2026年7月15日、ASMLは2026年Q2の決算を発表した。売上93億ユーロ・粗利率54%・EPS(一株当たり利益)8.69ドルはいずれも市場予測を上回り、2026年通期ガイダンスを430〜450億ユーロに大幅上方修正した。年初のガイダンス(340〜390億ユーロ)からわずか半年で100億ユーロ以上の引き上げだ。

同日、Intelが「High-NA EUVを使った世界初の量産ロジックチップを出荷した」とASMLが確認した。EUV新世代の量産開始と過去最高水準の業績が重なり、業界に転換点が訪れたことを印象づけた。

本記事では2024〜2026年の業績推移・ガイダンス上方修正の背景・受注残の構造・粗利率54%の秘密・成長ドライバーとリスクを財務の視点から徹底分析する。

業績推移──2年で売上が1.6倍になった

指標2024年通年2025年通年2026年上半期(実績)2026年通年(ガイダンス)
売上高€28.3B€32.7B(+31%)€18.1B€43B〜€45B
純利益€7.6B€9.6B(+27%)
粗利率51.3%52.8%54%(Q2単体)54〜56%
受注残(期末)€26.9B€38.8B(+44%)

2024年通年の283億ユーロから2026年ガイダンスの430〜450億ユーロまで、2年で1.5〜1.6倍の成長だ。製造装置業界でこれほどの急成長は異例で、背景にはAI関連需要の爆発的拡大がある。

2026年Q2単体(93億ユーロ)で見ると、2025年通年売上の約28%を1四半期で稼いでいる計算だ。通期ガイダンスが430〜450億ユーロなら、下半期も同水準以上の売上継続が前提になっている。受注残388億ユーロはその裏付けだ。

2026年ガイダンス──3段階の上方修正

2026年のガイダンスは1月から7月にかけて3段階で引き上げられた。この経緯が市場の想定を超えたAI需要の強さを示している。

時点売上高予想粗利率予想引き上げ幅
2026年1月(初期ガイダンス)€34B〜€39B51〜53%
2026年4月(Q1決算後)€36B〜€40B51〜53%+€2B(下限)
2026年7月(Q2決算後)€43B〜€45B54〜56%+€7B(下限)、+€5B(上限)

年初から7月までで下限が9億ユーロ→43億ユーロへ、つまり26%以上の上方修正が行われた。これは「需要予測が外れた」のではなく、「需要が想定より速く積み上がった」ことを意味する。受注残のペースが予想を上回ったため、生産・出荷スケジュールを前倒しできたことが反映されている。

受注残388億ユーロの構造──2027年まで生産枠が埋まっている

2025年末の受注残(バックログ)は388億ユーロで過去最高を更新した。これは2025年通年売上(327億ユーロ)の約1.2倍に相当する。

特筆すべきは2025年Q4の受注だ。この四半期の純受注は132億ユーロに達し、アナリスト予想(68.5億ユーロ)の約2倍となった。うちEUV受注だけで74億ユーロ。メモリ向けの大型EUV受注が複数入ったとみられている。

項目数値意味
受注残(2025年末)€38.8B約1.2年分の売上に相当
2025年Q4純受注€13.2Bアナリスト予想の約2倍
うちEUV受注€7.4BEUV 1台200〜530億円換算で数十台分
生産枠の見通し2027年末まで満杯追加発注しても早くて2028年納入

「受注残が2027年まで埋まっている」とはどういう意味か。TSMC・Samsung・SK Hynix・Intelなどが今から新規発注しても、装置の納入は2028年以降になるということだ。これはASMLの生産能力が需要に追いつかない状態であり、価格決定力が非常に高いことを意味する。

構造変化──メモリがロジックを初めて上回った

2025年Q4に注目すべき変化が起きた。EUVの受注においてメモリ(56%)がロジック(44%)を初めて上回ったのだ。

従来、EUV露光機の主要顧客はTSMC(ロジック)が中心だった。TSMCのN7・N5・N3・N2といった先端ロジックノードがEUVの主戦場だった。しかし2025〜2026年にかけて、AI需要の爆発でHBM(High Bandwidth Memory)向けの設備投資が急拡大し、SK HynixとSamsungのEUV導入が急速に進んだ。

需要源2023年2025年Q4主な顧客
ロジック(先端ファウンドリ)主力(約70%以上)44%TSMC・Intel・Samsung Foundry
メモリ(DRAM・HBM)補完的(約30%以下)56%SK Hynix・Samsung・Micron

この変化の背景はAIだ。NVIDIAのH100・H200・B100/B200といったGPUに積層されるHBMの需要が急増し、SK Hynixを中心にHBM製造ラインへのEUV投資が加速している。High-NA EUVでメモリ向け世界初採用をSK Hynixが行ったことも(2025年9月)、この流れを象徴している。

粗利率54%の秘密──製造装置企業としてなぜここまで高いのか

2026年Q2の粗利率54%は、製造装置業界としては異例の高さだ。競合他社(Applied Materials約47%・Lam Research約47%・KLA約60%)と比較しても際立つ。なぜASMLだけがこれほど高い粗利率を維持できるのか。

理由①:独占ゆえの価格決定力

EUV露光機を製造・販売できるのはASML1社のみだ。競合が存在しなければ価格競争は起きない。顧客(TSMC・Samsung・SK Hynix・Intel)は「ASMLから買うか、作らないか」の2択しかない。この独占構造が高価格・高粗利を可能にしている。

理由②:インストールベース管理(IBM)事業

ASMLの収益は装置本体の販売だけではない。「インストールベース管理(IBM:Installed Base Management)」と呼ばれるサービス事業が粗利率を押し上げている。

IBM事業の内容は以下の通りだ:

  • 定期保守・フィールドサービス:世界中のEUV/DUV装置に数千人のASMLエンジニアが常駐・巡回
  • アップグレード販売:既設置済みの装置にソフトウェア・ハードウェアのアップグレードを販売(例:スループット向上キット・精度改善モジュール)
  • 消耗品・交換部品:EUV光源のスズ消耗・光学系コーティング劣化への対応部品

IBM事業の粗利率は装置本体販売より高く、しかも装置1台が納入されると数十年にわたって継続収益を生む「ストック型」のビジネスだ。出荷台数の積み上がりとともにIBM収益が大きくなる複利的な構造だ。

理由③:High-NA EUVの単価上昇

EXE:5200B(High-NA量産機)の価格は1台約3.5億ドル(≈530億円)で、NXE:3800E(Low-NA量産機)の約1.75倍だ。High-NA出荷が増えるにつれて、1台あたりの平均売価(ASP)が上昇し、粗利率が改善する方向に働く。2026年通期ガイダンスで粗利率が54〜56%に引き上げられたのは、High-NA EUV出荷本格化の影響が大きい。

地域別売上構成──中国20%は「下限」として固定化

対中輸出規制の影響で中国向け売上比率は2024年36%→2026年Q1 19%に急落したが、ASML全体の業績は過去最高水準が続いている。地域ポートフォリオの変化を整理する。

地域2024年比率2026年Q1比率主要顧客
台湾約34%増加傾向TSMC(N2/A16量産向け)
中国36%19%SMIC・華虹(DUV旧世代中心)
韓国約17%増加傾向SK Hynix(HBM)・Samsung
米国約10%増加傾向Intel(14A向けHigh-NA)・Micron
その他(日本・欧州等)残り安定キオクシア・ラピダス等

中国売上が17%分(約60億ユーロ相当)失われた分を、台湾・韓国・米国のAI需要が補って余りある。TSMCのN2量産拡大・SK HynixのHBM3E/HBM4向けEUV追加・IntelのHigh-NA EUV本格稼働が重なり、2026年ガイダンスは年初から26%以上も上方修正された。

株価・バリュエーション──「次の目標は,000か」

2026年7月のQ2決算を受けた市場の反応は強気だった。

指標数値
アナリスト平均目標株価$2,422
JPモルガン目標株価$2,400
ウェルズ・ファーゴ目標株価$2,500
アナリスト強気予想(高値)$2,811
アナリスト弱気予想(安値)$2,100

Motley Foolは決算翌日(2026年7月17日)に「ASMLの次の目標株価は$3,000か?」という分析を公開した。ガイダンスが年初から3回引き上げられており、受注残が2027年分まで積み上がっている状況は、業績の視認性(ビジビリティ)が高いとして機関投資家に評価されている。

成長ドライバーとリスク要因

成長ドライバー(4つ)

① AI需要の持続:NVIDIAのBlackwellアーキテクチャ後継・GoogleのTPU・AWS・MicrosoftのAIインフラ投資が続く限り、HBM・先端ロジックへの設備投資は高水準を維持する。TSMCは2025〜2027年の設備投資計画(CAPEX)を過去最高水準に設定している。

② High-NA EUVの台数拡大:2027年のHigh-NA出荷計画は10台。1台約3.5億ドルのため、High-NA単体で約35億ドル(約5,000億円超)の売上規模だ。台数が増えるにつれてIBM収益も積み上がり、粗利率改善が期待される。

③ メモリ向けEUV深化:SK Hynix・Samsung・MicronのDRAM/HBMへのEUV投入が1β→1γ→1δと世代が進むにつれて、1ウェハあたりのEUV露光ステップ数が増加する。台数以上に「装置利用密度」が上がる方向だ。

④ 先進パッケージング需要:TSMCのCoWoS(Chip on Wafer on Substrate)・Samsung HBM積層・IntelのFoveros等の先進パッケージング拡大により、ArF液浸露光機(NXT:2150i等)の需要も増大している。EUV以外のDUV製品群の収益貢献が高まっている。

リスク要因(4つ)

① 追加輸出規制強化:MATCH法等でNXT:1980iなどの旧世代DUVまで規制対象が拡大すれば、中国売上20%がさらに失われるリスクがある。現行の中国向け売上は規制対象外の旧型DUVが主体だ。

② 半導体サイクルの反転:AI需要が一巡・設備過剰になると、顧客(TSMC・Samsung・SK Hynix)が設備投資を削減する。2022〜2023年のようなメモリ不況期に受注が急減するリスクは常にある。

③ サプライチェーン制約:Carl Zeiss SMT(光学系)の生産能力が露光機出荷のボトルネックになる可能性は過去にも指摘された。需要が急増した際に生産能力が追いつかなければ、ガイダンスを下方修正せざるを得ない。

④ High-NA EUVの量産立ち上げリスク:High-NA(EXE:5200B)はIntelで受入試験を完了し量産チップ出荷まで進んだが、他顧客(Samsung・SK Hynix)での量産立ち上げが遅れれば、高単価製品の出荷計画に影響する。

まとめ──ASMLは「AI時代の唯一の入口」としての地位を確固にした

ASMLの2026年上半期の業績を整理すると、以下の構造が見えてくる。

  • 売上:2024年の283億ユーロから2026年予想430〜450億ユーロへ2年で1.6倍
  • 粗利率:54%まで上昇。High-NA EUVの単価上昇とIBM事業の拡大が要因
  • 受注残:388億ユーロで2027年まで生産枠が埋まっている
  • 構造変化:メモリ(HBM)がロジックを初めて上回り、AI需要が業績の主役に
  • 中国売上:36%→19%に急落したが、AI需要が代替を大幅に上回って補填

ASMLへの投資は「AI半導体の成長に賭ける」ことと実質的に同義になりつつある。AIチップを作るにはEUV露光機が必要で、EUV露光機はASMLしか作れないからだ。「唯一の入口」としての地位は、対中規制・競合参入・景気サイクルというリスクを上回る構造的な優位性として、2026年現在も健在だ。

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参考資料

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