱のボトルネックはTIM、金属の10分の1しか通さない接合部
AIチップの発熱が問題になっています。ただし「熱い」こと自体が問題なのではありません。発生した熱を、どうやって外まで運び出すか——経路のほうが本質です。
そしてこの経路には、意外な場所にボトルネックがあります。この記事では、チップからヒートシンクまでの熱の道筋を追いながら、どこで詰まるのかを整理します。
熱の経路|チップから外へ
一般的なパッケージでは、熱は次の順に伝わります。
| 構成 | 熱の経路 |
|---|---|
| リッド付き(ヒートスプレッダあり) | チップ → TIM1 → ヒートスプレッダ → TIM2 → ヒートシンク |
| リッドレス(ヒートスプレッダなし) | チップ → TIM1.5 → 液冷ヒートシンク/コールドプレート |
ここで何度も出てくるTIMが鍵です。
TIMとは何か
TIM(Thermal Interface Materials/熱界面材料)は、発熱源と放熱部の間に挟み込む材料です。ICチップとヒートシンクの間に入れて、接触熱抵抗を下げる役割を持ちます。
なぜ必要か。2つの面をどれだけ強く押し付けても、微視的には点でしか接触していないからです。隙間には空気が残ります。
空気の熱伝導率は約0.026W/(m・K)——ほとんど断熱材です。この隙間を埋めて空気を追い出すのがTIMの仕事です。
核心|ボトルネックはTIMそのもの
ところがTIMは、熱の通り道の中で最も細い部分でもあります。
| 材料 | 熱伝導率 |
|---|---|
| 空気 | 約0.026W/(m・K) |
| TIM(シート状・実装時) | 25〜45W/(m・K) |
| TIM(同・バルク) | 最大90W/(m・K) |
| 銅 | 約400W/(m・K) |
空気と比べれば1,000倍以上ですが、銅と比べると10分の1以下です。
チップも銅も熱をよく通すのに、その間に挟まる薄い層が全体の性能を決めてしまう。これが熱設計の難しさの中心にあります。
しかも実装時の値(25〜45)はバルクの値(最大90)を大きく下回ります。材料そのものの性能と、実際に組み立てた状態での性能には差が出ます。
TIMの種類とトレードオフ
TIMには複数の形態があります。
- サーマルグリース——液状。隙間に馴染みやすい
- 熱伝導シート——固体。扱いやすく厚みが安定する
- 相変化材料——温度で軟化して密着する
- 液体金属——熱伝導率が高く、近年関心が高まっています
液体金属の落とし穴
液体金属は性能が高い一方で、電気伝導性も高いという性質があります。はみ出せば周囲の配線を短絡させかねません。性能と扱いやすさが逆方向です。
フィラーを増やせばいいわけではない
TIMの熱伝導率は、内部に混ぜるフィラーの量と種類で決まります。ならば増やせばよさそうですが、そう単純ではありません。
フィラーを増やすと粘度・硬度・比重が上がり、塗布性や柔軟性が落ちます。塗れなければ意味がなく、硬すぎれば隙間に追従できません。
レゾナックのシート状TIMは黒鉛フィラーを厚さ方向に配向させることで、この矛盾に対応しています。熱を通したい方向にフィラーを揃えるという発想です。
リッドレスという解|界面を減らす
経路を見直すアプローチもあります。ヒートスプレッダをなくすという選択です。
リッド付きではTIM1とTIM2の2箇所で界面を通過します。リッドレスならTIM1.5の1箇所で済みます。
- 放熱経路が短くなる
- 界面の数が減る
- 結果として総合熱抵抗が下がる
この構成ではTIM1.5に極めて高い熱伝導率と低熱抵抗が求められ、ペースト状または高熱伝導のシート状TIMが使われます。
そしてその先に直結されるのが液冷のコールドプレートです。データセンターの液冷は、チップ側のこうした設計変更と一体で進んでいます。
3D積層の壁|ホットスポット
チップを積み上げると、熱の問題は別次元になります。
3D集積の弊害として、局所的に高温となる「ホットスポット」が生じます。特に演算負荷が集中するCPU・GPU・HBM周辺で発生しやすく、信頼性の低下や性能低下の原因になります。
問題は構造にあります。積み重ねた内側の層は、どこにも熱を逃がせません。上には別のチップ、下には基板があります。TSVが熱の通り道を兼ねますが、それだけでは足りません。
HBMのように何段も積む構造では、段数を増やすほど熱が抜けにくくなる——性能を上げる手段が、そのまま熱の制約を強める構図です。
給電構造から攻める|BSPDN
熱の出口を広げるだけでなく、チップの内部構造から見直す動きもあります。
BSPDN(背面給電)は、電源配線をウェハの裏面へ移す技術です。表面の配線が整理されることで、熱の経路と電力供給の両方を改善できます。
「冷やす」だけでなく「熱の通り道を設計する」段階に入っているということです。
チップからデータセンターまで一本の経路
ここまでの話を並べると、熱は一本の道でつながっています。
トランジスタ → シリコン → TIM → ヒートスプレッダ/コールドプレート → 冷却水 → 冷却塔または外気
この経路のどこか1箇所でも詰まれば、全体が制約を受けます。空冷ではラック20kWが限界という設備側の話も、TIMの熱伝導率という材料側の話も、同じ1本の経路上の別の地点を見ているに過ぎません。
AI半導体の性能は、演算能力ではなく熱の出口で決まりつつあります。
よくある質問
Q. TIMとは何ですか?
熱界面材料(Thermal Interface Materials)です。チップとヒートシンクの間に挟み、微視的な隙間に残る空気を追い出して接触熱抵抗を下げます。
Q. なぜTIMがボトルネックになるのですか?
熱伝導率が金属より1桁低いからです。実装時で25〜45W/(m・K)、銅は約400W/(m・K)。前後の材料がよく熱を通すぶん、この薄い層が全体を律速します。
Q. 液体金属を使えば解決しますか?
性能は高いですが電気も通します。はみ出せば短絡の危険があり、扱いには制約があります。
Q. リッドレスパッケージの利点は?
界面が2箇所から1箇所に減ることです。ヒートスプレッダを介さないため放熱経路が短くなり、総合熱抵抗が下がります。ここで使うTIMはTIM1.5と呼ばれます。
Q. 3D積層で熱が問題になるのはなぜですか?
内側の層が熱を逃がせないためです。CPU・GPU・HBM周辺では演算負荷が集中してホットスポットが生じ、信頼性や性能の低下を招きます。
Q. フィラーを増やせば熱伝導率は上がりますか?
上がりますが、粘度・硬度・比重も上がり、塗布性や柔軟性が落ちます。そのため配向させるなど、量以外の工夫が必要になります。
まとめ
- 熱の経路はチップ→TIM1→ヒートスプレッダ→TIM2→ヒートシンク。リッドレスならチップ→TIM1.5→コールドプレート
- ボトルネックはTIM——実装時25〜45W/(m・K)に対し銅は約400W/(m・K)。金属の10分の1以下
- TIMが要るのは、面と面が微視的には点でしか接触せず、隙間の空気(約0.026)が断熱するため
- 液体金属は高性能だが電気を通す。フィラー増量は塗布性と柔軟性を犠牲にする
- リッドレスは界面を2箇所から1箇所へ減らし、液冷コールドプレートを直結する
- 3D積層ではCPU・GPU・HBM周辺にホットスポット。積むほど内側の熱が抜けない
- 熱はトランジスタからデータセンターの外気まで一本の経路。どこか1箇所詰まれば全体が制約を受ける
参考・出典
- 先端半導体パッケージの熱マネジメントに貢献する材料|レゾナック――リッド付きとリッドレスの放熱経路(TIM1/TIM2/TIM1.5)、シート状TIMの熱伝導率(実装時25〜45W/(m・K)、バルク最大90W/(m・K))、黒鉛フィラーの厚さ方向配向、3D集積で生じるホットスポットとCPU・GPU・HBM周辺での発生
- サーマルインターフェースマテリアル(TIM)|松尾産業――TIMの役割と接触熱抵抗の低減、種類(グリース・シート・相変化材料・液体金属)、リッドレス構成でのTIM1.5、フィラー増量に伴う粘度・硬度・比重の上昇と塗布性・柔軟性の低下









