東北の半導体企業・工場マップ【2026年版】岩手・宮城・山形・秋田・青森・福島を徹底解説

東北地方は日本の半導体産業において「もう一つの極」とも呼ぶべき重要拠点です。岩手県北上市に集積するキオクシアとアムコー・テクノロジーのNAND後工程エコシステム、宮城・山形に広がるソニーのCMOSイメージセンサ拠点、福島会津地区に根ざすアナログ・パワー半導体クラスター──。三つの強みが東北6県に凝縮されており、2026年現在も設備増強や新棟立ち上げが続いています。
本記事では青森・岩手・宮城・秋田・山形・福島の主要企業と工場を県別に整理し、最新の投資動向まで詳しく解説します。
東北半導体産業の「3本柱」
東北の半導体産業を俯瞰すると、三つの軸が鮮明に浮かび上がります。
| 軸 | 主要拠点 | 代表企業 |
|---|---|---|
| NANDフラッシュ(前工程+後工程) | 岩手・北上 | キオクシア、アムコー、ジャパンセミコンダクター |
| CMOSイメージセンサ | 宮城・山形 | ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング |
| アナログ・パワー半導体 | 福島・会津、青森、秋田 | オン・セミコンダクター、TI、富士電機津軽、TDK |
これら三軸は相互補完の関係にあり、東北全体として高い素材・装置・後工程の自給率を実現しています。
岩手県 ── キオクシア北上が牽引するNANDクラスター
キオクシア北上工場(K1棟・K2棟)
北上市に立地するキオクシア北上工場は、日本最大級のNANDフラッシュメモリ製造拠点です。2010年代に稼働したK1棟(第1製造棟)に加え、K2棟(第2製造棟)が2025年9月に本稼働を開始。K2棟では当初、既世代品を生産しながら工程を立ち上げ、2026年7月には第10世代3次元フラッシュメモリ(BiCS FLASH 10)のサンプル出荷を開始しました。
BiCS FLASH 10は転送速度が毎秒4.8GB(前世代比約30%向上)・電力効率も約30%改善しており、生成AI向けデータセンターのSSDに最適化されています。K2棟での本格量産は2027年を予定しており、フル稼働時には北上工場全体の生産能力がほぼ2倍に拡大する見通しです。
【関連動画】Jチャンいわて(IBC岩手放送)
「キオクシアが “第10世代” フラッシュメモリ出荷 ”AI需要”受け 岩手・北上市に『第二製造棟』」
キオクシア北上K2棟(第二製造棟)での第10世代3D NANDフラッシュメモリ(BiCS FLASH 10)サンプル出荷開始の様子を、IBC岩手放送のローカルニュース番組「Jチャンいわて」が現地取材。AI需要の急拡大を背景に稼働した第二製造棟の意義と、岩手・北上市の半導体産業への経済的影響を報じています。
【技術コラム】3D NANDの「世代競争」とは
3D NANDは複数の記憶セルを垂直方向に積み重ねる構造で、積層数が増えるほど記憶密度が上がります。キオクシアの第10世代は積層数が第8世代から大幅に増加しており、同じウェーハ面積でより多くのビットを生産できます。AI需要で爆発的に伸びるHDD→SSD移行を支える核心技術です。
アムコー・テクノロジー・ジャパン 北上事業所
米国アムコー・テクノロジー傘下の後工程専門会社。2001年に東芝との合弁「JデバイスK」として設立し、2020年にアムコーの完全子会社となり現社名に変更。キオクシア北上工場のNANDウェーハを受け取り、ダイシング・ワイヤボンディング・モールドを担う完全後工程一貫ラインを持ちます。キオクシアとは工場間で直接連携しており、NANDチップの一気通貫サプライチェーンが北上市内で完結します。
ジャパンセミコンダクター 岩手事業所
東芝グループ系のジャパンセミコンダクター(本社:北上市)は、システムLSI・アナログIC・パワーデバイスの製造を担う企業です。東芝デバイス&ストレージから分離した国内前工程拠点として、テレビ・家電向けデバイスのほか、マイコン・電源ICを量産しています。
東京エレクトロンテクノロジーソリューションズ(奥州市)
半導体製造装置最大手・東京エレクトロン傘下の製造子会社。奥州市の工場では洗浄装置・熱処理炉など前工程装置の組み立てを行い、国内外のファブに供給しています。岩手県はキオクシアだけでなく、装置メーカーの製造拠点も備えており、半導体エコシステムとしての完成度が高いです。
ミズサワセミコンダクタ(奥州市)
半導体シリコンウェーハのスライス・ラッピング・研磨を手がける素材系企業。地元のサプライヤーとしてキオクシアや装置メーカーの材料需要を支えています。
宮城県 ── CMOSイメージセンサと装置の二本柱
ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング 多賀城テクノロジーセンター
スマートフォンカメラに搭載されるCMOSイメージセンサで世界首位を誇るソニーの国内前工程拠点のひとつ。多賀城市に立地し、裏面照射型(BSI)CMOSイメージセンサのウェーハ処理を担います。積層型CMOSイメージセンサ(STACKED CMOS)では専用信号処理チップを垂直接合するため、後述の山形・鶴岡拠点とロール分担しています。
ラピスセミコンダクタ 宮城工場(仙台市)
ローム傘下のラピスセミコンダクタ(旧宮城沖電気)は仙台市に工場を持ち、マイコン・無線通信IC・小型電源ICを生産しています。IoT機器向けの超低消費電力デバイスや産業用センサ向け品種に強みを持ちます。
東京エレクトロン 宮城事業所(大和・松島)
東京エレクトロンが宮城県大和町と松島町に構える製造・研究拠点。プラズマエッチング装置・CVD装置など、先端ロジック半導体の微細化に不可欠な装置を開発・製造しています。隣接する東北大学との産学連携も盛んで、最先端プロセス開発の一端を担います。
日本ファインセラミックス(仙台市)
半導体パッケージ用セラミック基板・放熱部品を製造するメーカー。パワー半導体モジュールの基板として需要が拡大しており、EV・電力インフラ向けの出荷が増加しています。
山形県 ── イメージセンサ×SiCウェーハの高付加価値拠点
ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング 鶴岡テクノロジーセンター
鶴岡市に立地するソニーの画像センサ特化拠点。多賀城拠点と並ぶCMOSイメージセンサの前工程サイトで、特に積層型センサの下層ロジックウェーハを担当しています。ソニーがスマートフォン向けイメージセンサで世界シェア約40〜50%を維持している背景には、この東北二拠点体制があります。
レゾナック 山形事業所(SiCウェーハ)
旧昭和電工マテリアルズが前身のレゾナック(Resonac)は、山形県内の拠点でSiC(炭化ケイ素)ウェーハの研磨・検査を手がけます。SiCパワー半導体はEV・電力変換機器向けに急拡大しており、ウェーハ前処理工程の需要が国内外で急増しています。
グローバルウェーハズジャパン 小国工場(西置賜郡)
台湾グローバルウェーハズ傘下の国内子会社が山形県小国町に持つシリコン単結晶引き上げ(CZ法)の専用工場。300mmウェーハ向けの単結晶シリコンインゴットを生産し、国内ウェーハサプライヤーとしてキオクシア等に供給しています。
東北エプソン 酒田工場(酒田市)
セイコーエプソン(Epson)の半導体製造子会社。酒田市に前工程ラインを持ち、水晶デバイス・マイクロ半導体(液晶ドライバIC等)を生産しています。産業機器・ウェアラブル向けデバイスの安定した供給基地です。
新電元工業 東根工場(東根市)
パワー半導体(整流ダイオード・ショットキーダイオード)のリーディングカンパニー、新電元工業の主力工場。東根市に立地し、モータ駆動・充電回路向けのパワーダイオードを量産。EV充電器・太陽光インバータ向け需要の拡大を受け、生産体制を強化しています。
秋田県 ── TDKを中核とする電子部品・受動素子クラスター
TDKエレクトロニクスファクトリーズ(にかほ市・由利本荘市)
TDK株式会社の国内電子部品製造を一手に担う子会社で、秋田県にかほ市の稲倉工場が主力拠点。非接触給電用コイル・NFCアンテナ・インダクタ等を量産しています。TDKは2023年に由利本荘市にも新工場を竣工し、AI・スマートフォン向け積層セラミックコンデンサ(MLCC)と高周波デバイスの供給能力を高めました。
TDKは秋田県内に1,000名規模の雇用を抱える電子部品最大拠点として、地域経済の基盤を形成しています。
【用語解説】MLCC(積層セラミックコンデンサ)と半導体の関係
MLCCは半導体チップではありませんが、スマートフォン1台に数百〜数千個が使用される重要電子部品です。AIサーバー1台には半導体チップとともに大量のMLCCが搭載されており、TDKの増産は半導体需要の拡大と表裏一体です。
青森県 ── パワー半導体ウェーハ前工程の静かな要塞
富士電機津軽セミコンダクタ(五所川原市)
富士電機の100%子会社として青森県五所川原市に立地するパワー半導体専門の前工程ファブ。2026年4月時点で389名の従業員が従事し、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)・パワーMOSFET・FRD(ファストリカバリーダイオード)などの前工程ウェーハ処理を担います。
富士電機はEV・産業用インバータ・鉄道向けパワー半導体で国内有数のシェアを持ちます。津軽セミコンダクタは2012年設立と比較的若い企業ですが、母体となる工場の歴史は長く、IGBTウェーハの安定量産体制が整っています。
ハイコンポーネンツ青森(後工程)
半導体の後工程(ダイシング・マウント・ワイヤボンディング・封止)を専門とするEMS企業。地域のサプライヤーとして青森県内の電子機器産業を支えています。
福島県 ── 会津アナログ半導体クラスターと次世代ダイヤモンド半導体
オン・セミコンダクター 会津工場(会津若松市)
米国半導体大手onsemi(オン・セミコンダクター)の国内前工程ファブ。1984年に富士通の若松工場として建設された由緒ある施設で、アナログIC・パワーFET・フラッシュメモリ・ロジック半導体を製造しています。onsemiはパワー半導体(SiC含む)の世界3強の一角であり、会津工場はEV向けパワー半導体の増産に対応した改造・拡張が進行中です。
日本テキサス・インスツルメンツ 会津工場(会津若松市)
米TIの国内製造拠点として会津若松市に立地。アナログIC・マイコンの前工程を長年担ってきた工場で、2024年からはGaN(窒化ガリウム)パワー半導体の量産も開始しました。GaNはSiCと並ぶ次世代パワー半導体で、急速充電器・5G基地局・データセンター電源向けに急拡大しており、TI会津はその日本国内の製造基地として位置づけられています。
福島サンケン(二本松市)
パワー半導体大手・サンケン電気の100%子会社。二本松市の工場ではパワーダイオード・発光ダイオード(LED)のウェーハ特性検査と最終工程を担います。産業機器・電源装置向け整流素子のリーディングサプライヤーです。
大熊ダイヤモンドデバイス(大熊町)── 注目のスタートアップ
2022年設立のスタートアップ企業で、東京電力福島第一原発の事故後に復興エリアとなった大熊町に立地。ダイヤモンド半導体の産業化を目指し、2026年中の第1工場稼働を計画しています。
ダイヤモンドはSiC・GaNを超える「究極のパワー半導体材料」と称され、絶縁破壊電界強度・熱伝導率・バンドギャップすべてでSiCを上回ります。量産化には高コストの壁がありますが、大熊ダイヤモンドデバイスは国産ダイヤモンドウェーハ技術で突破口を開こうとしており、業界の注目を集めています。
【技術コラム】次世代パワー半導体の材料比較
シリコン(Si)→SiC→GaN→ダイヤモンドと材料が進化するほど、高電圧・高周波・高温での動作が可能になります。SiCは現在EV・鉄道で採用が進み、GaNはスマートフォン充電器・データセンターで普及中。ダイヤモンドはまだ研究開発段階ですが、核融合炉・超高電圧変換など極限用途に向けた実用化が期待されています。
東北クラスター 2026年の展望
東北の半導体産業は2026年、以下の三つの成長ドライバーによって拡大局面にあります。
- キオクシアK2棟の本格立ち上げ:第10世代NAND量産開始(2027年)に向けた設備投資と人材採用が北上市圏域の経済を押し上げています。
- パワー半導体の需要急増:EV・再生可能エネルギー向けにオン・セミコンダクター会津・富士電機津軽・TI会津の稼働率が上昇。GaN・ダイヤモンド半導体の新波が福島・青森に新たな投資を呼び込んでいます。
- ソニーイメージセンサの継続成長:生成AIカメラ・自動運転センサ需要を背景に、多賀城・鶴岡の両拠点で稼働率の高止まりが続いています。
また、東北大学・山形大学・岩手大学などが半導体・材料研究で優れた実績を持ち、産学連携による人材供給も東北クラスターの強みのひとつです。経済産業省の「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業」でも東北各校が採択されており、研究開発の底上げが期待されます。
東北の半導体企業 まとめ一覧
| 県 | 企業名 | 所在地 | 主要製品・工程 |
|---|---|---|---|
| 岩手 | キオクシア北上工場(K1・K2棟) | 北上市 | 3D NANDフラッシュ(前工程) |
| 岩手 | アムコー・テクノロジー・ジャパン | 北上市 | NAND後工程(ダイシング・パッケージ) |
| 岩手 | ジャパンセミコンダクター | 北上市 | システムLSI・アナログIC・パワーデバイス |
| 岩手 | 東京エレクトロンテクノロジーソリューションズ | 奥州市 | 半導体製造装置(洗浄・熱処理) |
| 岩手 | ミズサワセミコンダクタ | 奥州市 | シリコンウェーハ材料加工 |
| 宮城 | ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング 多賀城TC | 多賀城市 | CMOSイメージセンサ(前工程) |
| 宮城 | ラピスセミコンダクタ 宮城工場 | 仙台市 | マイコン・無線IC・電源IC |
| 宮城 | 東京エレクトロン 宮城事業所 | 大和・松島 | エッチング装置・CVD装置の製造 |
| 宮城 | 日本ファインセラミックス | 仙台市 | セラミック半導体基板・放熱部品 |
| 山形 | ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング 鶴岡TC | 鶴岡市 | 積層CMOSイメージセンサ(前工程) |
| 山形 | レゾナック 山形事業所 | 山形県内 | SiCウェーハ研磨・検査 |
| 山形 | グローバルウェーハズジャパン 小国工場 | 西置賜郡小国町 | シリコン単結晶インゴット(300mm) |
| 山形 | 東北エプソン 酒田工場 | 酒田市 | 液晶ドライバIC・水晶デバイス |
| 山形 | 新電元工業 東根工場 | 東根市 | パワーダイオード・整流素子 |
| 秋田 | TDKエレクトロニクスファクトリーズ | にかほ市・由利本荘市 | コイル・NFCアンテナ・インダクタ・MLCC |
| 青森 | 富士電機津軽セミコンダクタ | 五所川原市 | IGBTウェーハ・パワーMOSFET(前工程) |
| 青森 | ハイコンポーネンツ青森 | 青森県内 | 半導体後工程(パッケージ・テスト) |
| 福島 | オン・セミコンダクター 会津工場 | 会津若松市 | アナログIC・パワーFET・フラッシュ |
| 福島 | 日本テキサス・インスツルメンツ 会津工場 | 会津若松市 | アナログIC・GaNパワー半導体 |
| 福島 | 福島サンケン | 二本松市 | パワーダイオード・LED |
| 福島 | 大熊ダイヤモンドデバイス | 双葉郡大熊町 | ダイヤモンド半導体(2026年稼働予定) |
まとめ
東北の半導体産業は、キオクシアが牽引するNANDメモリ、ソニーが築くCMOSイメージセンサ、そして会津・青森・秋田のパワー半導体・電子部品という三つのクラスターが互いに補完し合う構造を持っています。
2026年のトピックとして特に注目すべきは次の三点です。
- キオクシア北上K2棟での第10世代3D NAND立ち上げ(サンプル出荷開始・2026年7月)
- TI会津におけるGaNパワー半導体量産本格化(2024年開始、2026年拡大中)
- 大熊ダイヤモンドデバイスによるダイヤモンド半導体工場稼働(2026年予定)
地方経済と最先端技術が交差する東北の半導体産業は、日本の半導体復興を語るうえで欠かせない存在です。引き続き最新情報を本ブログでお届けします。
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