2026年7月1日に始動したノエトラ(Noetra)は、ソフトバンク・ソニー・NEC・ホンダの4社が中核となり、合計44社が出資する国産フィジカルAI基盤モデル開発会社です。44社は製造業28社・非製造業16社で構成されており、フィジカルAIの実現に必要な技術・設備・フィールドを持つ日本の主要企業がほぼ網羅されています。

本記事では、44社全社名と各社がフィジカルAI半導体サプライチェーンで担う役割を「半導体チップ」「AI計算機」「製造装置」「ロボット・制御」「センサー・車載」「素材・エネルギー」「実証フィールド」の7カテゴリに整理して解説します。

Contents
  1. 44社の全社名一覧
  2. カテゴリ①:半導体チップ・電子部品メーカー
  3. カテゴリ②:AI計算機・スーパーコンピューター
  4. カテゴリ③:半導体製造装置・計測機器
  5. カテゴリ④:産業ロボット・自動化機器
  6. カテゴリ⑤:工作機械メーカー
  7. カテゴリ⑥:車載・モビリティ系(半導体・センサー直結)
  8. カテゴリ⑦:素材・エネルギー(フィジカルAIの基盤インフラ)
  9. カテゴリ⑧:実証フィールド・データ供給
  10. まとめ:44社連合が描く「日本製フィジカルAIサプライチェーン」

44社の全社名一覧

まず44社全社名を業種別に整理します(メディア報道を元に整理)。

分類社名
中核4社(設立時)ソフトバンク
ソニーグループ
NEC(日本電気)
ホンダ(本田技研工業)
初期出資5社三菱UFJ銀行
三井住友銀行
みずほ銀行
日本製鉄
神戸製鋼所
新規製造業23社旭化成
オークマ
OKI(沖電気工業)
オムロン
川崎重工業
JFEスチール
島津製作所
シャープ
第一三共
ダイキン工業
ダイフク
DMG森精機
デンソー
東京エレクトロン
東芝
TOPPANホールディングス
日立製作所
ファナック
富士通
三菱電機
村田製作所
安川電機
ヤマザキマザック
新規非製造業12社SGホールディングス
鹿島建設
KDDI総合研究所
Sakana AI(サカナAI)
JERA
住友生命保険
大和ハウス工業
日本生命保険
プリファード・ネットワークス(PFN)
松尾研究所
三井住友海上火災保険
楽天グループ

以下では、フィジカルAIの半導体サプライチェーンにおける役割別に主要企業を解説します。

カテゴリ①:半導体チップ・電子部品メーカー

フィジカルAIに使われる半導体・電子部品を直接製造する企業群です。

ソニーグループ──CMOSイメージセンサー世界首位

ソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)は、CMOSイメージセンサー(CMOS Image Sensor:光を電気信号に変換する撮像半導体)の世界シェア約50%を持つトップメーカーです。

フィジカルAIにおけるソニーの役割:

  • 産業ロボット・検査用カメラ:高解像度・グローバルシャッター型(動体を歪みなく撮像)センサーを供給
  • 車載カメラ:IMX系CMOS(自動運転のフロント・サラウンドカメラ)
  • ToFセンサー(Time of Flight:光の飛行時間で距離計測):ロボットの近接センシングに使用

村田製作所──電子部品の世界的サプライヤー

MLCC(Multi-Layer Ceramic Capacitor:積層セラミックコンデンサ)世界シェア首位。フィジカルAI基板に実装される受動部品・高周波モジュールを供給します。また通信モジュール(Bluetooth・Wi-Fi)を組み込み機器向けに提供しており、エッジデバイスの無線通信を担います。

東芝──パワー半導体とストレージ

東芝デバイス&ストレージは、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)・MOSFET・SiCパワー半導体を製造します。これらはロボットのモーター駆動インバーターに不可欠です。また、フラッシュメモリ(NANDストレージ)は基盤モデルの重みデータの保管にも関わります。

OKI(沖電気工業)──通信・組込みシステム

組込みシステム・産業用プリンタ・ATMで知られるOKIは、エッジデバイス向け組込みソフトウェアとハードウェア設計の知見を持ちます。フィジカルAI端末の組込み実装に貢献が期待されます。

カテゴリ②:AI計算機・スーパーコンピューター

フィジカルAI基盤モデルの「学習」と「大規模推論」を担うコンピューティングインフラを持つ企業群です。

NEC──エッジAI推論チップとスパコン「SX-Aurora」

NECは日本で唯一、独自アーキテクチャのベクトルプロセッサ「SX-Aurora TSUBASA」を開発・製造しています。これはGPUと異なる設計思想——メモリ帯域幅を極限まで高めた大規模並列演算に特化——で、科学技術計算・AI推論に強みを持ちます。また、アイシンとのNEDO共同プロジェクトでスピントロニクスMRAM(Magnetoresistive RAM:磁気抵抗メモリ)を用いたエッジAIチップの研究も進行中です。

富士通──スーパーコンピューター「富岳」の後継機

富士通は世界最速スパコン「富岳」の設計・製造企業です。富岳後継機「富岳NEXT」はNVIDIAがGPU開発に参加し、2030年頃の稼働を目指しています。ノエトラの基盤モデル学習に「富岳NEXT」のインフラが活用される可能性があります。また、富士通独自のPRIMe HPCはAIとHPC(High Performance Computing:高性能計算)の融合に取り組んでいます。

プリファード・ネットワークス(PFN)──国産AI専用チップ「MN-Core」

PFNは日本唯一のAI専用チップ「MN-Core(Matrix/Network Core)」を開発したAI企業です。MN-CoreはAI推論・学習の行列演算に特化した独自設計で、NVIDIAのGPUとは異なるアーキテクチャを採用します。PFNの44社参加は、国産AIチップをノエトラのエコシステムに組み込む可能性を示唆しています。

日立製作所──産業IoT基盤「Lumada」とエッジコンピューティング

日立の産業IoTプラットフォーム「Lumada(ルマーダ)」は、工場・インフラから収集したデータをAIで分析する基盤です。ノエトラの基盤モデルにLumadaで収集した現場データを供給し、学習に活用するシナリオが考えられます。

カテゴリ③:半導体製造装置・計測機器

フィジカルAIチップを製造するための装置・計測機器を持つ企業群です。半導体チップそのものではなく「チップを作る機械」を担います。

東京エレクトロン(TEL)──半導体製造装置の世界2位

TELは半導体製造装置の世界シェア2位(ASML・Applied Materialsに次ぐ)。エッチング装置・成膜(CVD:Chemical Vapor Deposition)装置・洗浄装置・リソグラフィー関連装置を製造します。ノエトラが必要とするエッジNPU・CMOSセンサーの製造ラインにTEL製装置が使われます。フィジカルAI需要が拡大すれば、TELの装置需要も連動して伸びます。

島津製作所──分析装置と真空ポンプ

島津製作所はクリーンルームの真空排気に必要なターボ分子ポンプ・半導体製造工程での分析装置(質量分析計・X線分析装置)を製造しています。また医療診断装置では放射線検出器半導体にも関わります。

TOPPANホールディングス──半導体パッケージとフォトマスク

TOPPANは印刷技術から発展し、半導体製造に不可欠なフォトマスク(回路パターンを転写するガラス原版)と高密度実装用パッケージ基板を製造しています。特にFCBGA(Flip-Chip Ball Grid Array)パッケージは、エッジAI SoCの実装に使われます。

カテゴリ④:産業ロボット・自動化機器

フィジカルAIの「実行体」となるロボット・自動化機器を製造する企業群です。これらの企業はノエトラの「ユーザー」でありながら、技術を提供する「供給者」でもあります。

企業主力製品フィジカルAIとの接点
ファナック産業用ロボット・CNCコントローラー(世界トップシェア)ロボットの制御コントローラーにノエトラのエッジ推論を統合
安川電機産業用ロボット(世界4位)・サーボモーター・インバーターロボットアームのモーター制御とAI認識の統合
川崎重工業産業用ロボット・水素エネルギー・航空宇宙製造ラインのロボットへのAI推論搭載
オムロンセンサー・制御機器・協働ロボット(i-CART)センサーデータをAI入力に変換するPLC(プログラマブルロジックコントローラー)
ダイフク物流倉庫システム・AGV(Automated Guided Vehicle:無人搬送車)・コンベア物流ロボットへのフィジカルAI認識機能の搭載

カテゴリ⑤:工作機械メーカー

半導体製造装置・ロボットの部品精度を支える工作機械メーカーも参加しています。

企業主力製品フィジカルAIとの接点
オークマCNC(Computer Numerical Control:コンピューター数値制御)旋盤・マシニングセンタAI搭載スマート工作機械の実証フィールド
DMG森精機精密CNC複合加工機・5軸加工機切削加工のAI最適化・工具摩耗予測
ヤマザキマザック工作機械・レーザー加工機スマートファクトリー向けAI加工制御

カテゴリ⑥:車載・モビリティ系(半導体・センサー直結)

デンソー──車載半導体・センサーの総合サプライヤー

デンソーはトヨタグループの主要部品メーカーで、車載センサー・ECU(Electronic Control Unit:電子制御装置)・カメラ・LiDARモジュールを設計・製造します。特に自動運転向けのADAS(Advanced Driver-Assistance Systems:先進運転支援システム)センサーSoCは、フィジカルAIの車載展開に直接関わります。

三菱電機──パワーモジュールとFAロボット

三菱電機の半導体・デバイス部門はIPM(Intelligent Power Module:インテリジェントパワーモジュール)——SiCパワー半導体と駆動回路を1パッケージに統合したモジュール——を製造しています。ロボットのモーター駆動・産業インバーターに広く使われるほか、FAロボット「MELFA」シリーズの制御コントローラーも自社開発しています。

カテゴリ⑦:素材・エネルギー(フィジカルAIの基盤インフラ)

企業フィジカルAI半導体との関係
旭化成リチウムイオン電池向けセパレータ(ロボットバッテリー)・MRAM材料研究(磁性体)
日本製鉄モーター用電磁鋼板(ロボット・EV駆動モーターの鉄心素材として必須)
JFEスチール電磁鋼板(日本製鉄と同分野)・産業ロボット用高強度鋼材
神戸製鋼所半導体リードフレーム用銅合金・アルミ合金(ロボット軽量化素材)
ダイキン工業データセンター・クリーンルームの冷却空調(フッ素冷媒)
JERAAIデータセンター・工場への安定電力供給(再エネ含む)

カテゴリ⑧:実証フィールド・データ供給

フィジカルAI基盤モデルの学習には「現場のリアルデータ」が不可欠です。以下の企業は「データを持つ実証フィールド」として参加しています。

企業提供できるフィールド・データ
ホンダ自動車工場の製造ライン映像・ロボット動作データ・ASIMOの動作ログ
SGホールディングス(佐川急便)物流倉庫の仕分けロボット映像・配送AGVデータ
大和ハウス工業スマート工場・物流施設のセンサーデータ・建設現場の映像
鹿島建設建設ロボット(溶接・資材搬送)の現場映像・施工データ
第一三共医薬品製造ライン(GMP工場)の品質検査データ・ロボット作業映像
楽天グループドローン配送・EC倉庫の自動化データ

まとめ:44社連合が描く「日本製フィジカルAIサプライチェーン」

ノエトラ44社連合を俯瞰すると、フィジカルAIに必要な要素が意図的に揃えられていることがわかります。

サプライチェーンの層担う企業(代表例)
AI基盤モデル学習インフラソフトバンク(GPU調達)・富士通(スパコン)・NEC(スパコン)・JERA(電力)
エッジAI推論チップNEC(Vector Engine)・PFN(MN-Core)・東芝(パワー半導体)
センサー半導体ソニー(CMOS)・デンソー(車載センサー)・オムロン(工業センサー)・島津(計測)
半導体製造装置東京エレクトロン(成膜・エッチング)・島津(真空ポンプ)・TOPPAN(フォトマスク)
ロボット本体・制御ファナック・安川電機・川崎重工・三菱電機(FA)・ホンダ(ヒューマノイド)
素材・電子部品村田製作所(電子部品)・旭化成(素材)・神戸製鋼所(銅合金)・日本製鉄(電磁鋼板)
実証フィールド・データSGホールディングス・ダイフク・鹿島・大和ハウス・第一三共・楽天

この44社は単なる「お金を出すだけの出資者」ではありません。技術・データ・フィールドのそれぞれで具体的な貢献ができる企業が集まっており、ノエトラは日本の製造業が蓄積してきた現場ノウハウを国産AIに還流させる「産業インターフェース」として機能することが期待されています。

関連記事:ノエトラ(Noetra)とは?フィジカルAI国産基盤モデルの全貌ノエトラが動かす半導体需要の全貌フィジカルAI vs 生成AI──半導体の要件はここまで違うラピダス × ノエトラ:国産AI×国産チップは実現するか

ノエトラ(Noetra)株式会社とは?フィジカルAI国産基盤モデルの全貌と半導体業界への影響ソフトバンク・ソニー・NEC・ホンダが出資した国産AI企業「Noetra(ノエトラ)」を徹底解説。経産省が1兆円を投じるフィジカルAI基盤モデル開発の概要・44社連合の意義・半導体業界へのインパクトをわかりやすく紹介。...
ノエトラが動かす半導体需要の全貌──学習GPU・HBM4・エッジNPU・センサーSoCを技術視点で解説【2026年版】ノエトラ(Noetra)のフィジカルAIプロジェクトが半導体需要をどう変えるか。学習フェーズのGPU・HBM4から、エッジ推論のNPU・SoC、センサー半導体まで、技術仕様レベルで全セグメントを解説。...
ABOUT ME
semi-connect編集室
半導体業界の技術・企業・市場動向を発信するブログ「semi-connect.net」の管理人。半導体プロセス・前工程・後工程からエレクトロニクス企業の財務分析まで、業界の基礎から最新情報をわかりやすく解説します。