三重県が今後10年間で計4,000人程度の半導体技術者を新たに確保する必要があるとの試算を示した(読売新聞オンライン)。キオクシアの四日市工場を核とする半導体産業の集積地である三重県は、電子部品出荷額が全国1位でありながら、技術者の供給が追いついていない。県・大学・企業が「みえ半導体ネットワーク」を軸に産官学連携を進め、人材派遣大手が研修施設を新設するなど、具体的な動きが始まっている。

三重県の半導体集積地としての実力──電子部品出荷額で全国1位

三重県の電子部品・デバイス・電子回路の2024年出荷額は1兆8,040億円で、全国シェア11%を占め全国1位である(読売新聞オンライン)。2位の長野県(7,895億円)を2倍以上引き離しており、日本国内で最も電子部品の生産が集中する県といえる。

この集積の中心にあるのがキオクシアの四日市工場である。NAND型フラッシュメモリの世界最大級の生産拠点として、四日市を起点に装置メーカーや材料メーカーが周辺に立地し、厚みのあるサプライチェーンが形成されてきた。四日市工場の生産体制や投資計画の詳細は「キオクシア四日市工場の全貌──世界最大級のNAND拠点・Y7棟・5兆円投資と北上との役割分担」で整理している。

世界的に見ても半導体市場は拡大基調にある。WSTS(世界半導体市場統計)によると、2026年の世界半導体市場は前年比90%増の1兆5,112億ドルと予測されている。日本市場は円換算で34%増の8兆9,626億円の見通しだ。市場の急拡大は三重県を含む国内の生産拠点に増産圧力をかけ、それが人材需要の押し上げにつながっている。

項目内容
電子部品出荷額(2024年)1兆8,040億円(全国1位・シェア11%)
全国2位との差長野県7,895億円の約2.3倍
主要工場キオクシア四日市工場(NAND型フラッシュメモリ)
今後10年間の人材需要(県試算・発表ベース)約4,000人の半導体技術者が新たに必要
みえ半導体ネットワーク県内27社・三重大学・高等専門学校が参画(2023年設立)
2026年の世界半導体市場(WSTS予測)1兆5,112億ドル(前年比90%増)
2026年の日本半導体市場(WSTS予測)8兆9,626億円(前年比34%増・円換算)

キオクシア四日市工場を核とするサプライチェーンの広がり

キオクシアは四日市市にNAND型フラッシュメモリの大規模生産拠点を保有している。BiCS FLASH技術を用いた3次元フラッシュメモリの量産を担い、世界のデータストレージ需要を支える拠点の一つだ。

半導体工場が1拠点立地すると、その周辺には製造装置のメンテナンス拠点、フォトレジストや特殊ガスなどの材料供給拠点、物流施設、さらには社員寮や飲食店といったインフラまで連鎖的に生まれる。キオクシア四日市の場合、すでに数十年にわたりこうした関連企業が集まっており、他の新興拠点とは異なる「既存集積」の厚みを持つ。

キオクシアの企業としての経営構造や収益の特徴を知りたい場合は「キオクシアとは?NAND専業メーカーの強みと弱み──営業利益が8年ぶり最高になった構造」を参照してほしい。また、半導体サプライチェーン全体の構造──設計・前工程・後工程・装置・材料がどう連動するか──は「半導体サプライチェーンの全体像|川上・川中・川下の流れと各層の役割を解説」で図解している。三重県に立地する企業がサプライチェーンのどの層に位置するかを把握する助けになるだろう。

ブレクサ・テクノロジーが四日市に研修施設を新設──年間最大480人の派遣を計画

人材派遣大手のブレクサ・テクノロジーは、四日市市に半導体技術者向けの研修施設を新設した。同社にとって福岡・長崎に続く3カ所目の拠点となる(読売新聞オンライン)。

この施設の特徴は、半導体回路を描く工程(リソグラフィなど)で使われる本物の装置を備えている点にある。座学だけでなく実機を用いた訓練ができるため、研修修了後に現場への即戦力として送り出すことを目指している。年間最大480人を派遣する計画で、発表ベースの数字ではあるが、10年間で4,000人という県の試算に対して年間480人は大きな割合を占める。

ブレクサ・テクノロジーが拠点を福岡・長崎・四日市の順に展開していることから、TSMC熊本関連の九州に続いて、キオクシア四日市関連の東海地方を次の成長市場と見ていることがうかがえる。派遣型の人材育成は、企業が自社で研修を行う負担を軽減すると同時に、異業種からの転職者にとっても半導体業界に入る現実的なルートになり得る。

みえ半導体ネットワーク──県内27社・三重大・高専の産官学連携

2023年に設立された「みえ半導体ネットワーク」は、三重県における半導体人材の育成と確保を目的とした産官学連携の枠組みである。県内27社に加え、三重大学および高等専門学校が参画している。

産官学連携の枠組みが必要とされる背景には、半導体製造に必要な人材の多様さがある。一つの工場を動かすだけでも、次のような幅広い職種が求められる。

  • 前工程のクリーンルームオペレーター(ウェハ処理・検査)
  • プロセスエンジニア(成膜・エッチング・リソグラフィ工程の条件最適化)
  • 製造装置のメンテナンス技術者
  • 品質管理・歩留まり改善の担当者
  • ユーティリティ管理(電力・ガス・純水・排気の供給設備)
  • 生産管理・SCM(サプライチェーンマネジメント)

大学では材料工学や電子工学を専攻する学生の育成が、高専では実践的な装置操作スキルを持つ技術者の育成が、それぞれ期待されている。企業側もインターンシップの受け入れや共同研究を通じて、学生が卒業後に三重県内で働くきっかけをつくる狙いがあるとみられる。

同様の産官学連携は、TSMC進出を契機とした熊本県やRapidusの工場建設が進む北海道でも進んでいる。三重県は既に半導体産業の集積があるという点で先行しているものの、人材獲得という面では他地域との競争にさらされている。

県外進学者のUターン就職が課題──熊本・北海道との人材争奪

三重県の調査では、県外に進学した学生のUターン就職が少ないことが課題として指摘されている。三重県出身の理工系学生が名古屋・大阪・東京の大学に進学し、そのまま大都市圏で就職するケースが多いとみられる。

他方で、国内の半導体採用市場は全国的に過熱している。熊本県ではTSMCの第1工場が稼働を開始し、北海道千歳市ではRapidusの工場建設が進む。さらに宮城県ではSKハイニックスの進出に関する報道も出ている。これらの地域はいずれも新規工場であり、ゼロから数千人規模の採用を行う必要があるため、求人市場への影響は大きい。

三重県の強みは、サプライチェーンが既に存在し、企業間の取引関係や生活インフラがそろっている点だ。新興拠点では「工場はできたが住む場所がない」「飲食店や学校が足りない」といった課題が報じられることもあるが、四日市エリアではそうした基盤が整っている。一方で「名古屋まで30分圏内」という利便性は、裏を返せば名古屋の求人と常に比較される立場でもある。

半導体業界の年収水準や職種ごとの違いを知りたい場合は「半導体業界の年収はなぜ高い?企業タイプ・職種別の違いと平均年収の正しい読み方」を参照してほしい。また、他業種から半導体業界への転職を検討している場合は「他業種から見る半導体業界入門|あなたの経験はどの層で活きるのか」が参考になるだろう。

採用・求人の観点──三重県で半導体技術者として働くには

4,000人という人材需要は、キオクシア本体だけでなく周辺の装置・材料メーカー、メンテナンス企業、物流・施設管理など幅広い職種を含むとみられる。半導体工場の運営にはクリーンルーム内のオペレーターだけでなく、ユーティリティの管理や安全衛生の専門家も必要となるためだ。

ブレクサ・テクノロジーの研修施設のように、未経験者を受け入れて数カ月の研修を経て派遣するモデルが広がれば、半導体以外の製造業やサービス業からの転職ルートも開かれる可能性がある。ただし、具体的な募集条件や時期は各社の発表を確認する必要がある。

就活生にとっては、三重大学や高専を経由して県内企業へ就職するルートに加え、県外の大学からUターンで戻るルートも選択肢となる。みえ半導体ネットワークが今後インターンシップや合同説明会を拡充するかどうかが、Uターン促進のカギを握るだろう。

日本国内の半導体メーカーの全体像を把握したい場合は「日本の半導体メーカーランキング2025-2026|素子別の強み・装置材料・Rapidusまで徹底解説」も参考になるだろう。

今後のスケジュールと注目すべき節目

三重県の半導体人材確保に関して、今後注目すべきポイントを以下に整理する。

  • ブレクサ・テクノロジーの四日市研修施設からの派遣実績──年間最大480人の計画がどの程度実現するか。初年度の実績が今後の増設判断を左右する
  • みえ半導体ネットワークの参画企業数の推移──現在の27社からどこまで拡大するか。装置・材料メーカーの参画が増えればネットワークの実効性が高まる
  • 三重大学・高専での半導体関連カリキュラムの具体化──新設講座や企業との共同研究の発表があるか
  • キオクシア四日市工場の設備投資計画の続報──生産能力の拡張は人材需要に直結する。業界全体の設備投資動向は「半導体の設備投資2026|業界合計2000億ドル、増やす会社と半減させる会社」で整理している
  • 県外進学者の呼び戻し施策──Uターン就職向けのインターンシップや奨学金制度が具体化するか

4,000人という数字は10年間の累計であり、短期的に達成・未達が判明するものではない。まずは研修施設の派遣実績やネットワーク参画企業数の変化を年単位で追い、人材供給の進捗を計る必要がある。

よくある質問

三重県で半導体技術者が4,000人必要という試算の根拠は?

三重県が今後10年間の需要を試算した発表ベースの数字である(読売新聞オンライン)。キオクシアを中心とした県内の半導体関連企業の増産計画や退職補充を含むとみられるが、試算の詳細な前提条件は公開情報からは確認できていない。

半導体の経験がなくても三重県で半導体技術者として働けるのか?

ブレクサ・テクノロジーの四日市研修施設は、実機を使った訓練プログラムを備えており、未経験者を対象とした育成・派遣を目指している。ただし、具体的な応募条件や選考プロセスは同社や各企業の公式情報で確認する必要がある。

みえ半導体ネットワークに参画している企業名は公開されているか?

2023年の設立時点で県内27社が参画しているが、個別の企業名は今回の報道では詳細に示されていない。三重県の公式発表や同ネットワークの公式サイトで最新の参画企業リストを確認することを推奨する。

熊本や北海道と比べて三重県の半導体産業にはどのような強みがあるか?

三重県はキオクシア四日市工場を中心に、数十年にわたり半導体産業の集積が形成されてきた。電子部品出荷額1兆8,040億円・全国1位という実績が示すとおり、装置・材料メーカーの拠点やメンテナンス体制がすでに整っている。熊本や北海道は新規工場の立ち上げ段階にあり、サプライチェーンを一から構築する必要がある点で状況が異なる。一方、三重県は新しいブランドイメージに乏しいともいわれ、Uターン促進の面では他地域に比べ知名度面の課題を抱えている。

三重県以外で半導体関連の人材育成が進んでいる地域は?

TSMC進出に伴う熊本県、Rapidusの工場建設が進む北海道千歳市がよく知られている。宮城県でもSKハイニックスの工場建設に関する報道がある。各地域が産官学連携の枠組みを整えつつあり、全国的に半導体人材の争奪が激化する構図となっている。

参考にした主な資料