EUV光源(LPP方式)完全解説2026──スズ液滴・2段階レーザー・変換効率2〜6%の壁をわかりやすく解説

EUV(極紫外線)リソグラフィが半導体微細化の主役になったことはよく知られている。しかし「EUV露光機で最も難しい部分はどこか」と問われると、多くの記事が「光学系の精密さ」「ステージの位置制御」を挙げて終わる。
実は最も難しいのは別のところにある。そもそも13.5nmの光を十分な強度で「作り出す」こと自体が、EUV技術最大の難題だ。
現在、EUV露光機で使われている光源方式は「LPP(Laser-Produced Plasma)方式」と呼ばれる。スズ(Sn)の液滴に高出力CO₂レーザーを当て、生じた高温プラズマから13.5nmの光を取り出す方式だ。しかし投入したレーザーエネルギーのうち、実際に露光に使える13.5nmの光として取り出せるのはわずか2〜6%にすぎない。
なぜこれほど効率が低いのか。「スズにレーザーを当てる」という一文では語られない、プリパルス/メインパルスの2段階照射・Mo/Siミラーの反射損失・Shot noiseの問題まで、LPP方式の物理を徹底解説する。
なぜ13.5nmの光でなければならないのか
露光機の解像度はR = k₁ × λ / NAという式で決まる。Rを小さく(より微細なパターンを描く)するには、波長λを短くするかNAを大きくするしかない。
ArF液浸リソグラフィは波長193nmで、NAを最大1.35まで引き上げてきた。これ以上NAを上げることは物理的に困難だったため、次の手段として波長を一気に短縮するEUVが選ばれた。
なぜ「13.5nm」という波長なのか。答えはモリブデン(Mo)とシリコン(Si)の多層膜反射鏡の特性にある。この波長帯でMo/Si多層膜の反射率が最大(理論値最大約70%)になるため、ミラーで光路を制御するEUV露光機の光学系と整合する。13.5nmは「物理的に選ばれた最適波長」だ。
LPP方式の全体構造──CO₂レーザーからウェハまで
LPP方式のEUV光生成プロセスを大まかに整理すると以下の通りだ。
- スズ(Sn)の液滴(直径約30μm)をチャンバー内に毎秒5万個(50kHz)で噴射する
- 液滴にプリパルス(低出力CO₂レーザー)を当て、薄い円盤形に変形・膨張させる
- 変形したスズにメインパルス(高出力CO₂レーザー、波長10.6μm)を当て、数十万Kのプラズマ状態にする
- プラズマから放出される13.5nm帯の光を、集光ミラー(コレクター)で集める
- Mo/Si多層膜ミラーの反射光学系で照明系・投影系を経て、ウェハに到達させる
このサイクルが毎秒5万回繰り返されることで、連続的なEUV光源として機能する。
プリパルスとメインパルス──なぜ2段階照射が必要なのか
「スズ液滴にレーザーを当てる」と説明する記事は多いが、実際には2段階の照射が行われている。この2段階が変換効率を大きく左右する。
プリパルス──液滴を円盤形に変形させる
まず低出力のCO₂レーザー(プリパルス)を直径30μmのスズ液滴に照射する。このエネルギーはメインパルスの約10〜20%程度だ。
プリパルスが当たったスズ液滴は、衝撃と加熱により薄い円盤形(ディスク形)に膨張する。直径は元の30μmから150〜200μm程度まで広がり、厚さは極めて薄くなる。この段階ではまだプラズマにはなっていない。
なぜわざわざ変形させるのか。答えは「メインパルスの照射効率」にある。球形の液滴にメインパルスを当てると、レーザーが内部まで均等に届かず、表面だけが高温になって内部のスズがシールドになってしまう。薄い円盤形に変形させることで、メインパルスがスズ全体に均等に当たり、プラズマ生成の効率が大幅に向上する。
メインパルス──プラズマ爆発で13.5nmの光を生成
円盤形に変形したスズに、高出力のCO₂レーザー(メインパルス)を照射する。ピーク出力は数十kW、波長10.6μmの赤外線レーザーだ。
瞬間的に加熱されたスズは約30万K(30万度)のプラズマ状態に達する。プラズマ中の電子が多価イオン(Sn⁸⁺〜Sn¹⁴⁺)と再結合する際に、広範な波長スペクトルの光を放出する。
このスペクトルの中に13.5nm帯の成分が含まれている。Mo/Si多層膜ミラーはこの帯域(13.5nm±1%、約2%バンド幅)の光だけを選択的に反射するため、他の波長成分はフィルタリングされる形になる。
変換効率(CE)の壁──2〜6%という現実
変換効率(CE:Conversion Efficiency)とは、投入したCO₂レーザーエネルギーのうち、13.5nm±1%の帯域として2πステラジアン(半球方向)に放出されるエネルギーの割合だ。
現状の変換効率は約2〜6%。つまり投入したレーザーエネルギーの94〜98%は「使えない光」として散逸する。
| エネルギーの行方 | 割合(概算) |
|---|---|
| 13.5nm帯EUV光(使える光) | 2〜6% |
| 近紫外線・可視光・赤外線 | 30〜40% |
| スズイオン・飛散スズの運動エネルギー | 30〜40% |
| 熱・その他 | 残り |
ASMLに光源を供給するCymer(現在はASML子会社)の最新EUV光源では、250W以上の出力(EUV換算)を実現しているが、これを得るために投入するCO₂レーザーの電力は数十kW規模になる。消費電力が膨大になる理由の一つがここにある。
変換効率を上げるための研究は継続中だが、13.5nm帯のプラズマ放射という物理的な制約があり、劇的な改善は難しい。現実的な出力向上策は「投入レーザー出力を上げる」ことになるが、それはスズ飛散量の増大・装置内汚染・消費電力増大という別の問題を引き起こす。
Mo/Siミラーのロス──反射のたびに光が30%消える
変換効率の問題をさらに深刻にするのが、光学系のミラー損失だ。
EUV(13.5nm)はあらゆる物質に吸収されやすいという特性を持つ。通常のガラスレンズは使えず、光路に置けるのは「反射ミラー」のみだ。このためEUV露光機の光学系は全て反射ミラーで構成されており、EUV光は行く先々でミラーに反射されながらウェハまで届く。
Mo/Si多層膜反射鏡の構造
EUV用ミラーに使われるのはMo(モリブデン)とSi(シリコン)を交互に積層した多層膜反射鏡だ。
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 積層ペア数 | 約40ペア |
| Mo層厚さ(1層) | 約2.8nm |
| Si層厚さ(1層) | 約4.2nm |
| 1ペアの合計厚さ | 約7nm |
| 40ペアの総膜厚 | 約280nm |
| ピーク反射率(13.5nm) | 約67〜70% |
| 表面粗さの要求値 | 0.1nmRMS以下 |
ミラーの表面粗さ要求「0.1nmRMS以下」が何を意味するか。直径4mの円板があったとして、その全面の凸凹が最大0.1nm(1/10ナノメートル)以内に収まる精度だ。このレベルの研磨・蒸着ができるのが事実上Carl Zeiss SMTのみであることが、ASMLの独占を支える参入障壁の一つになっている。
ミラー損失の累積──6〜11枚で光量は10%以下に
反射率70%のミラーを1枚通るたびに、光量が30%ずつ失われる。EUV露光機の光路には照明系・投影系を合わせて6〜11枚程度のミラーがある。
ミラー6枚の場合:0.70⁶ ≈ 0.118(約12%が残る)
ミラー11枚の場合:0.70¹¹ ≈ 0.020(約2%が残る)
光源で苦労して作ったEUV光のほとんどが、ミラー反射を繰り返すうちに失われていく。だからこそ光源は「とにかく出力を上げる」ことが求められ続ける。
Shot noiseと線端ラフネス──光子数の少なさが引き起こす問題
EUV特有のもう一つの課題が「Shot noise(ショットノイズ)」だ。日本語記事でほとんど扱われていないが、EUVの歩留まりを左右する重要な問題だ。
なぜEUVは光子が少ないのか
光子1個のエネルギーはE = hc/λという式で決まる。波長が短いほど光子1個のエネルギーが大きい。
| 光源 | 波長 | 光子1個のエネルギー | 同じ露光量での光子数比率 |
|---|---|---|---|
| ArF液浸 | 193nm | 約6.4eV | 基準(1倍) |
| EUV | 13.5nm | 約92eV | 約1/14 |
同じ露光エネルギーを投入しても、EUVはArFと比べて光子の数が約14分の1しかない。光子数が少ないと、フォトレジストの各部位に当たる光子数の統計的ばらつきが大きくなる。これが「Shot noise(ショットノイズ)」だ。
線端ラフネス(LER)への影響
Shot noiseが実際の製品に与える影響が「線端ラフネス(LER:Line Edge Roughness)」だ。
本来は直線であるべきパターンの端(エッジ)が、光子数のランダムなばらつきにより微細にギザギザになる現象だ。LERが許容値を超えると:
- トランジスタのゲート幅が不均一になり、電気特性(駆動電流・閾値電圧)がばらつく
- 隣接パターンとの短絡(ショート)や断線(オープン)が発生しやすくなる
- 歩留まりの低下につながる
対策は「露光量を増やして光子数を増やす」か「高感度レジストを使う」かだが、両者はトレードオフだ。露光量を増やせばスループット(1時間あたりのウェハ処理枚数)が落ちる。高感度レジストはわずかな光でも反応するため、別の制御課題が生じる。
このトレードオフがEUV光源に「出力をとにかく上げろ」という圧力がかかり続ける根本理由の一つだ。High-NA EUVでは解像度がさらに上がるため、Shot noiseの問題もより深刻になる。
Cymerとギガフォトン──EUV光源市場の実態
EUV光源を実質的に製造・供給しているのはCymer(サイマー)1社だ。
Cymerは1975年創業の米国企業で、ArFエキシマレーザー光源でも業界標準的な地位を持っていた。2013年にASMLが約25億ドルで買収し、現在はASMLの完全子会社だ。世界中のEUV露光機に搭載されるLPP光源は、すべてCymerが開発・製造している。
一方、日本のGigaphoton(ギガフォトン:小松製作所系列)はArFエキシマレーザー光源でCymerと2社寡占体制を形成しているが、EUV光源では商用化が遅れており、CymerとASMLの一体的な体制が事実上の業界標準になっている。
ASMLがCymerを買収したことにより、EUV露光機の「光を作る部分」もASMLグループ内に取り込まれた。後発企業がEUV光源単体を外部調達しようとしても、Cymerはもはやサードパーティではないのだ。これも後発参入を難しくする構造の一部だ。
ペリクル──EUVマスク保護の技術課題
EUVリソグラフィで見落とされがちな重要課題が「ペリクル(Pelicle)」だ。
フォトマスク(EUV光のパターンを持つ原板)は1枚あたり数千万〜1億円以上する精密部品だ。製造工程中にほこりや異物が付着すると、ウェハ上の全チップに欠陥が生じる。このためマスク表面を保護する薄膜(ペリクル)をかぶせるのがArF時代からの常識だ。
しかしEUV向けペリクルには深刻な技術課題がある。EUV光は光子エネルギーが約92eVと非常に高く、通常の有機薄膜を劣化・損傷させてしまう。さらにペリクル自体がEUV光を吸収すれば、ウェハへの露光量が減ってスループットが落ちる。
現在開発中のEUVペリクル素材は主に2系統だ:
- ポリシリコン(多結晶シリコン)系:三井化学やimecが開発を進める。EUV透過率が問題(100%にはならずスループット低下を招く)
- CNT(カーボンナノチューブ)系:透過率が高くEUV光の吸収が少ないが、耐久性と大面積均一化に課題
TSMCは2024年からペリクル付きEUV露光を量産に本格投入し始めており、IntelやSamsungも追随している。High-NA EUVでは焦点深度がさらに浅くなるため、異物によるフォーカスエラーのリスクが増大し、ペリクルの重要性はさらに高まる。
まとめ──EUV光源は「効率との戦い」だ
EUV光源(LPP方式)の実態を理解すると、この技術がいかに難しいかがわかる。
- スズ液滴の生成:直径30μm、毎秒5万個という精密な液滴生成
- プリパルス:液滴を円盤形に変形させてメインパルスの効率を上げる
- メインパルス:数十万Kのプラズマで13.5nm光を生成
- 変換効率2〜6%:投入エネルギーのほとんどが「使えない光」として散逸
- Mo/Siミラー損失:6〜11枚のミラーを経るたびに光量が累積で90%近く失われる
- Shot noise:光子数が少ないことで生じる統計的ばらつきが、パターン品質と歩留まりを左右する
半導体産業はこの「効率の壁」に何十年も向き合い続けながら、光源出力の向上・ミラー反射率の改善・レジスト開発・ペリクル実装を積み上げて現在の量産EUVを実現させた。
2025年から量産出荷が始まったHigh-NA EUV(EXE:5200B)は、これらの課題をさらに一段高いレベルで要求する。Shot noiseの影響はNA=0.55でより深刻になり、ペリクルへの要件も厳しくなる。「光を作る」というEUV光源の根本的な難しさは、次世代でも変わらない。
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参考資料
- EUV露光装置とは?世界最難関の製造装置EUV露光機の仕組みを解説(西進商事)
- ASML Ships First High-NA EUV Production Scanner(Bits&Chips)
- ASML’s 30-Year Monopoly: Musketeer Project(StrangeVC)














