光電融合やCPO(コパッケージドオプティクス)を語るうえで、必ず登場するのがシリコンフォトニクスという言葉です。シリコンフォトニクスは、光電融合を実現するための中核となる基盤技術であり、AIデータセンターの省電力化を支える鍵でもあります。

この記事では、シリコンフォトニクスの仕組み・なぜシリコンを使うのか・構成要素・レーザ問題・光電融合(CPO)との関係・用途・課題までを、半導体メディアの視点でわかりやすく解説します。

シリコンフォトニクスとは?

シリコンフォトニクスとは、半導体でおなじみのシリコン基板の上に、光を通す導波路や光部品を作り込み、光回路を集積する技術です。電子回路をシリコンに集積するのと同じ発想を、「光」に対して行うものと考えると分かりやすいでしょう。

こうして光部品を集積したチップを光集積回路(PIC:Photonic Integrated Circuit)と呼びます。電子回路のチップ(EIC:Electronic IC)に対して、光の信号処理を担うのがPICです。シリコンフォトニクスは、このPICを、既存の半導体製造インフラで大量に作れるようにした点に大きな意義があります。

なぜ「シリコン」を使うのか?

光回路の材料には化合物半導体など他の選択肢もありますが、あえてシリコンを使うことには明確な理由があります。

  • 既存のCMOS製造資産を流用できる:成熟したシリコン半導体の製造ライン・設計資産をそのまま使えるため、大量生産・低コスト・高集積を実現しやすい
  • 近赤外の光に対して透明:光通信で使う波長帯(1.3〜1.55μm付近)でシリコンは光をよく通すため、光導波路の材料に向いている
  • 電子回路と集積しやすい:電子と光を同じプラットフォームに載せやすく、光電融合と相性がよい

つまりシリコンフォトニクスは、「半導体産業が積み上げてきた製造力を、光の世界にそのまま活かせる」点が最大の強みです。

シリコンフォトニクスの構成要素

PICは、いくつかの光部品を組み合わせて構成されます。代表的な要素を整理します。

要素役割
光導波路チップ内で光を運ぶ「配線」。シリコンの細い線で光を閉じ込めて伝える
変調器(モジュレータ)電気信号に合わせて光を変化させ、電気→光に変換(E/O)。マイクロリング型・マッハ・ツェンダー型が代表的
受光器(フォトディテクタ)届いた光を電気に戻す(O/E)。シリコン上にゲルマニウム(Ge)を形成して実現することが多い
グレーティングカプラ/スポットサイズ変換器光ファイバーとチップの間で光を出し入れする結合部
光源(レーザ)光のもと。シリコンは発光が苦手なため、別材料を組み合わせる(後述)

シリコンの弱点 ―― 「光らない」レーザ問題

シリコンフォトニクスには、一つ大きな弱点があります。シリコンは効率よく光を出せない(発光に向かない)のです。シリコンは「間接遷移型」の半導体で、電気を光に変えるレーザ光源には適していません。

そこで、光源には発光に優れた化合物半導体(InP/GaAsなどのIII-V族)を使い、シリコンと組み合わせます。主な方式は次の通りです。

  • 外部レーザ:チップの外にレーザを置き、光を導入する(CPOで多い方式)
  • 異種集積(ハイブリッド集積):化合物半導体のレーザをシリコン上に貼り合わせる
  • メンブレン技術など:薄膜化した化合物半導体をシリコン上に集積する先端手法(NTTなどが開発)

この「レーザをどうシリコンと融合させるか」は、シリコンフォトニクス最大の技術課題の一つであり、各社・各研究機関が競っている領域です。

光電融合・CPOとの関係

シリコンフォトニクスは、光電融合を物理的に実現するためのプラットフォームです。とりわけCPO(コパッケージドオプティクス)では、電気を光に変える光エンジンの中身が、まさにシリコンフォトニクスで作られたPICです。

CPOの光エンジンは、電子チップ(EIC)と光チップ(PIC)を高密度に集積して構成されます。このPICを支えているのがシリコンフォトニクスであり、両者を3次元に接合する先端パッケージング(TSMCのCOUPEなど)と組み合わせることで、CPOが成り立ちます。

整理すると、シリコンフォトニクス=光回路をつくる基盤技術/CPO=それをASICと一体実装する方式/光電融合=その全体像、という関係になります。

シリコンフォトニクスの用途

シリコンフォトニクスの応用は、光通信を中心に広がっています。

  • 光トランシーバ:データセンター内の光通信モジュール
  • CPO/光I/O:AIデータセンターのスイッチやプロセッサ周辺の高速・省電力通信
  • センシング・LiDAR:距離計測や自動運転向けのセンサー
  • バイオ・医療センサー:微量物質の検出など
  • 量子コンピューティング:光量子回路の基盤としても研究が進む

主要プレイヤーと動向

シリコンフォトニクスは、半導体ファウンドリと光デバイス企業がしのぎを削る分野です。TSMCはEICとPICを3D接合するCOUPEを展開し、各社CPOの製造基盤を握ります。インテルは早くからシリコンフォトニクスを手がけた先駆者で、GlobalFoundriesや欧州の研究機関imecもファウンドリ・研究で存在感を持ちます。光I/OチップレットのAyar Labsなどの専業企業も台頭しています。日本ではNTT産総研が、メンブレン技術や光電融合の研究で先行しています。

シリコンフォトニクスの課題

  • レーザの集積:シリコンが発光しないため、化合物半導体レーザの集積と、その熱対策が難しい
  • 光ファイバーとの結合損失:チップと光ファイバーを高精度に接続する必要があり、結合部の損失低減が課題
  • 温度依存性:マイクロリング変調器などは温度に敏感で、温度制御や補償が必要
  • テストと標準化:電気・光の両面を検査する必要があり、量産の歩留まりや標準化が課題

よくある質問(FAQ)

Q. シリコンフォトニクスと光電融合は同じものですか?

厳密には違います。光電融合は「光と電気を融合する」という大きな概念・取り組み全体を指し、シリコンフォトニクスはそれを実現するための具体的な基盤技術の一つです。光電融合を支える土台がシリコンフォトニクス、という関係です。

Q. なぜシリコンは光を出せないのですか?

シリコンは「間接遷移型」の半導体で、電子のエネルギーが光として効率よく放出されにくい性質があるためです。そのため光源には、発光に優れた化合物半導体(InPなど)を組み合わせます。

Q. PIC(光集積回路)とは何ですか?

光導波路・変調器・受光器などの光部品を1つのチップに集積したものです。電子回路のチップ(EIC)に対して、光の信号処理を担うチップがPICです。

まとめ

  • シリコンフォトニクスは、シリコン上に光回路(PIC)を集積する技術。光電融合を実現する基盤。
  • シリコンを使う理由はCMOS製造資産の流用(大量生産・低コスト・高集積)と、近赤外光への透明性。
  • 構成要素は導波路・変調器・受光器・結合部・レーザ。ただしシリコンは発光が苦手で、レーザの集積が最大の課題。
  • CPOの光エンジン(PIC)はシリコンフォトニクスで作られ、先端パッケージングと組み合わさって光電融合を実現する。
  • 用途は光トランシーバ・CPO・センシング・LiDAR・量子まで広がる。

シリコンフォトニクスは、半導体産業の製造力を「光」に拡張し、光電融合を現実のものにする土台です。CPOや光電融合の全体像については、関連記事もあわせてご覧ください。

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