ロームのAIサーバー向け次世代パワー半導体|SiC・GaN・Si「共存」戦略と赤字からの逆転シナリオ

AIサーバーの語り口はGPUとメモリ(HBM)が中心ですが、実は今、業界がもうひとつ頭を抱えている問題があります。「電力」です。GPU1個で1kW級、ラック1本で100kWを超える電力を、いかに無駄なく変換してチップに届けるか——この戦場で存在感を高めているのが、京都のパワー半導体大手ローム(東証プライム: 6963)です。
ロームは2026年7月28日の報道向けセミナーで「パワー半導体は役割分担から共存の時代になる」という考えを示しました(日本経済新聞)。本記事では、AIサーバーの電源がなぜ難題なのか、Si・SiC・GaNという3つのパワー半導体の使い分け、そしてロームの最新の動きと勝算を解説します。
ロームとはどんな会社?
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 社名 | ローム株式会社 |
| 証券コード | 6963(東証プライム) |
| 本社 | 京都市 |
| 主力 | パワー半導体(SiC・Si)、アナログIC、トランジスタ・ダイオード |
| 特徴 | SiC(炭化ケイ素)パワー半導体の世界的先行企業。GaNデバイス「EcoGaN」も展開 |
ここで正直に書いておくべき文脈があります。ロームの2026年3月期は、パワー半導体事業で約1,936億円の減損を計上し、最終損益は1,584億円の赤字に沈みました(日経報道)。主因はEV市場の減速です。SiCはEVの心臓部向けに巨額の先行投資をしてきた分野で、その需要が想定を下回ったダメージは深刻でした。だからこそ、急拡大するAIサーバー電源は、ロームにとって投資を回収する「第二の出口」として極めて重要なのです。
AIサーバーの電源は、なぜそんなに難しいのか
データセンターの電力の流れを単純化すると、「系統電力 → 電源ユニット(PSU)でAC-DC変換 → サーバー内のバスで配電 → GPU直近のVRMで約1Vの大電流に変換」という多段変換になっています。各段で数%ずつ電力が失われるため、変換効率をコンマ数%上げるだけで、データセンター全体では発電所レベルの電力が節約できる構造です。
- 電力の桁が違う: AI学習用GPUは1個で数百W〜1kW級。ラック単位では従来サーバーの10倍近い電力密度
- 効率=冷却=お金: 変換ロスはすべて熱になり、冷却コストに跳ね返る
- スペースがない: 電源はGPUに場所を譲る立場。小さく・高効率にの二律背反を解く鍵が新材料デバイス
国内でも秋田の500MW級をはじめ大型AIデータセンター計画が相次いでおり(秋田AIデータセンター計画の解説)、「電力をどう効率よく届けるか」は業界全体の最重要課題になっています。
Si・SiC・GaN — 「役割分担」から「共存」へ
パワー半導体には材料の異なる3系統があり、それぞれ得意な電圧・周波数帯が違います。
| 材料 | 特徴 | AIサーバー電源での持ち場 |
|---|---|---|
| Si(シリコン) | 安価・成熟。低耐圧領域では今も最強 | GPU直近のVRM、低圧DC-DC(大量に使われる) |
| GaN(窒化ガリウム) | 超高速スイッチング。高周波化で周辺部品を小型化できる | PSU内部のPFC・LLC段。電源の小型化・高密度化の主役 |
| SiC(炭化ケイ素) | 高耐圧・大電流・高温に強い | 高電圧の入口側、BBU(バッテリーバックアップ)、次世代HVDC給電 |
かつては「EVはSiC、急速充電器はGaN」のように用途で棲み分ける「役割分担」のイメージでしたが、AIサーバーの電源では1つの電力チェーンの中にSi・SiC・GaNが同居します。ロームの言う「共存の時代」とは、この構造変化のことです。そしてロームは、SiC・GaN・Siの3つすべてを自社で持つ数少ないメーカーであり、共存時代は総合力が活きる局面といえます。
ロームの具体的な動き — 採用実績が積み上がってきた
① 新世代SiCで「電気抵抗3割減」(2026年4月発表)
ロームはEV・AIサーバー向けの新型SiCパワー半導体を開発し、素子の構造と製造手法の見直しで電気抵抗(オン抵抗)を約3割低減しました(日経報道)。オン抵抗は通電時の損失そのものなので、抵抗3割減は発熱3割減に直結し、同じ電流ならより小さなチップで済む=小型化・低コスト化にもつながります。
② 750V耐圧SiC MOSFETがAIサーバーのBBUに採用(2026年5月発表)
ロームのSiC MOSFET「SCT4013DLL」が、AIサーバー電源のBBU(バッテリーバックアップユニット)に採用されました。BBUは停電の瞬間にGPUクラスタを守る電池ユニットで、大電流を瞬時に流し込む過酷な用途。高耐圧・大電流に強いSiCの独壇場であり、後述するHVDC(高電圧直流給電)アーキテクチャのキーデバイスと位置づけられています。
③ GaN「EcoGaN」が村田製作所グループのAIサーバー電源に採用(2025年2月発表)
ロームのGaNデバイス「EcoGaN」は、Murata Power SolutionsのAIサーバー向け電源に採用されています。GaNの高速スイッチングは電源の高周波化=小型化の切り札で、限られたラック空間に大電力の電源を押し込むAIサーバーと相性抜群です。
④ Si MOSFETも「業界トップ級」で参戦(2025年5月発表)
地味ながら、AIサーバー向けSi MOSFETでも安全動作領域(SOA)とオン抵抗の両立をうたう新製品を投入。VRMなど大量に使われる低圧領域も取りにいっており、まさに「Si・SiC・GaN総動員」の布陣です。
次の主戦場 — HVDC(高電圧直流給電)への移行
今後の大きな流れが、データセンター給電のHVDC化です。ラックの電力が100kWを超えると、従来の48V配電では電流が大きくなりすぎ、配線の損失と太さが限界に達します。そこで400V〜800V級の直流でラックまで送り、そこから一気に降圧するアーキテクチャへの移行が業界で検討されています。
電圧が上がるほど、高耐圧に強いSiCの出番は構造的に増えます。ロームのSiCがBBUに採用されたのは、まさにこのHVDC時代の布石です。EV向けに磨いてきた高耐圧SiC技術がデータセンターで活きるという、投資の「転用」が成立しつつあるのが現在地といえます。
投資家目線での注目ポイント
- AIサーバー向け売上の立ち上がり速度: 採用発表が売上・利益にどれだけ寄与するか。EV減速の穴を埋める規模になるかが最大の論点
- 減損後の身軽さ: 1,936億円の減損は痛みだが、その分、償却負担が軽くなった状態でAI需要を迎えられる側面もある
- 競合: SiCではInfineon・STMicroelectronics・onsemiなど欧米大手と激戦。GaN専業勢(Navitas等)との競争も激しい
- リスク: AIサーバー電源の規格・アーキテクチャはまだ流動的。HVDC移行のスピードが想定より遅れれば、SiCの出番も後ずれする
※本記事は企業・技術の解説であり、特定銘柄の売買を推奨する投資助言ではありません。
よくある質問(FAQ)
Q. パワー半導体とGPUなどの半導体は何が違うのですか?
A. GPUが「計算する」半導体なのに対し、パワー半導体は「電力を変換・制御する」半導体です。電圧を変えたり、電流をオン・オフしたりするスイッチの役割で、効率(損失の少なさ)が性能のすべてと言ってよい分野です。
Q. なぜSiCやGaNだと効率が上がるのですか?
A. 材料としてシリコンより絶縁破壊に強く、同じ耐圧をより薄く・小さな素子で実現できるためです。その結果、通電時の抵抗やスイッチング時の損失が減り、発熱が減って電源全体を小型化できます。
Q. ロームは赤字なのに大丈夫なのですか?
A. 2026年3月期の赤字はEV向けSiC投資の減損という一過性費用の影響が大きく、事業が消えたわけではありません。むしろ問題は「先行投資したSiC能力の使い道」であり、AIサーバー電源はその有力な回答になりつつあります。ただし売上への寄与はこれからで、立ち上がり速度の見極めが必要です。
Q. AIサーバーの電源で他に恩恵を受ける部品はありますか?
A. 電源の平滑・デカップリングに使われるMLCC(積層セラミックコンデンサ)も搭載数が急増しています。詳しくは太陽誘電の会社分析(BBレシオ1.72の衝撃)で解説しています。
まとめ
- AIサーバーはGPUだけでなく「電力変換」が主戦場。効率コンマ数%が冷却コストと電気代を左右する
- ロームは「役割分担から共存へ」を掲げ、Si・SiC・GaNの3材料すべてでAIサーバー電源に参戦
- 新型SiCのオン抵抗3割減、750V SiC MOSFETのBBU採用、EcoGaNの電源採用と、実績が着実に積み上がる
- EV減速による減損1,936億円という痛手を、HVDC化が進むデータセンターへの技術転用で取り返せるかが今後の焦点
出典: 日本経済新聞「ローム、パワー半導体『役割分担から共存へ』」(2026年7月28日)/日本経済新聞「ローム、車載向けSiCパワー半導体 電気抵抗3割減」(2026年4月)/PEAKS MEDIA「ローム、SiC MOSFETがAIサーバー向けBBUに採用」/ローム公式「EcoGaNがMurata Power SolutionsのAIサーバー向け電源に採用」
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