東海・関西の3県(愛知・三重・大阪)は、自動車産業を支えるパワー半導体、世界最大規模のNANDフラッシュメモリ生産拠点、そして化学材料・装置部品のサプライヤーが集積する「日本半導体産業の動脈」だ。デンソーと富士電機の2116億円SiC投資、キオクシア四日市工場の7200億円設備投資、シャープ工場跡地のAIデータセンター転用——2026年に各地で産業構造の大転換が進んでいる。本記事では3県の企業・工場を最新データで完全解説する。

【この記事でわかること】
・愛知県:デンソー×富士電機SiC(2116億円・経産省705億円補助)、豊田合成GaN基板量産、NGKセラミックサセプター、フジミCMP研磨材
・三重県:キオクシア四日市(日本最大のNAND拠点・7200億円投資)、USJC(UMCグループ・57億円拡張)、デンソー大安SiCウェーハ、シャープ工場の転換
・大阪府:シャープ堺→AIデータセンター転用、ローム子会社再編(RDM・RAM)、大阪大学半導体人材育成拠点

東海・関西3県の半導体産業:車載×NAND×材料の三角形

三県それぞれに異なる強みがある。

強み分野代表企業・2026年のホットトピック
愛知県車載パワー半導体(SiC・GaN)・装置セラミック・CMP材料デンソー×富士電機2116億円SiC協業・豊田合成GaN量産・NGK700億円新工場
三重県NANDフラッシュメモリ・ファウンドリ受託・SiCウェーハ前工程キオクシア四日市7200億円投資・USJC57億円拡張・デンソー大安SiCウェーハ稼働
大阪府半導体材料・後工程受託・研究人材育成シャープ堺→AIデータセンター転用・ローム子会社再編・阪大半導体人材育成拠点

【愛知県】車載半導体大国:SiC・GaN次世代パワー半導体の開発最前線

愛知県はトヨタ・デンソーを頂点とする自動車サプライチェーンが半導体産業に直結している。EV化の加速でパワー半導体の内製化が急務となり、2024〜2026年にかけてSiC・GaNへの大型投資が相次いでいる。

デバイスメーカー・材料メーカー

企業名所在地主な製品・ライン2026年最新動向
デンソー 幸田製作所額田郡幸田町SiCエピタキシャルウェーハ(前工程)富士電機との2116億円協業の一翼。年産10万枚(8インチ換算)。2026年9月から供給開始予定。経産省助成705億円を富士電機と共同受領
豊田合成 美和技術センターあま市GaN基板(縦型GaNパワー半導体用)6インチGaN種結晶の量産試作に成功。育成炉を増設し生産能力を最大10倍に拡大計画。EV・産業機器向けGaNパワーデバイスの普及を先導
日本ガイシ(NGK)名古屋本社・半田工場・小牧工場名古屋市・半田市・小牧市半導体製造装置用セラミックス(サセプター・静電チャック等)現主力は愛知の3拠点。2026年4月に石川県能美市の新工場(700億円投資)を発表。BCP観点で供給多角化を進めつつ、愛知での増産も継続
フジミインコーポレーテッド清須市CMP(化学機械研磨)スラリー・研磨材世界トップシェア。先端ロジック・メモリ向けCMP材料の需要急増。清須の研究開発拠点を中心に次世代材料の開発加速
CKD 小牧工場小牧市半導体製造装置用バルブ・シリンダーチャンバー内ガス制御に使われる精密バルブの国内主要サプライヤー。AI向け装置需要拡大で受注増加
NTKセラミックス(NGKスパークプラグ子会社)名古屋市セラミック半導体パッケージ・基板車載センサー・パワーデバイス向けセラミックパッケージを供給
ミライアル名古屋市半導体搬送容器(FOUPキャリア)300mm用FOUP世界大手。RapidusのIIM-1にも供給。AI装置向け需要急増
注目:デンソー×富士電機 SiC協業(2116億円・2026〜2027年)
デンソーと富士電機が2024年11月に発表したSiCパワー半導体の共同供給確保計画が経産省に認定され、最大705億円の助成が確定した。デンソーの幸田製作所(SiCエピ)と愛知隣接の大安製作所(SiCウェーハ、三重県いなべ市)が担う前工程、富士電機の松本製作所が担う後工程を組み合わせ、2026〜2027年に国内一貫SiCサプライチェーンを確立する。これはEV向けSiCパワー半導体の国内調達を確保するうえで国策レベルの重要性を持つ。
注目:豊田合成 GaN基板(次世代パワー半導体)
SiCの次を担う次世代パワー半導体材料として注目されるGaN(窒化ガリウム)。豊田合成はトヨタグループの樹脂・ゴム部品大手ながら、LEDウェーハ製造で培った結晶成長技術を応用してGaN基板を開発してきた。6インチGaN種結晶の量産試作に成功し、基板メーカーへの供給も開始。GaNパワー半導体がSiCの後を継ぐ時代(2030年代以降)に向けた先行投資だ。

【三重県】日本最大のNANDメモリ産地:キオクシア四日市と台湾UMC系ファウンドリが共存

三重県は日本のNANDフラッシュメモリ生産の圧倒的中心地だ。キオクシアの四日市工場は世界最大規模のフラッシュメモリ製造拠点の一つであり、AIブームによる需要急増で2026年に空前の大型投資が動いている。同時にUMCグループのUSJCが300mmロジック半導体を製造し、デンソーのSiCウェーハ工場が稼働するという多層的な産業集積地でもある。

三重県の主要半導体企業

企業名所在地主な製品・ライン2026年最新動向
キオクシア 四日市工場四日市市3D NAND型フラッシュメモリ(前工程・300mm)FY2026〜2028の設備投資額は年平均4700億円(ピーク7200億円)。経産省から最大2429億円の助成。第9世代・第10世代(218層超)の3D NAND量産を加速。AIサーバー向けeSSDの需要急増が投資を後押し
ユナイテッド・セミコンダクター・ジャパン(USJC)三重工場桑名市ロジックIC・アナログ・混載メモリ(ファウンドリ受託・300mm前工程)2026年2月に57億円の設備投資を発表。製造装置・搬送システム増強で月産43,000枚へ拡大(2027年1月稼働)。旧三重富士通セミコンダクター。台湾UMCグループとして車載・スマートフォン向けを受託
デンソー 大安製作所いなべ市(大安地区)SiCウェーハ(前工程)幸田製作所のSiCエピと組み合わせた一貫ラインを構築。2026年9月から年産6万枚(8インチ換算)の供給を開始予定。富士電機との2116億円SiC協業の中核
シャープ 多気工場(旧三重第1・第2工場)多気郡多気町(元)中小型液晶パネル製造→半導体後工程へ転換2025年3月にアオイ電子が一部工場棟を取得。アオイ電子は先端半導体パッケージ(後工程)の生産ラインをFY2027本格稼働に向けて構築中。旧シャープ設備の転用で先端パッケージング拠点に変貌
シャープ 亀山第1工場亀山市車載向け液晶・OLEDディスプレイ(高付加価値特化)超低反射・デュアルビュー等の車載専用技術に集中。ディスプレイ単体ながら半導体を大量に搭載し、製造技術は前工程と親和性が高い
シャープ 亀山第2工場亀山市小中型液晶パネル鴻海(ホンハイ)への売却交渉が2026年2月に不成立。2026年8月までに生産停止を決定。跡地活用が次の焦点
スタンレー電気 三重工場亀山市車載LED・光半導体車載照明向けLEDデバイスを継続生産
キオクシア四日市工場:なぜ世界最大級のNAND拠点になれたのか
四日市は1992年に東芝(現キオクシア)が選んだ地だ。広大な工業用地(コンビナート跡地)・四日市港(設備輸送)・稲葉川の工業用水・中部電力の安定した電力供給が選定理由だった。現在は「第1〜第7製造棟(Y1〜Y7)」が立ち並び、延床面積は東京ドーム数十個分に相当。AI需要で2025〜2026年に生産量が急回復し、株価は上場来最高値を更新。経産省が2429億円の助成を行うほど国策の重要拠点だ。

【大阪府】産業構造の転換期:半導体工場からAIデータセンターへ・ローム再編・人材育成

大阪府の半導体産業は2024〜2026年に大きな転換期を迎えている。かつてシャープの液晶パネル工場として日本の電機産業を象徴した堺工場が、AIデータセンターとして全く新しい役割を担うことになった。同時にロームグループが国内生産子会社を再編し、大阪大学が関西圏の半導体人材育成の中核拠点として文科省に採択されている。

大阪府の主要半導体企業

企業名所在地主な製品・事業2026年最新動向
ローム 滋賀工場(関連拠点:大阪)大阪市(本社)/ 守口市(旧工場)パワー半導体・アナログIC・LED(前工程)2026年4月にグループ国内4社・全10工場を2社に集約再編。前工程会社「ローム・デバイスマニュファクチャリング(RDM)」・後工程会社「ローム・アッセンブリマニュファクチャリング(RAM)」が発足。効率化と責任の明確化を図る
住友電気工業 大阪工場大阪市北区(本社)化合物半導体ウェーハ(GaAs・InP)・光半導体・SiCウェーハ光通信・AI向けGaAs/InP系ウェーハの需要拡大で生産増強。住友電工独自のSiCウェーハ(SiCウェーハ製造で国内大手)も拡充
大日本印刷(DNP)関西工場茨木市フォトマスク・半導体パッケージ基板(FC-BGA)AI向けFC-BGA(フリップチップBGA)基板の需要急増で生産拡大。RapidusのAI半導体向けパッケージ基板サプライヤー候補として注目
TOPPAN(凸版印刷)関西工場滋賀県(隣接拠点)フォトマスク・先端パッケージ基板FC-BGA基板の国産化に向けて関西拠点を強化
シャープ 堺工場跡地(AIデータセンターへ転換)堺市(西区)(元)液晶パネル製造→AIデータセンターKDDI「大阪堺データセンター」が2026年1月開所(延床5.7万㎡・液晶工場を1年未満で転用)。ソフトバンクも受電容量150MWのAIデータセンターを2026年中に稼働予定。先端半導体(GPUクラスター)の消費拠点として機能
日本電産(ニデック)子会社大阪市守口市半導体測定・検査装置既存事業継続
村田製作所 大阪拠点大阪市MLCC・RF半導体モジュールIoT・通信向けMLCC需要拡大で大阪拠点のR&D機能を強化
解説:シャープ堺工場の「半導体→AI転換」が示すもの
シャープ堺工場は2009年の竣工当時、世界最大の10世代液晶パネル工場として「日の丸液晶」の象徴だった。それが2026年にKDDI・ソフトバンクのAIデータセンターになるという転換は、日本の電機産業の構造変化を象徴している。半導体を「使う」AIサーバーの一大集積地として、大阪南部が新たな役割を担うことになる。液晶工場のクリーンルーム・電力インフラ・冷却設備を流用できることが迅速転用(1年未満)を可能にした。

大阪大学 関西圏半導体人材育成拠点(文科省採択)

大阪大学は2025年度の文部科学省「半導体人材育成拠点形成事業」に「関西圏半導体人材育成共創拠点の構築」で採択された。京都大学・神戸大学・京都工芸繊維大学・大阪公立大学との連携体制で、関西の産学が一体となった半導体人材育成エコシステムを構築する。九州のRapidus・TSMC熊本に続き、関西でも半導体エンジニアの育成基盤が整いつつある。

東海・関西3県の主要材料・装置サプライヤー

企業名主要拠点主な製品世界シェア・特徴
フジミインコーポレーテッド清須市(愛知)CMP研磨スラリー・研磨材世界首位クラス。先端ロジック・NAND双方に必須
日本ガイシ(NGK)名古屋・半田・小牧(愛知)セラミックサセプター・静電チャック高耐食性アルミナで世界大手。TSMCを含む世界全主要ファブに供給
CKD小牧市(愛知)半導体装置用バルブ・エアシリンダ真空・特殊ガス制御バルブで国内有数
ミライアル名古屋市(愛知)300mm半導体搬送容器(FOUP)世界市場で主要シェア。Rapidus・TSMC熊本にも供給
住友電工 大阪本社大阪市GaAs・InP・SiCウェーハ化合物半導体ウェーハで世界大手
大陽日酸(三菱化工機系)大阪・愛知・三重各地超高純度産業ガス(Ar・N2・H2)国内産業ガス大手。キオクシア四日市への近接供給
ニッタ・デュポン三重県半導体研磨パッド(CMP)CMPパッドで米デュポンと日本ニッタの合弁。みえ半導体ネットワーク構成員

東海・関西3県に産業集積する共通の理由

立地優位性詳細
①自動車産業との垂直統合(愛知)トヨタ系サプライチェーンが半導体の安定供給を必要とするため、愛知は車載半導体の内製化投資が集中しやすい
②コンビナート用地と工業用水(三重)四日市の石油化学コンビナート跡地が大型工場に転用しやすく、工業用水も豊富。キオクシアが立地した根本理由
③港湾インフラ(三重・大阪)四日市港・大阪港から半導体製造装置の輸入・完成品の輸出が容易
④電力インフラと再エネ(三重)三重県は風力・太陽光が豊富で中部電力の安定供給エリア。半導体工場の電力コストを抑えやすい
⑤関西の化学・材料産業との近接(大阪)住友化学・大阪ガスケミカル・積水化学など大阪を拠点とする化学企業が半導体材料の供給を担う

2026〜2027年に注目の動向

  • デンソー 大安製作所SiCウェーハ 2026年9月供給開始:国内EV向けSiCインバーターの内製化が現実化。幸田・大安・松本(富士電機)の3拠点が本格稼働すれば国産SiCサプライチェーンが完成
  • キオクシア四日市 第10世代3D NAND量産:AI向けeSSDの主要供給拠点として、218層超の量産体制が2026年度中に本格化。投資規模7200億円は国内半導体工場の単年投資として最大級
  • USJC三重工場 2027年1月増産ライン稼働:57億円投資で車載・通信向け300mmロジック半導体の月産能力が43,000枚へ。UMCグループとして日本のファウンドリ能力を補強
  • シャープ亀山第2工場跡地の活用決定:生産停止(2026年8月)後の跡地活用がどうなるか。半導体・データセンター・物流など複数の活用案が浮上中
  • 大阪大学 関西半導体人材育成拠点の本格始動:産官学連携で関西のエンジニア輩出体制を強化。2027年以降の実践的カリキュラム構築が焦点

まとめ

愛知・三重・大阪の3県は、九州の量産拠点・北海道の最先端研究開発・関東の装置材料と並ぶ「日本半導体産業の動脈」だ。

愛知のデンソー×富士電機SiC協業と豊田合成GaN基板はEV時代の車載半導体内製化を加速し、三重のキオクシア四日市はAI時代のNAND供給を支え、大阪は産業構造の転換(製造→研究・人材育成・データ処理)を体現している。3県の投資総額は軽く1兆円を超え、日本の半導体自立を目指す産業政策の主要戦場となっている。

九州の動向は九州の半導体企業・工場マップ、北海道の動向は北海道の半導体企業・工場一覧も合わせてご覧ください。

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semi-connect編集室
半導体業界の技術・企業・市場動向を発信するブログ「semi-connect.net」の管理人。半導体プロセス・前工程・後工程からエレクトロニクス企業の財務分析まで、業界の基礎から最新情報をわかりやすく解説します。