Tower Semiconductorとは?TSMCと戦わないイスラエル発・特化型ファウンドリの全貌2026

「最先端ノードには手を出さない」という逆張り戦略
半導体ファウンドリと聞けば、多くの人はTSMCを思い浮かべる。
最先端プロセスを競い合うメーカーが注目を集める一方で、「その競争に参加しない」ことを戦略の柱に据えた企業がある。
イスラエルを本拠とするTower Semiconductor(タワー・セミコンダクター、NASDAQ:TSEM)だ。
TSMCやSamsung Foundryが積極的に扱わない特殊プロセス──シリコンフォトニクス・RF CMOS・SiGe(シリコンゲルマニウム)・BCD──に特化することで、競合が少ない高付加価値ニッチに独自の地位を築いてきた。
この「特化型ファウンドリ(Specialty Foundry)」という戦略が、2026年時点で大きな実を結びつつある。
2026年7月、Towerは日本で30億ドルの投資計画を発表した。
AIデータセンター向けシリコンフォトニクスの需要急増を背景に、富山・新潟の2ファブを拡張する。
日本政府(METI)は10億ドル(約1,600億円)の補助金を用意してこの投資を後押しする。
本記事ではTower Semiconductorの設立経緯・事業モデル・グローバルファブ体制・Intel買収騒動・最新の成長戦略を包括的に解説する。
会社基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 設立 | 1993年(National Semiconductorの150mmファブ取得を機に創業) |
| 本社 | イスラエル・ミグダル・ハエメク(Migdal Haemek) |
| 上場 | 1994年(NASDAQ:TSEM) |
| 2025年通期売上 | 15.66億ドル(前年比+9%) |
| 2025年Q4売上 | 4.40億ドル(前年同期比+14%) |
| 2028年目標 | 売上36億ドル・純利益12億ドル |
| 主な拠点 | イスラエル・米国(カリフォルニア・テキサス・ニューメキシコ)・日本(富山・新潟)・イタリア |
設立から30年超で売上15億ドル規模に成長し、2028年には36億ドルという大胆な目標を掲げている。
この急成長を牽引しているのが、AIデータセンター向けシリコンフォトニクスの受注急増だ。
2026年5月に確定した2027年向けのSiPho受注額だけで13億ドルに達し、前払い金2.9億ドルを受領済みだ。
特化型ファウンドリとは何か
半導体ファウンドリは大きく2種類に分類できる。
最先端ロジックファウンドリ(TSMC・Samsung Foundry・Intel Foundry)は、スマートフォンやAIチップの演算を担うロジック半導体を最小ノード(2nm・3nm・5nm)で製造する。数兆円規模の設備投資と高い収益性が特徴だが、競合も熾烈だ。
特化型ファウンドリはその反対の戦略を取る。ノードの微細化競争には参加せず、「特殊なアナログ・RF・光・電力プロセス」という最先端ファウンドリが積極的には手を出さない領域に特化する。
Towerが得意とするプロセスはすべてこのカテゴリに属する。
シリコンフォトニクスは「シリコン基板上に光素子を作る」技術であり、通常のCMOSロジックとは製造工程が根本的に異なる。
SiGeは「ゲルマニウムとシリコンを混合した高周波用素材」の取り扱いを要し、BCDは「3種類のトランジスタを1チップに集積する」難度の高い工程だ。
これらのプロセスは習得に長い年数がかかり、TSMCが「割に合わない」と判断する領域でもある。
6つの主力プロセス技術
| プロセス | 用途 | 主な顧客業界 |
|---|---|---|
| シリコンフォトニクス(SiPho) | AIデータセンター向け光インターコネクト | HPC・データセンター |
| RF CMOS / RF-SOI | スマートフォンRFフロントエンド・IoT | 通信・自動車 |
| SiGe(シリコンゲルマニウム)BiCMOS | 5G ミリ波・車載レーダー・高周波通信 | 通信・自動車・航空 |
| BCD(バイポーラ・CMOS・DMOS) | パワーマネジメントIC・モータドライバ | 自動車・産業・スマートフォン |
| CMOS Image Sensor(CIS) | 産業・医療・科学用撮像 | 医療機器・産業機械 |
| MEMS | 圧力センサー・加速度センサー | 自動車・IoT |
このラインナップの共通点は「デジタル演算ではなく、現実世界との接点になる半導体」であることだ。光を信号に変える、電波を処理する、電力を制御する、物理量を計測する──これらはすべてアナログ・RF・フォトニクスの世界だ。スマートフォンのAIチップはTSMCが作るが、そのチップに電力を供給するパワーICや5G通信を行うRFフロントエンドはTowerのような特化型ファウンドリの製品に依存している。
グローバルファブ体制
| ファブ | 場所 | ウェーハサイズ | 主プロセス |
|---|---|---|---|
| Fab 1 | イスラエル・ミグダル・ハエメク | 150mm | アナログ・混載 |
| Fab 2 | イスラエル・ミグダル・ハエメク | 200mm | RF・BCD |
| Fab 3 | 米国・カリフォルニア州ニューポートビーチ(旧Jazz Semiconductor) | 200mm | RF CMOS・SiGe |
| Fab 4/5 | 米国・テキサス州サンアントニオ | 200mm | 電力・アナログ |
| Fab 6(TPSCo) | 日本・新潟県胎内市 | 300mm | SiPho・先端パッケージング(2027年Q4転用予定) |
| Fab 7(TPSCo) | 日本・富山県魚津市 | 300mm | SiGe・シリコンフォトニクス(主力) |
| Fab 8 | イタリア・アグラーテ(STMicroelectronics共有) | 300mm | SiPho・SiGe |
| Fab 11X(Intel提携) | 米国・ニューメキシコ州リオランチョ | 300mm | 65nm BCD・RF-SOI |
注目すべきは300mmファブが日本(富山・新潟)・イタリア・米国(Intel提携)と分散していることだ。150mm・200mmの旧世代ファブはイスラエル・米国に多いが、最先端の300mmラインはすべて海外にある。特に日本のTPSCo(Tower Partners Semiconductor)が2027年以降のSiPho量産の中核を担う計画だ。
Intelが54億ドルで買収しようとした理由と失敗
Tower Semiconductorの名が世界的に広く知られるようになったきっかけは、2022年2月のIntelによる買収発表だ。買収額は54億ドル(当時のレートで約6,000億円超)。この金額が示すように、IntelにとってTowerは単なる「買い物」ではなかった。
なぜIntelはTowerを欲しがったのか
2021年にCEOに就任したパット・ゲルシンガーは「IDM 2.0」戦略を打ち出した。
Intelが自社製品だけでなく外部顧客向けにもファウンドリサービスを提供する「Intel Foundry Services(IFS)」を立ち上げる計画だ。
しかしIntelが気づいたのは、最先端ロジックプロセスは持っていても、アナログ・RF・電力といった特殊プロセスのノウハウを自社内に持っていないという事実だった。
外部顧客がファウンドリに求めるのは最先端ロジックだけではない。
Towerの特殊プロセス技術とグローバルファブ網を手に入れることで、IFSを「ワンストップのファウンドリ」に育てようとしたのだ。
なぜ失敗したのか
2023年8月、合意期限までに中国規制当局が承認を出さず、買収は破談に終わった。Intelは契約条件に従い、解約料3.53億ドルをTowerに支払った(出典:EE Times Japan, 2023年8月)。
そもそもなぜ中国の承認が必要だったのか
「イスラエル企業をアメリカが買収するのに、なぜ中国の許可が必要なのか」と疑問に思う読者もいるだろう。答えは、グローバルM&Aにおける独占禁止法審査の仕組みにある。
中国の独占禁止法は、取引当事者のいずれかが中国国内で一定規模以上の売上を持つ場合、その企業の国籍や取引場所を問わず審査権限が発生するという構造になっている。具体的には「取引当事者の中国国内合計売上が40億元超、かつ少なくとも2社が各4億元超」などの閾値を満たせば届け出義務が生じ、SAMR(国家市場監督管理総局:中国の公正取引委員会に相当)の承認が取引完了の前提条件となる。
IntelはCPUやAI半導体を中国市場に大量に販売しており、中国国内に大連・成都の製造拠点まで持っていた。TowerもアナログやRFプロセスで製造したチップを中国の通信機器・家電メーカー向けに供給していた。両社合計の中国売上は閾値を大幅に上回り、SAMRへの届け出と承認取得は避けられなかった。
米中摩擦が「審査の武器化」を生んだ
問題は「なぜSAMRが期限内に承認を出さなかったか」だ。IntelがTower買収を発表した2022年2月から破談の2023年8月まで、米中間の半導体摩擦は急速に激化していた。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2022年2月 | Intel、Tower買収を54億ドルで発表 |
| 2022年10月 | 米国商務省が対中半導体輸出規制を大幅強化(先端ロジック・HBM・製造装置を包括規制) |
| 2023年初 | 日本・オランダも対中輸出規制に参加(ASML・東京エレクトロンのツール規制) |
| 2023年4月・7月 | IntelのCEOゲルシンガーが直接中国を訪問し承認を働きかけるも不調 |
| 2023年7月 | 中国がガリウム・ゲルマニウムの輸出規制で対抗措置を発動 |
| 2023年8月 | 合意期限到来。SAMRは承認も否認も出さず——破談成立 |
SAMRの強みは「審査中」という状態を無期限に維持できる点にある。最終的に「否認」という決定を出す必要はなく、合意期限が来るまで何もしなければ自動的に取引が消滅する。これは「審査の武器化(Weaponization of Merger Review)」と呼ばれるパターンだ(SemiconPortal, 2023年7月)。
この手法には前例がある。2018年のQualcomm/NXP Semiconductors買収(440億ドル)でも、米中貿易戦争が激化する中で中国の独占禁止当局が期限直前まで承認を保留し続け、最終的に期限切れで破談となった。Intel/Tower買収は同じパターンを5年後に繰り返した形だ(Fortune, 2023年8月)。
中国側の動機は2つあったと見られている。第1に米国の輸出規制への報復。先端半導体技術を中国から遮断しようとする米国に対し、M&A審査を交渉カードとして活用した。第2に中国ファウンドリ産業の保護。IntelがTowerの特殊プロセス技術を取り込めばIFS(Intel Foundry Services)はSMICや華虹半導体の強力な競合になりうる。中国当局にとって、この買収を阻止することは自国半導体産業を守ることでもあった(EE Times Japan, 2023年8月)。
破談から3週間でパートナーシップに転換
注目すべきは、破談からわずか3週間後の2023年9月に、TowerとIntelが「戦略的ファウンドリパートナーシップ」を発表したことだ。Intelのニューメキシコ州リオランチョのFab 11XにTowerの65nm BCD・RF-SOI工程を移植し、Tower側が最大3億ドルの設備投資を行う内容だ。
「買収は失敗したが、技術パートナーシップは成立した」という結末は、双方にとって次善の策だったが、Tower単体でも成長戦略を描けることを示した。
2026年の最新動向:シリコンフォトニクスが成長の主エンジンに
2026年のTowerを語る上で欠かせないのが、シリコンフォトニクス(SiPho)の急成長だ。
AIデータセンターではGPUクラスター間の大量データを超高速で転送する必要があり、従来の銅配線は1.6Tbps超の帯域幅で物理的な限界に達しつつある。これを光信号で置き換えるのがシリコンフォトニクスを使った「光インターコネクト」だ。
- 2026年5月:2027年向けSiPho受注額13億ドルを確定(前払い金2.9億ドルを受領)
- 2026年6月:Marvellと連携し、AIデータセンター向けコヒーレントフォトニックICを500万個以上出荷
- 2026年7月14日:日本に30億ドルの投資計画発表。METI補助金10億ドル(約1,600億円)を含む
日本投資の内訳は2トラックだ。Fab 6(新潟・胎内市)を300mm SiPho・先端パッケージングラインに転用し2027年Q4の稼働を目指す「Track 1」と、Fab 7(富山・魚津市)の隣接地に新300mm施設を建設する「Track 2」だ。日本政府がこの投資にMETI補助金で応じた背景には、AI光デバイスの国産サプライチェーン確立という政策目標がある。
2028年に向けた成長ロードマップ
| 指標 | 2025年実績 | 2028年目標 | 成長率 |
|---|---|---|---|
| 売上 | 15.66億ドル | 36億ドル | +130%(3年間) |
| 純利益 | 非公開 | 12億ドル | — |
| SiPho受注(2027年向け) | 13億ドル確定済み | さらに拡大見込み | — |
2028年目標の売上36億ドルは現状の2.3倍だ。この目標の実現性はSiPhoの量産立ち上げスケジュール(2027年Q4、Fab 6)と、日本・イタリアの300mmファブへの移行速度にかかっている。
競合との比較:特化型ファウンドリの世界地図
| 企業 | 売上規模 | 主力プロセス | 地理的強み |
|---|---|---|---|
| Tower Semiconductor | 15.66億ドル(2025年) | SiPho・RF-SOI・SiGe・BCD | イスラエル・日本・米国 |
| GlobalFoundries | 約74億ドル(2024年) | RF-SOI・SiGe・FD-SOI | 米国・欧州・シンガポール |
| X-Fab | 非公開(独立系中堅) | アナログ・パワー(車載特化) | 欧州・マレーシア |
| UMC | 約56億ドル | 成熟CMOS全般 | 台湾・日本・シンガポール |
最も直接的な競合はGlobalFoundriesだ。RF-SOIとSiGeの両方でTowerと重なる。ただしGlobalFoundriesはかつてSiPho事業を縮小・撤退した経緯があり、Towerがその空白を押さえる形でSiPho市場での優位性を確立している。
X-Fabは欧州自動車メーカー向けのアナログ・パワープロセスに特化しており、Towerとの重複は限定的だ。UMCは成熟プロセス全般が主力であり、特殊プロセスの深さではTowerに劣る。
まとめ──「TSMCが来ない場所」で世界シェアを取る戦略
Tower Semiconductorの30年の歴史を一言で表すなら「TSMCが来ない場所で一番になる」という戦略の実行だ。最先端ロジックの消耗戦を避け、シリコンフォトニクス・RF・SiGe・BCDという難易度が高いぶんだけ競合が少ない特殊プロセスに特化したことが、今日の成長の源泉だ。
Intelの54億ドル買収提案が示すように、この「特殊プロセスのノウハウ」は代替が難しい。買収こそ失敗したが、その事実がTowerの希少性を証明している。
そして今、AIデータセンターのボトルネックを解消するシリコンフォトニクスが急需要を集める中で、Towerは最大の恩恵を受けるポジションに立っている。2027年のFab 6(新潟)稼働・2028年の売上36億ドル目標達成が実現すれば、Tower Semiconductorは特化型ファウンドリの世界王者として確立した地位を得ることになる。
各技術の詳細は以下の関連記事で解説する。
- シリコンフォトニクス(SiPho)──AIデータセンターで銅配線を光に置き換える技術
- Tower Semiconductorの日本戦略──富山・新潟ファブへのMETI補助金1,600億円
- IntelがTowerを54億ドルで買収しようとした理由と失敗
- SiGe・BiCMOSプロセス──5G・ミリ波・AIレーダーを支える高周波技術














