キオクシアの四日市工場(三重県四日市市)は、フラッシュメモリ工場として世界最大級の規模を持つ生産拠点です。敷地面積は694,000m²、端から端まで約1.4km。はたらく人の数は10,000名にのぼります。

2026年8月27日にキオクシアとSandiskが発表した2032年までの国内5兆円投資も、四日市と北上(岩手県)の2拠点が対象です。

ところが、最新世代である第10世代BiCS FLASH(332層)の生産拠点は、四日市ではなく北上のK2棟だと公式に明記されています。世界最大級の拠点で、いま何が起きているのか。この記事では四日市工場の全体像と、北上との役割分担を公式発表から整理します。

【この記事でわかること】
・四日市工場の規模(敷地694,000m²・10,000名)と位置づけ
・第7製造棟(Y7棟)の概要と1兆円規模の投資
・経済産業省による助成の全体像(929億円+1,500億円)
・「第9世代の生産基盤を四日市に構築」という認定計画の中身
・第8世代218層/第9世代120層/第10世代332層の関係
・なぜ最新世代の生産が北上に置かれたのか
・Sandiskとの合弁が2034年12月まで続く意味

1. 四日市工場の基本情報

項目内容
所在地三重県四日市市
運営キオクシア株式会社
敷地面積694,000m²(端から端まで約1.4km)
従業員はたらく人の数10,000名
生産品目フラッシュメモリ「BiCS FLASH」
位置づけフラッシュメモリ工場として世界最大級

敷地1.4kmという数字は、工場というより「街」に近い規模です。三重県全体の半導体産業については三重県の半導体産業、東海・関西の集積は東海・関西の半導体企業・工場一覧で扱っています。

2. 第7製造棟(Y7棟)

四日市工場で最も新しい大型製造棟が第7製造棟(Y7棟)です。

項目内容
竣工式2022年10月26日
稼働2022年秋から
建屋面積2万m²
クリーンルーム2層構造
投資額Y7棟第1期への総投資額は1兆円規模
建設方式2期に分けて建設。Western Digital(現Sandisk)と共同投資
初期の生産品目2023年初頭に第6世代(162層)の出荷を開始

Y7棟は「段階的に埋めていく箱」として設計されています。建屋を先に建て、市況と需要に応じて装置を入れていく方式です。北上のK2棟が建屋完成から1年以上あけて稼働したのと同じ考え方で、メモリ業界の投資はこの「箱を用意してから待つ」形が定石になっています。

3. 経済産業省による助成

四日市工場には複数の支援が入っています。

案件内容金額
先行案件四日市工場での3次元フラッシュメモリ量産体制の整備最大929億円
2024年2月認定四日市・北上での第8世代3D NANDの生産能力強化、および第9世代の生産基盤を四日市工場に構築(総投資約4,500億円)最大1,500億円
合計約2,429億円

注目したいのが2024年2月の認定内容です。ここには「第9世代品の生産基盤を四日市工場に構築する」と明記されています。つまり制度上、四日市は新世代の立ち上げを担う拠点と位置づけられていました。

4. 世代ロードマップ──番号と積層数が一致しない

ここで、キオクシアのBiCS FLASHの世代を整理しておきます。世代番号と積層数が一直線に並んでいないため、混乱しやすいところです。

世代積層数サンプル出荷特徴
第6世代162層―Y7棟で2023年初頭に出荷開始
第8世代218層―CBA技術を本格採用
第9世代120層2025年7月25日512Gb TLC。書き込み性能を第6世代比61%向上、読み出し12%向上。量産は2025年度中
第10世代332層2026年7月3日1Tb TLC。ビット密度59%向上、NANDインターフェース4.8Gb/秒(第8世代比33%向上)

なぜ第9世代が120層なのか

第8世代が218層なのに、第9世代は120層。この逆転に戸惑う人は多いはずです。

理由は、第9世代の512Gb TLC製品が既存のセル技術と最新のCMOS技術をCBAで組み合わせた構成だからです。積層数を伸ばす方向ではなく、コストと性能のバランスを取りにいった製品です。実際、書き込み性能は第6世代比61%向上、電力効率は書き込み時36%・読み出し時27%改善しており、積層数以外の指標では明確に進化しています。

キオクシアは2つの系統を並走させています。

  • 積層を伸ばす系統──第8世代218層 → 第10世代332層。密度と容量を追う
  • コスト最適化の系統──第9世代120層。歩留まりと製造コストを重視

NANDの積層構造やSLC/TLC/QLCの基礎はNANDフラッシュ完全解説、CBA技術の中身はハイブリッドボンディング完全解説で扱っています。

5. 最新世代の生産は北上へ

ここが四日市工場を見るうえで最も重要な変化です。

2026年7月3日、キオクシアは第10世代BiCS FLASH(332層)のサンプル出荷開始を発表しました。その公式リリースには、生産拠点についてこう書かれています。

「北上工場(岩手県北上市)第2製造棟の最新設備を活用して生産」

2024年2月の認定計画では「第9世代の生産基盤を四日市に構築」とされていました。一方で、最新の第10世代は北上K2棟です。

これをどう読むか。四日市が縮小しているという話ではありません。四日市は敷地694,000m²・10,000名を抱える最大拠点であり、複数世代を同時に量産し続ける主力です。そのうえで、最新設備を集約した新しい製造棟(K2棟)に、最先端世代の立ち上げを担わせるという構図になっています。

K2棟は2022年4月起工・2024年7月建屋完成・2025年9月30日稼働と、最も新しい設備で構成された製造棟です。332層という積層数を安定して作るには、最新の成膜・エッチング装置が揃った環境が要ります。拠点の優劣ではなく、設備の新しさで割り振られていると見るのが自然です。

北上工場の詳細はキオクシア北上工場の全貌──5兆円投資・K3棟建設で解説しています。

6. 四日市と北上の役割分担

四日市工場(三重県)北上工場(岩手県)
規模敷地694,000m²・10,000名。世界最大級K1棟(2020年)・K2棟(2025年)
位置づけ量産の主力。複数世代を同時に生産最新設備による能力拡張
第9世代生産基盤を構築(2024年2月認定計画)―
第10世代(332層)―K2棟で生産
今後5兆円投資の対象K3棟を2029年度稼働へ(政府支援が前提)
Sandisk合弁会社を2034年12月まで運営共同投資

7. Sandiskとの合弁が2034年まで続く意味

四日市工場は、キオクシアが単独で運営しているわけではありません。Sandisk(旧Western Digitalのフラッシュメモリ事業)との合弁で生産設備に共同投資し、生産量を分け合う構造が続いています。合弁会社については2034年12月まで運営することが定められています。

この枠組みには両面があります。

  • 利点──兆円単位の設備投資を2社で分担できる。単独では背負いきれない規模の投資が可能になる
  • 制約──生産能力を分け合うため、キオクシア単独の判断で増産分をすべて取り込めるわけではない

2026年8月の5兆円投資も、キオクシアとSandiskの共同発表でした。日本のNAND生産は、この2社の関係を抜きには語れません。

8. 年表

時期出来事
2021年2月Y7棟の建設開始を発表
2022年10月26日Y7棟 竣工式(建屋面積2万m²・2層クリーンルーム)
2022年秋Y7棟 稼働開始
2023年初頭第6世代(162層)の出荷開始
2024年2月経産省が認定。四日市に第9世代の生産基盤を構築(最大1,500億円助成)
2025年7月25日第9世代(120層・512Gb TLC)サンプル出荷
2025年度中第9世代の量産予定
2026年7月3日第10世代(332層)サンプル出荷。生産は北上K2棟
2026年8月27日キオクシアとSandiskが2032年までに国内5兆円投資を発表(北上・四日市が対象)
2034年12月Sandiskとの合弁会社の運営期限

まとめ:世界最大級の「量産の重心」

四日市工場は、敷地694,000m²・10,000名という規模で、世界のNAND供給を支える主力拠点です。2024年2月の認定計画では第9世代の生産基盤を担うとされ、複数世代を同時に量産する体制を持っています。

一方で最新の第10世代(332層)は、最新設備で固めた北上K2棟に振り向けられました。四日市が「量産の重心」、北上が「最先端の立ち上げ」——2026年時点のキオクシアは、この2拠点分業で動いています。

2032年までの5兆円投資は両拠点が対象です。北上ではK3棟が2029年度稼働を目指し、四日市ではSandiskとの合弁が2034年12月まで続きます。日本のNAND生産の行方は、この2つの工場と1つのパートナーシップで決まります。

関連記事:キオクシア北上工場の全貌|キオクシアとは?NAND専業メーカーの実力|NANDフラッシュ完全解説|マイクロン広島工場の全貌

【参考・引用元】

  • キオクシア「四日市工場」https://www.kioxia.com/ja-jp/about/yokkaichi.html──所在地、敷地面積694,000m²(端から端まで約1.4km)、はたらく人の数10,000名、フラッシュメモリ工場として世界最大級であること、2022年秋からの第7製造棟の稼働
  • キオクシア「高性能、大容量、低消費電力を実現した第10世代BiCS FLASH™のサンプル出荷を開始」(2026年7月3日)https://www.kioxia.com/ja-jp/about/news/2026/20260703-1.html──332層・1Tb TLC、ビット密度59%向上、NANDインターフェース4.8Gb/秒(第8世代比33%向上)、CBAとOPS技術、北上工場第2製造棟の最新設備を活用して生産
  • キオクシア「第9世代BiCS FLASH™ 512Gb TLC製品のサンプル出荷について」(2025年7月25日)https://www.kioxia.com/ja-jp/about/news/2025/20250725-1.html──120層、書き込み性能61%向上・読み出し12%向上、電力効率は書き込み時36%・読み出し時27%改善、量産は2025年度中
  • EE Times Japan「キオクシア四日市工場 第7製造棟で量産を開始」(2022年10月27日)https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2210/27/news068.html──2022年10月26日の竣工式、建屋面積2万m²・2層構造のクリーンルーム、Western Digitalとの共同建設、2023年初頭の第6世代(162層)出荷
  • マイナビニュース「キオクシア、第6世代3D NANDの生産に対応する新製造棟「Y7棟」の建設を開始」(2021年2月25日)https://news.mynavi.jp/techplus/article/20210225-1754290/──Y7棟が2期に分けて建設されること、第1期への総投資額が1兆円規模であること
  • EE Times Japan「キオクシアとSandisk、日本に5兆円投資 北上に新棟建設」(2026年8月27日)https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2608/27/news095.html──2032年までに5兆円(約310億ドル)、北上・四日市が対象、四日市の合弁会社を2034年12月まで運営すること
  • EE Times Japan「経産省、キオクシア四日市/北上工場の設備投資に2429億円助成」(2024年2月6日)https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2402/06/news172.html──最大1,500億円(総投資約4,500億円、第8世代の生産能力強化と第9世代の生産基盤を四日市に構築)、先行案件929億円との合計