「有機基板の25年が終わる」という衝撃

1999年にIntelのPentium IIIに初めて採用されて以来、ABF有機基板(FC-BGA)は約25年にわたってCPU・GPU・AI半導体の「土台」であり続けてきた。しかし今、その覇権に変化の予兆が現れている。

TSMCが開発を加速する次世代パッケージング技術「CoPoS(Chip-on-Panel-on-Substrate)」は、従来の丸いウェーハ(直径300mm)ではなく四角いガラスパネル(310×310mm)を採用する。

このガラスパネルに「ガラスコア基板」を組み合わせることで、現行の有機基板が抱える物理的限界を突破しようというアプローチだ。

そしてTSMCがこの技術開発のパートナーとして選んだのが、ABF有機基板の世界シェア首位企業・イビデンだ。

「有機基板の覇者が、有機基板の代替技術を一緒に作る」という逆説的な構図は何を意味するのか。

ABF有機基板が直面する3つの物理的限界

NVIDIAのGPUが世代を重ねるたびに大型・多層化するFC-BGA基板は、有機材料の性質から生まれる3つの壁にぶつかりつつある。

限界①:熱膨張係数(CTE)のミスマッチ

シリコンチップの熱膨張係数(CTE)は約2〜4 ppm/℃だ。一方、ABF有機基板のCTEは約15〜17 ppm/℃と大きく異なる。動作時の発熱・冷却サイクルを繰り返すたびに、チップと基板が異なる率で伸縮し、接続バンプに応力が集中する。チップが小さいうちはこの差を吸収できるが、B200・GB200クラスの超大型パッケージでは応力集中が無視できなくなる。

限界②:大型化に伴う反り(Warpage)

有機材料は製造工程での加熱・冷却によって反りを生じやすい。

グニャグニャになりやすいイメージだ。

基板が大きくなるほど反りも大きくなり、チップ実装(フリップチップ接合)の歩留まりを悪化させる。B200向けのFC-BGA基板は従来世代より50〜100%大型化しており、この問題は深刻だ。

限界③:信号損失と配線密度の天井

有機絶縁体(ABF)の誘電特性は、ガラスと比べて高周波信号の損失が大きい。AI加速器の帯域幅要求が毎世代上昇する中で、有機基板の信号伝送品質は徐々にボトルネックになりつつある。また微細配線の限界もあり、2μm以下のライン/スペースはすでにSAP法の量産限界に近づいている。

ガラスコア基板とは何か

これらの限界を打破する候補として注目されているのがガラスコア基板だ。従来のABF有機基板のコア(中心層)として使っていたガラス繊維強化エポキシ樹脂(FR4系)の代わりに、無機材料のガラス板をコアに用いる。

重要な点は、「ガラス基板はABFを不要にしない」という事実だ。ガラスコア基板の構成は以下のようになる。

材料役割
上部ビルドアップ層ABFフィルム+銅配線チップ側の微細配線
コア層(新設)ガラス基板寸法安定性・低CTE・低誘電損失
下部ビルドアップ層ABFフィルム+銅配線マザーボード側の配線

つまりガラスコア基板は「ガラスをABFで挟む3層構造」だ。ガラスが寸法安定性・熱膨張抑制・信号品質を担い、ABFがチップ側・基板側の微細配線を担うという役割分担になる。これは「ABFが消える」のではなく、「ABFがより高度な形で生き残る」ことを意味する。

ガラスコア基板の主な改善効果

特性有機基板(ABF)ガラスコア基板改善効果
熱膨張係数(CTE)約15〜17 ppm/℃約3〜5 ppm/℃シリコンに近接
反り(Warpage)大型化で顕在化大幅抑制COP(反り指標)16%改善
誘電損失高周波信号品質向上
弾性率Effective Modulus 31%向上
コスト基準量産後は30%削減見込みパネル化で材料効率が向上

CoPoS:「丸」から「四角」へのパラダイム転換

CoPoSはガラスコア基板技術に加え、処理単位を「丸いウェーハ」から「四角いパネル」に変える点が最大のブレークスルーだ。

項目CoWoS(現行)CoPoS(次世代)
処理単位300mm丸形ウェーハ310×310mm四角形パネル
基板素材有機基板(ABF)ガラスコア基板
面積利用率60〜70%(丸形ロスあり)90%超(四角で端部ロスなし)
コスト基準約30%削減見込み
対応チップサイズ現世代AI GPUさらに大型の次世代GPUにも対応

丸いウェーハは四隅の面積を使えないため、材料効率は常に70%未満に留まる。310×310mmの四角パネルに変えることで、この「捨てている面積」がほぼゼロになる。さらに大型AIチップのパッケージに必要な面積をより少ない枚数のパネルで賄えるようになり、コスト・スループット・収率のすべてが改善する。

TSMC・イビデン・Innoluxの三者協業

TSMCはCoPoS開発において2社を協業パートナーとして選んだ。

  • イビデン:ガラスコア基板の材料・基板製造担当。ABFビルドアップ技術とガラス加工を組み合わせた次世代基板の量産技術を担う
  • Innolux(群創光電):ガラスパネルの供給担当。台湾最大級のフラットパネルメーカーで、大型ガラスパネルの量産技術を持つ

2026年、TSMCは初めて三者協業による検証データを公式に開示した。シミュレーションによる検証では:

  • パッケージ反り指標(COP):16%改善
  • 有効熱膨張係数(Effective CTE):19%低下
  • 有効弾性率(Effective Modulus):31%向上

これは「ガラスコア基板が実用化フェーズに正式に入った」ことを示すシグナルとして業界が注目した。これまで「将来の話」だったCoPoSが、具体的な数字を伴って語られるようになったことは重要な転換点だ。

量産スケジュール:2027年試験生産→2028〜2029年量産

時期マイルストーン
2026年パイロットライン完成(VisEra)。材料・装置サプライヤーの重要検証期間
2027年試験生産(小ロット)開始。工程最適化・歩留まり改善
2028〜2029年量産移行。NVIDIA次々世代GPU向け基板から導入見込み
2030年以降ガラスコア基板の本格商業展開。AIサプライチェーンの標準技術化

イビデンにとって何を意味するか

この三者協業はイビデンにとって「既存事業の防衛」と「次世代ポジション確保」という二重の意味を持つ。

リスクの先手を打つ

ガラスコア基板の普及は、純粋な有機ABF基板の需要を長期的に代替する可能性がある。もしイビデンがこの移行の「外側」に置かれれば、ABF基板での独占的地位が侵食される。TSMCのパートナーに入ることで、移行後の世界でも「基板サプライヤー」としての地位を維持できる。

技術的親和性の高さ

イビデンはガラスコア基板の上下を覆うABFビルドアップ技術の世界最高水準の担い手だ。ガラスコア時代もABFが上下層に使われる以上、イビデンの製造技術は引き続き不可欠だ。CoPoSが来ても「ABFを最も精巧に積める会社」という強みは消えない。

長期受注の確保

TSMC・イビデン・Innoluxの三者で共同検証した技術は、その仕様がパートナー企業の製造能力に最適化される。スペックイン効果が次世代技術にも働くことで、量産段階での優先サプライヤー地位が見込める。

まとめ──「有機基板の終わり」ではなく「有機基板の進化」

ガラスコア基板とCoPoSが描く未来は、「有機基板(ABF)の消滅」ではない。ガラスをコアに据え、その上下をABFが覆うハイブリッド構造が次世代の標準になる可能性が高い。そのとき最も恩恵を受けるのは、ガラス加工とABFビルドアップの両方に精通したサプライヤーだ。

イビデンがTSMCのCoPoSパートナーに選ばれた事実は、「ABF有機基板の覇者が次世代移行でも覇者であり続ける」シナリオを強く示唆している。2028〜2029年の量産開始に向けて、この3者協業がどこまで加速するかは、AI半導体パッケージング業界全体の構造を左右する重要な変数だ。

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