光電融合の覇権争い:NVIDIA vs BroadcomのCPO戦略を比較【2026年最新】

AIデータセンターの電力問題を解く切り札として、光電融合の代表的な実装であるCPO(コパッケージドオプティクス)が、2026年にいよいよ本格的に立ち上がろうとしています。
その主役が、スイッチ用半導体(ASIC)の二大巨頭、NVIDIA(エヌビディア)とBroadcom(ブロードコム)です。
両社はともにTSMCの技術を使いながら、変調器の方式も、事業戦略もはっきり異なるアプローチを取っています。
この記事では、NVIDIAとBroadcomの光電融合(CPO)戦略を、最新動向(2025〜2026年)をふまえて比較し、その違いが何を意味するのかを半導体メディアの視点で読み解きます。
なぜこの2社なのか
光電融合のCPOは、まずネットワークスイッチから実用化が進んでいます。
スイッチASICの世界的リーダーであるNVIDIAとBroadcomが、そのまま光電融合の最前線でも主役になっているのは自然な流れです。
両社とも、AIクラスタの「数百万GPU」時代に向けて、電力と帯域の壁を光で越えようとしています。
NVIDIA vs Broadcom ―― 光電融合(CPO)戦略 比較表
| 項目 | NVIDIA | Broadcom |
|---|---|---|
| 主な製品 | Quantum-X Photonics(InfiniBand)/Spectrum-X Photonics(Ethernet) | Tomahawk 6 – Davisson(Ethernet) |
| 容量 | Quantum-X:約115Tbps(144×800G)/Spectrum-X:最大400Tbps | 102.4Tbps(64×1.6TbE、最大512×200G) |
| 変調器 | マイクロリング変調器(小型・低電圧) | マッハ・ツェンダー型(熱に強い・実績) |
| 実装基盤 | TSMC COUPE、EIC+PICを3D積層、液冷 | TSMC COUPE、基板レベルのマルチチップ実装 |
| レーザ | 外部光源(Lumentum・Coherent)、着脱式の光サブアセンブリ(OSA) | 外部光源、交換可能なレーザモジュール(FRU) |
| 電力効率(自社主張) | プラガブル比 約3.5倍、信頼性は約10倍 | 光インターコネクト電力を70%削減(プラガブル比3.5倍超) |
| 時期 | Quantum-X:2026年前半に商用化/Spectrum-X:2026年後半見込み | TH6-Davisson:2025年10月に出荷開始(第3世代) |
| 戦略 | 垂直統合(NVLink+光の一体提供) | マーチャント(広く外販)・モジュラー |
NVIDIAの光電融合戦略
NVIDIAは2025年3月のGTCで、CPO対応のスイッチ「Quantum-X Photonics」(InfiniBand)と「Spectrum-X Photonics」(Ethernet)を発表しました。Quantum-Xは144ポート×800G(合計約115Tbps)を完全液冷で実現し、2026年前半に商用化。
Spectrum-Xは最大400Tbpsで2026年後半が見込まれています。
SC25では、Lambda・CoreWeave・テキサス先端計算センター(TACC)といった採用先も明らかにされました。
技術面の特徴は、マイクロリング変調器の採用です。
小型で駆動電圧が低く、1ビットあたりのエネルギーを抑えやすい反面、温度に敏感で、これが液冷採用の背景にもなっています。
光源は熱に弱いため外部に置き、着脱式の光サブアセンブリ(OSA)として現場交換できる設計で、CPO最大の弱点だった保守性に対応しています。
戦略面では、NVIDIAは垂直統合が際立ちます。
独自のNVLinkと光技術を組み合わせ、計算(GPU)とネットワーク(ファブリック)を一体で提供する「compute+fabric」を志向。
さらにレーザ供給を確保するため、CoherentとLumentumにそれぞれ20億ドル規模を出資し、サプライチェーンを囲い込んでいます。
AI factory全体を自社エコシステムで固める狙いです。
Broadcomの光電融合戦略
Broadcomは2025年10月、業界初の102.4Tbps CPOイーサネットスイッチ「Tomahawk 6 – Davisson」の出荷を開始しました。
ASICの周囲に16個×6.4Tbpsの光エンジンを配置し、64ポートの1.6TbE(最大512×200G)を実現します。
光インターコネクト電力を70%削減(プラガブル比3.5倍超)するとしています。
Broadcomの強みは、CPOの実績の長さです。
2021年から開発を続け、Tomahawk 4・Tomahawk 5(Bailly、51.2Tbps)でCPO製品を重ね、Davissonは第3世代にあたります。
変調器には、大きめだが熱に強く実績のあるマッハ・ツェンダー型を採用。
光源は交換可能なレーザモジュール(FRU)とし、故障率の高いレーザを現場で交換できる、堅実な信頼性設計を打ち出しています。
戦略面では、Broadcomはマーチャント(外販)モデルです。
自社のスイッチシリコンを幅広い顧客に供給し、Micas NetworksやHPEなどと連携。
モジュラーで導入しやすく、既存のサプライチェーンを活かす現実路線が特徴です。
すでに次の第4世代(チャネルあたり帯域をDavisson比で倍増)も開発中とされています。
技術の違い :マイクロリング vs マッハ・ツェンダー
両社の最も分かりやすい技術的な違いが、変調器(電気を光に変える部品)の方式です。
- NVIDIA:マイクロリング変調器……直径10μm程度と小型で、駆動電圧・消費エネルギーを抑えやすい。波長多重にも向く。ただし温度変化に敏感で、精密な温度制御(液冷など)が必要
- Broadcom:マッハ・ツェンダー型……サイズは大きめだが温度に対して安定で、長年の実績がある。堅実だが省電力・小型化では工夫が要る
「小型・低電力だが温度管理が難しいマイクロリング」か、
「大きいが安定・実績のマッハ・ツェンダー」か
この選択が、冷却方式や信頼性設計の違いにもつながっています。
どちらが正解と決まったわけではなく、両社の思想の違いが表れた部分です。
戦略の違い ―― 垂直統合 vs マーチャント
技術以上に対照的なのが、事業戦略です。
- NVIDIA(垂直統合):GPU・NVLink・光ファブリックを一体で提供し、AIインフラ全体を自社エコシステムで固める。分解(disaggregate)しにくい「囲い込み」型。最先端ハイパースケーラを最初から狙う
- Broadcom(マーチャント):スイッチシリコンを広く外販し、誰でも使えるモジュラーな部品として提供。実績と供給網を武器にした現実路線
NVIDIAが「AIシステムまるごと」を売るのに対し、Broadcomは「優れた部品」を売る——この立ち位置の違いが、両社の光電融合戦略の根本にあります。
共通点 ―― 勝敗を握るのはパッケージングとレーザ
アプローチは異なる両社ですが、共通の土台もあります。それが、ここでも半導体メディアとして強調したいポイントです。
- TSMCのCOUPE:両社とも、電子チップ(EIC)と光チップ(PIC)を3次元に集積するTSMCの先端パッケージングを採用。光電融合の勝敗は、後工程・パッケージングの実力が握る
- 外部レーザ(InP):高出力のリン化インジウム(InP)レーザは外付けが基本。これによりLumentumやCoherentが、組み立て業から「レーザの製造拠点」へと役割を変えつつある
光電融合は、変調器やスイッチASICだけでなく、異種集積(ヘテロジニアス集積)パッケージングと光源サプライチェーンが一体となって初めて成立します。NVIDIAがレーザ企業に巨額出資したのも、この供給網の重要性を物語っています。
今後の見通し
2026年は、光電融合(CPO)が「実証」から「実装」へ移る転換点になりそうです。Broadcomが先行出荷し、NVIDIAが商用化を進め、初期の運用データが2026〜2027年に蓄積されていきます。ポート速度は800Gから1.6T(NVIDIAの次世代NIC「ConnectX-9」など)へ向かい、Broadcomも第4世代で帯域を倍増させる構えです。
ただし、CPOはまだ黎明期です。信頼性の長期データはこれから蓄積される段階であり、どちらの方式・戦略が主流になるかは未確定です。当面はプラガブルやLPOと併存しながら、AIの最先端から段階的に広がっていくとみられます。
よくある質問(FAQ)
Q. NVIDIAとBroadcom、どちらが優れていますか?
一概には言えません。NVIDIAは垂直統合で最先端AIインフラを一体提供、Broadcomは実績のあるマーチャント型で堅実——と狙う市場と思想が異なります。技術(変調器)も冷却や信頼性の設計思想の違いであり、優劣が確定したわけではありません。
Q. 変調器の違い(マイクロリング/マッハ・ツェンダー)は何に効きますか?
消費電力・サイズ・温度耐性・信頼性のバランスに効きます。マイクロリングは小型・低電力ですが温度管理が必要、マッハ・ツェンダーは安定・実績がある一方で省電力化に工夫が要ります。
Q. 光電融合(CPO)はいつ普及しますか?
2025〜2026年に最初の製品が出そろい、2026年が本格的な立ち上がりの年とされます。ただし本格普及には、信頼性データの蓄積やコスト・標準化の課題を越える必要があります。
まとめ
- 光電融合(CPO)の実用化をけん引するのは、スイッチASIC二大巨頭のNVIDIAとBroadcom。
- NVIDIA=マイクロリング+液冷、垂直統合(NVLink+光)、レーザ企業に巨額出資。Quantum-Xを2026年前半に商用化。
- Broadcom=マッハ・ツェンダー、第3世代の実績、交換可能レーザ、マーチャント型。102.4TのDavissonを2025年10月に出荷開始。
- 違いは変調器(小型/安定)と戦略(垂直統合/外販)に集約される。
- 共通の土台はTSMC COUPEのパッケージングと外部InPレーザ。勝敗は後工程・サプライチェーンが握る。
光電融合の覇権争いは、変調器やスイッチだけでなく、パッケージングと光源サプライチェーンまで巻き込んだ総力戦です。光電融合・CPOの全体像については、関連記事もあわせてご覧ください。
※本記事は2026年6月時点の各社発表・業界報道に基づきます。性能数値は各社の発表・主張による代表値で、第三者の独立検証とは性格が異なります。動向の速い分野のため、最新情報は各社の公式発表をご確認ください。













